---------------------------------------------------------------------- ●劣悪脳 ---------------------------------------------------------------------- 「いや、冗談でしょ、これ外してよ! いやだ、いやだって言ってるじゃない、  ねえ、私の言葉が分からないの? いや、いやいやいやいやいやいやいやいや!  近寄らないでーーーー!」  言葉には常に、裏の意味がある。言葉だけでなく、身振り手振りにも。 僕のことを好きで好きでたまらない彼女は、あたかも僕が彼女を陵辱しようとしているかのような設定で、 高度に僕を誘っていた。涙を流して、謝ったり怒ったりを何度も往復しながら。  僕は彼女がして欲しいことを察し、先回りしてそれをしてあげる。  たとえば彼女の両手に一つずつかけられ、ベッドの柱に繋げている手錠。  これは、「あくまで僕のことを嫌がっている」という設定で演技をしている彼女を慮っての僕の気遣いだ。  こういう風に拘束してないと、彼女は「嫌がっている」振りをしている訳だから、  さっさと僕の前から逃げ出したりしなくてはならなくなる。そ  れでは彼女の欲望は達成されない。彼女は、僕に無茶苦茶にされたいのだ。  僕は嬉しかった。  彼女は涙まで流して喜びながら、「涙まで流して嫌がっている」演技で僕を誘惑する。  僕も、彼女の欲求に応えたいという気持ちが沸いてくる。  彼女の演技はそれはもう抜群に上手でリアリティがあって、僕も彼女が演出する世界に入り込み、  変質者が女性に対して不埒をはたらこうとするときに感じるであろう背徳感をまざまざと感じ、  激しく興奮した。  それにしても、彼女はたいへんな変態だ。歪んでさえいる。 「この変態」  そういって彼女を罵る。もちろん彼女がそう望むからだ。演技の世界の中での罵倒だ。  それで彼女が喜んでくれるなら、僕はいくらだって罵倒する。 「何言ってるの……お願いだからやめてよ!」 「おとなしくしろ!」  彼女が「嫌がり」をかなりしつこく続けていた。そこで僕は彼女の隠れた要求に気づいて、 思い切って張り手を食らわせた。彼女の顔が横に倒れる。女性を殴るのには抵抗があったが、 彼女自身が望むのだからしょうがない。彼女はハードな被虐を求める、かなり倒錯した変態であるようだ。 彼女の要求に応えられる男もそうはいないだろう。だ から僕は、彼女がどんなとんでもないことを言い出してもヒかずに、できる限り彼女を受け止め、 その願望を叶えてあげたいと思った。 つづかない ----------------------------------------------------------------------