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ステッパーズ・ストップ

そのほか

2012年


アリシア01


アリシア



 不老不死の真髄は知識の洗練にある。彼女の生命を永続化させている不可知のシステムは肉体の成長と老化を区別できなかったから、永遠を手にした瞬間から彼女は未発達の少女であり続けた。しかし脳細胞上で起こる知識の獲得と劣化は絶えることがなく、何千年経っても代謝を継続する。容量が限られた器の中で、使われない記憶は次々と破棄されていった。それはものの考え方も例外ではない。類似する思考ルーチンが次々と統合されて一般化し、その容量が節約されつつ、応用範囲の広い端的な真理が哲学として洗練されていく。高度な【答え】ほど単純なのに、そのレベルアップは尽きる気配がない。またそういった普遍の真理を体得しつつも、人の世は盛衰を繰り返しながら鮮やかに移り変わり続けたから、彼女は生に飽きることがなかった。

 添い遂げた男は何人いただろうか。みな老いて、あるいは事故や人災で死んでいった。しかし喪失の悲しみを何十回と味わっても、彼女は伴侶を求め続ける。まるで、死んだ男たちの面影を追いかけるように。転生の絵空事を夢見るように。

 彼女は知っているのだ。思考の若さを保つ秘訣は、凝固した脳細胞を燃え焦がすような、激しい恋と喪失だけであるのだと。彼女は必死に走っている。迫りくる退屈から逃げるように。



 ぼくの部屋の窓が音を立てた。真夜中。
 アリシアがぼくを誘い出した。

 彼女に手を引かれて、ぼくは夜の町を歩いていた。裏通りの路地。窓から漏れる光、光、光。こんな夜遅くにこんな場所をうろついたら母さんはすごく怒るだろう。でもアリシアが一緒なら、何も怖くないと思えた。つないだその手を、ぼくは放したくなかった。

「ねえ、どこまで行くの?」
「どこまで行きたい? ソア」

 アリシアは何でもできる。いつも自信たっぷりで、まるでこの世のすべてを知っているかのようだ。そのアリシアと一緒にいると、自分も彼女のように強くなれるんじゃないかと思う。

「分からないよ。楽しいところなら、アリシアの方が知ってるだろ」
「だって、わたしが知ってるところは、わたしが飽きちゃったもの。ソアがどこを思い浮かべるか、それが大事なんだよ。この世にある場所なら、どこでもいいんだよ。連れてってあげる。帰らなくてもいいなら、海の向こうだって」

 夢みたいなことを言う。でもアリシアが言うのなら、本当にそうなんじゃないかって思えてくる。今までアリシアが口にしてきた、冗談みたいに壮大な言葉が嘘だったことはない。ぼくの親や先生も含めて、アリシアより凄い人に、ぼくは会ったことがない。

「本当に、外国も行けるの? 北極とか南極も? オーロラも見れる?」
「見れるよ。オーロラか、いいね! 冬の国はね、きれいだよ。泣いちゃうくらい、きれいだよ」
「でも、行けないよ。ぼくたちは子供じゃないか」


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