---------------------------------------------------------------------- ●オマエもオレもどちらも自分/無損失疎通路/リンケージ ---------------------------------------------------------------------- 一人称で書く。多重一人称。 同じ高校に通う、幼馴染同士の佐村亮と向山明海は、 通学途中に頭をぶつけて自我がリンクしてしまった! 記憶や思考や肉体制御はそれぞれ独立したままではあるものの、 その瞬間瞬間の表層の思念がロスレスに伝わり、二人が二人とも、 相手のことを自分自身であると思いこむ妄想を抱いてしまった。 それが妄想であるという自覚は二人は持っているのだが、 相手もまた自分に対して同じ妄想を抱いていることも分かっているので、 結果としてそれは妄想ではなく、また、便利なものとして受け入れた。 二人は当然のように恋仲になる。 相手は自分自身であるから、自分自身を他者として愛することはできないのと同じで、 相手を他者として愛せない。 どうしても自己愛になってしまい、二人は愛には深入りはしない。 だがそれは精神の話であって、肉体は別だ。 亮も明海もストレートに好奇心と性欲を満たした。 明海は美人だが地味な女だった。悪く言えば暗い。 「あんなやつと付き合ってんの?」と言ってくるやつを、血気盛んな亮は殴った。 亮は陽気で優しいスポーツマンだった。もてた。 明海の友達は、「なんであいつが」という感じで明海に嫉妬する。 「あんな女より私を」と亮に言い寄るが、亮は相手にしない。 その女がどうこう言うより、明海が馬鹿にされるのが腹が立つからだ。 明海の家が引っ越すことになった。 明海は反対したが、強気な母親につっぱねられた。食い下がる根性は明海にはなかった。 亮も、はなればなれになりたくない、と明海の母を説得しようとするが、 高校生が不純異性交遊するなって突っぱねられる。 結局明海は引っ越した。 距離が遠くになっても無損失疎通路は維持された。 二人は離れてもあまり困らず、同時に見える違う景色を楽しんだ。 亮は別の女から告白を受けてそいつと付き合ったが、明海にしてみれば 自分のことなので嫉妬の気持ちも起こらず、どうということはなかった。 何も問題ない。 何も、起こらない。 二人は心底、自分が幸せならそれでいいのだ。 日曜にたまに会い、公園の木陰で膝枕をする。 亮は告白してきた女と別れた。 明海がさびしがるからだ。 しかししょせんは自分と自分。 あまりに理解し合いすぎて、慰め合う以上の関係にはなれない。 だが別のリンケージ二人が現れる。 そいつらとたすきがけで恋人になる。(A1×B2、B1×A2) 普通の人間と違って嫉妬がおこらず愉快。 おわり ----------------------------------------------------------------------