アンディーメンテ行きレインボートレイン ☆----------------------------------------------☆  アンディーメンテ行きレインボートレインは、社会にどうしても適応できない人のためのライフラインです。  痛みを分かち合える仲間が待っています。  苦しい毎日から抜け出しましょう。  あなたの最寄り駅に、虹色の列車が迎えに来ます。 ☆----------------------------------------------☆ ※対応が遅れることがあります  アンディーメンテ行きレインボートレインは個人が片手間でやっております。  そのため、返信やお迎えにたいへん時間が掛かる場合があります。  どうかご理解の上ご応募下さい。 ※返信が来ないという人へ  応募すると、返信まで3日ほど掛かることがあります。  よほど返事が来ない場合は、正しく届いていないか、または返信メールが迷惑メール扱いになっている可能性があります。  ご確認の上、再度ご応募頂くか、お問い合わせフォームよりご連絡下さい。 ※なかなかお迎えが来ない人へ  お迎えまでに2週間程掛かる場合があります。  が、1ヶ月も待たされることはありません。  よほどお迎えがない場合はご連絡下さい ※興味本位の応募はご遠慮ください。  会社や学校での生活、親兄弟を含める人間関係などを、現在の生活のすべてをかなぐり捨てる気持ちでご応募下さい。  ふざけ半分や興味本位で参加しないで下さい ☆----------------------------------------------☆  死にたいという気持ちが溢れてきたときは、どうすればいいんだろう。  何もやりたいことがない。  外に出るのも、まるで砂漠を放浪するみたいに苦しい。 ☆----------------------------------------------☆  隣の部屋から話し声が聞こえてくる。  妹がまた男を連れ込んでいる。  妹は私を人間として見ていない。  たまに廊下ですれ違うと、こちらに目も合わせようとしない。  無視されている。  私も自分から声をかけようとはしない。  パンダみたいにキツいアイメイクが怖かった。  ギャハハハハ、という笑い声が聞こえてきた。  どうせ、これからもっと嫌な音も聞こえてくるだろう。  私はヘッドホンをつけてAM ELECTRONICAを流し、音量をMAXにした。  川の水がつまづいて波立つところみたいな。  透き通った静かなノイズに包み込まれる。  母親にあやされた赤ん坊のように、心は落ち着きを取り戻す。  心地よい。  ここには何もない。  締め切ったカーテンから漏れる光も、今はきれいに見える。  真っ白な画面の中に浮かび上がっては消えるいくつもの、小さなチリのイメージが自然と浮かび上がってきた。  きっとじすさんも、同じイメージを見ながらこの曲を作ったんだろうと思った。 「じすさん・・・」  じすさんに会いたいと思った。 ☆----------------------------------------------☆  日に何度も、うつ症状が発症する。  ふとしたことで嫌なことを思い出してしまうと、気が沈んでしまうのを止められない。  友達だと思ってた子に言われた悪口がエコーする。  死にたいと思う。  死にたい、とつぶやく。  死にたいとブログに書く。  そうして少しでも吐き出さないと、気が狂ってしまいそうだった。  死なせてよ。死なせてよ。いい子にするから死なせてよ。迷惑かけないから死なせてよ。  カミソリを不適切な用法で使用して、見えない何かを痛めつけて、自分の中の幼な子を必死になだめる。  ……今、何考えてたんだっけ。 ☆----------------------------------------------☆  また階段で妹と出くわす。  しまったと思った。  間の悪いことに、妹が彼氏を部屋に上げようとしているときだった。  私は二人から顔を背ける。  階段ですれ違えるように、壁に背をつけて、ずり・・・と降りる。  妹は聞こえよがしにため息をつきながら階段を上っていった。  後から上ってきた色黒の彼氏はペコッと頭を下げて、「お邪魔します」と小さく言った。 ☆----------------------------------------------☆  たまにアンディーメンテのオフが開催される。  行ってみたいと思う。  けど、名古屋住まいの私には少し荷が重い。  それに新幹線に乗るお金も無い。  もう行かなくなった高校のクラスメートはバイトをしてる子もいたみたいだった。  けど、私にはそんなこととても無理だ。  親にお金を頂戴とお願いするのも、ひどく気が重い。  オフについては、最初から行けないもの、と思った方が気が楽だった。  それに、行ったって楽しいことがあるとは限らないじゃないか。 ☆----------------------------------------------☆  死にたい。 ☆----------------------------------------------☆  午前04:13。  リロードしたまおうせいの白いトップページに、異物を見つけた。  それは見えないリンクだった。  見た目上は何もない白い壁紙だし、ページを全選択しても選択範囲にフォローされない。  けどTabを何度か押していると、その見えないリンクが選択される。  それは確かにあった。  じすさんがこうやって更新を隠すことはよくあることだった。  私はその見えないリンクが選択された状態でEnterを押し、新しい更新のページを開いた。  ページが切り替わったら、内容を見るよりも先にまずブックマークをしておいた。  じすさんがページを残したまますぐリンクを切ってしまうこともあるからだ。  ページは真っ黒。  背景画像はじすさん手書きの星がちりばめられていて、途中で切れて反復していた。  そしてページの一番上には、本文と変わらない白文字でこう書いてあった。 「アンディーメンテ行きレインボートレイン」。  その下に、大きな横長の画像。  宇宙空間を突き進む、列車だった。  青く光る地球をはるか眼下に見下ろし、遠く遠くに輝く一点の星を目指して突き進んでいる。  先頭車両の煙突から、もくもくと上がる煙。  列車の側面に描かれているのは、虹色のライン。  子供が描いたみたいにぐにゃぐにゃした、グーグーとかチュルホロとかの絵。  レールはない。  