---------------------------------------------------------------------- ●正気の王 ---------------------------------------------------------------------- 都会から離れた地方の村に、一人の美しい女性、ミナが越してきた。 ミナは美しかったが、その振る舞いは奇妙だった。 夜、一人でその村の墓に行き、何かをして帰ってくる。 ミナは美しかったがゆえに、多くの男が魅了された。 そして多くの男がミナと寝た。 ミナに魅入られた男同士の争い、それからミナに嫉妬する女たちの争いにより、村の雰囲気は悪くなっていった。 その中心でミナは、笑うでもなく、怯えるでもなく、悲しげな瞳で状況を見守っている。 ミナは心の中でほくそえんでいた。 自分の魅力がトリガーとなって状況が攪拌されていくのが愉快だった。 そのことに愉悦を感じていた。 そのためなら、他人がどんな残酷な目に遭おうと、自分の知ったことではなかった。 人間誰しも自己中心的な要素と献身的な要素を持ち合わせているものだが、ミナはそのバランスが極端だった。 人と人との平和なつながりを憎んでいる節さえあり、自己中心性を基盤とした思想/哲学を持っていた。 だから言葉でそれを展開し、精神防御の脆弱な人間を自分の世界に取り込むことができた。 そして彼女の容姿は、人の防御を容易に剥落させた。 狂気は加速し、たまに誰かがミナの家に武器を持って襲ってくるが、ミナはそのことごとくを返り討ちにする。 作られる死体は凄まじい力で骨ごと砕かれている。 ミナのような女性にできる所業ではない。 ミナは痴愚の墓守のヤギを手なづけ、隷属化させていたのだ。 ヤギは昔ある女に恋してフラれたが知能が低くて執念深いためストーカーになったいわくつきの男だ。 ミナはそのヤギの心情を読み取り手に取り掌握し、ポケモンのように自由自在に扱っていた。 東京の大学で都会的青春を謳歌してきたセイゴが東京から帰ってきた。 セイゴ(正誤)は変わり果てた村のありさまに驚く。 セイゴには妹がいたが、妹が恋する男もまたミナに魅入られていたため、妹もその狂気の渦に巻き込まれていた。 セイゴは、自分が何とかしなければという思いにかられる。 セイゴがミナの家を訪ねると、犬小屋につながれていたヤギがいきなり襲い掛かってきた。 セイゴはヤギをブラックジャックで昏倒させる。 ミナの家に上がると、ミナはセイゴに誘惑をしかけてきた。 だがセイゴには通じない。 自分の魅力が通じない状況にミナは狼狽。 セイゴに襲い掛かるが、これもブラックジャックでセイゴが迎撃。 セイゴはミナの耳を引っ張り、村の集会所に連れて行く。 そして日常の、正気の空気を作り、その上でミナを弾劾する。 弾劾は攻撃的なものではなく、合理主義と感情主義のバランスの取れた「常識的」な空気にセイゴが設定して行われた。 これによりミナが悲劇ぶったり妖艶ぶったり狂気ぶったりするのを防ぐ。 そして決して優しくも軽くもないが、重圧でミナを押しつぶすほどではない判決でミナを罰し、その狂気を少しずつ破壊する。 数年後、事件の爪跡が癒え、ミナが完全に正気に取り込まれるころ、セイゴはミナにプロポーズをする。 「だって美人だし。なんだかんだで頭いいし。狂ってなければいい女なんだ」 おわりん ----------------------------------------------------------------------