車輪は何も無い空間とぶつかり摩擦しているかのように、激しく火花を散らせていた。  他では絶対に味わえない感覚にときめきながら、私はページをスクロールさせていった。 ☆----------------------------------------------☆  アンディーメンテ行きレインボートレインは、社会にどうしても適応できない人のためのライフラインです。  痛みを分かち合える仲間が待っています。  苦しい毎日から抜け出しましょう。  あなたの最寄り駅に、虹色の列車が迎えに来ます。 ☆----------------------------------------------☆  必要なもの  筆記用具、トランク、三日分くらいの着替え(洗濯でローテーションします)、  お風呂セット、汚れ物袋、タオル、傘、USBメモリ(PC・インターネットは共同です)、  ハンカチ、ちり髪、スティックパン、石ころ、じすさんへのラブレター、ビームサーベル、  84mm無反動砲、多連装ロケットシステムMLRS ☆----------------------------------------------☆  最初は、オンライン上の企画か何かだと思った。  いくらじすさんでも宇宙に行くようなイメージは現実的じゃないからだ。  けど、じすさん特有のおふざけが混じった説明を丁寧に読み進めていくと、そうじゃなさそうだった。  必要なものに着替えとかあるし、オフ会のようなものらしい。  私の胸が、きゅ、ときつく締め付けられる。  オフ会の告知を見ると、胸がざわめく。  適わないと分かっているむなしい妄想を、必死に止める。  嫌だ、と思った。  どうせ行けない。  あきらめなきゃ。  見ないようにしなきゃ。  けどのその一方で、オフに参加してじすさんに会える子たちもいる・・・。  気が付くと、私は歯をぎりぎりと食いしばっていた。 ☆----------------------------------------------☆  でも待って。  待って、麻衣子。  ここをよく読んで。 「あなたの最寄り駅に、虹色の列車が迎えに来ます。」  って書いてある。  どういうことだろう・・・。  このオフ企画(?)に申し込めば、駅に行けば、虹色の列車が来てくれるんだろうか。  そんな訳はない。  でもじゃあどういうことなのか、というとさっぱり分からない。  他にその意味が分かりそうな説明もない。  わざわざ絵まで描いてこんなページを作ってるんだから、ただの冗談ということもないだろう。  必要なもののリストも具体的だ。  分からない。  分からないから、私は申し込んだ。  どうせ行けないオフ。  ダメで元々だ。  返事が来て、参加案内が来て、じゃあ東京に来てくださいっていうことなのかも知れない。  それなら仕方が無い。  行けません、って謝ればいい。  それでとにかく、どういう企画かが分かる。  それだけでいい・・・。  そう自分に言い聞かせて、私はじすさんにメールを出した。  申し込みのフォーマットに最寄り駅の欄もあったので、書き込んだ。 ☆----------------------------------------------☆  バーか。 ☆----------------------------------------------☆  返信が来た。  じすさんからだ。 ――では、出発の準備をしておいてください。 ――来週の月曜の午前05:00に////駅に迎えに行きます。 ――時間には絶対に遅れないようにしてください。  と書いてあった。 ☆----------------------------------------------☆  その日は寝なかった。  万が一にも寝過ごしたくなかったからだ。  銀色のトランクにすべてを詰め込んで、私は家を出て行った。  夜明け前の午前四時。  外は誰も歩いていない。  今日に限っては、外を歩くのも苦しくなかった。  どういうオチが待っているのかはさっぱり想像つかない。  駅にいても誰も来てくれないのかも知れない。  けど、じすさんの思いついた何かのために行動を起こすのが楽しかった。  それだけで嬉しかった。  私は駅の改札を抜けた。  一時間も早く着いた。  プラットホームの端で待った。 ☆----------------------------------------------☆  虹色の列車は本当に来た。  もうもうと白い煙を上げて、絵で見たとおりの列車がこの地元くさい駅に来たのだ。  プシューと音を立てて止まった。  先頭車両のドアから、男の人がでてきた。  手に持った紙を確認して、私に微笑みかける。 「こんにちは。えーと、・・・ケーエッチワイさん?」 「はい」  Khy。私のハンドルネームだ。 「なんて読むのこれ」 「なんて読んでもいいです。クーィって私は読んでます」 「じゃあクーィさん。こっちに乗ってください」  じすさんについていって、私は私のタイヤ付きの重いトランクをゴロゴロ引いて列車に乗り込んだ。  ステップの段差でトランクを持ち上げるとき、じすさんも手伝ってくれた。 「すんごい重いね。何入ってるの」 「84mm無反動砲です」 「ああそりゃこのくらい重いなるわ。84mm無反動砲なら」  とじすさんは笑っていった。  私も笑った。  嬉しくなった。 ☆----------------------------------------------☆  出発した列車はどんどん速くなっていき、ついにはレールを離れてしまう。  ビルが、街が、この小さな島国が、どんどん遠く小さく離れていく。  列車は本当に宇宙に行った。 ☆----------------------------------------------☆  暗い宇宙の中で、下に広がる地球だけが明るい。  地上でもなく、地球とも離れすぎてないこの位置が、地球が広いことをまざまざと感じさせる距離だった。  地球は青くて青くて、霧に包まれていて、とんでもなくきれいだった。  地上でのつらい生活が、今ではもう嘘みたいだった。 ☆----------------------------------------------☆  この世界は、ただただきれいだった。  じすさんのゲームみたいに。  もう未練なんてあるはずがない。 ☆----------------------------------------------☆  バイバイ地球。 ☆----------------------------------------------☆