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ステッパーズ・ストップ

そのほか

2011年


トド20




 次の日は雪が積もった。
 起きるべきか起きざるべきかが悩ましく、布団のなかでしばらく迷っていた。朝からカラッと明るくて清々しいんだけど、いかんせん寒くて布団から出たくなかった。いつまでもこうしてる訳にはいかないので、毛布にくるまったまま起きあがり、窓の前に立つ。外は真っ白だった。犬がトコトコ歩いて足跡を残している。
「雪だ」
 布団にまた潜って、その奥の布団時空に逃げ込みたくなるほどの絶景だった。



 数歩歩いただけで靴が雪まみれになった。こんな地獄のような道を駅まで歩かなければならないと思うと気が遠くなりそうだ。けど行かない訳にはいかないので、わたしは新雪にさくさくと穴を空けていく。

 何なのだろう。

 黒野くんはいなくなってしまった。妹さんともども、周りのことなんて気にしてないみたいに。わたしはもやもやと、押しつけられた大きな塊の表面をなぞる。
 学校で授業を聞いても、何も頭に入らなくなった。ただでさえ頭が悪かったわたしだけどさらに分からなくなり、何を見ても聞いてもぜんぜん覚えられなかった。
 三時限目になって、わたしは頭の中にあるものを出さなければならないのだと気づいた。一回掻き出さないと、何も考えられない。でもかと言って、誰かとおしゃべりする気にはならない。今はただ、壁とかお地蔵さんみたいな、こちらが何を話しても一切口を挟まずに全部受け止めてような、そんな相手じゃないと話せない。そんな人いるだろうか。
 言葉にだけできればいいのだと気づいた。わたしは板書もろくに写せていない世界史のノートに、思い浮かんだことを書いていく。最初の一行を書いたら後は、でべろでべろと溢れ出てきた。頭にスプーンを入れて掻き出すように、ひたすら続きを綴っていく。
 わたしはどこかから流れてくるものを器に注ぐ導管になった。本当に、いっさい、意味も意図も考えずに書いていったら、それはおはなしになった。



 河から離れたところにある広い砂漠に、一本の木が生えていました。その木は成長するのに水や栄養を必要とせず、砂漠の真ん中でどんどん大きくなっていきました。
 木が森ほどに大きくなったころ、その場所に23匹のうさぎが訪れました。そのうさぎは葡萄うさぎといって、さびしいと死んでしまう生き物なので、いつも一緒にいて群から離れることはありませんでした。葡萄のように群れていました。うさぎたちはここよりずっと東にある草原に住んでいたのですが、ある日草原で疫病が流行って、遠い砂漠まで逃げてきたのでした。
 砂漠で生きられるかは賭けでしたが、このおおきな木を見つけて、そのそばに住むことに決めました。
 木にはたくさんの虫や菌、小さな草木がよりそって、何より瑞々しい赤い果実をたくさん落とすので、うさぎたちは快適に過ごすことができました。長い年月を経て、うさぎたちは増えていきました。
 うさぎにとってその木はなくてはならないものでした。木に感謝し、木を崇めて生きていきました。木は、時折静かに音を立てます。木に語りかけて耳を澄ますと、答えが聞こえてくるようにも思えました。うさぎは年に一度、木に語りかけることを欠かしませんでした。
 しかし長い年月が経ったあと突然、木は枯れ初めてしまいました。果実は水を含まなくなり、腐敗した樹皮や枝葉はぼろぼろと落ちてしまいます。
 うさぎたちは困りました。このまま木が枯れ果ててしまっては、うさぎたちは生きていくことが出来ません。
 どこか別の土地をさがすべきなのかも知れませんが、新天地をさがすにはうさぎたちは増えすぎ、またこの土地に根付きすぎていました。長年世話になった木を見捨てるのか、という反対の声もありました。
 栄養が悪くなったせいでしょうか、黒い色をしたうさぎが一匹、生まれました。黒いうさぎは聞かん坊でした。好き勝手に飛び回っては、ほかのうさぎたちを困らせます。
 やがて黒いうさぎが大きくなると、かれはそうするのが当たり前のことであるかのように、木の幹を登っていってしまいました。なんと罰当たりな! とほかのうさぎに咎められますが、ほかのだれも怖くて木をのぼることができず、黒いうさぎを引き留められませんでした。黒いうさぎは一匹だけで、落ちたら確実に死ぬ高さの木をどんどん登っていきました。黒いうさぎもまたさびしいと死んでしまう葡萄うさぎなのですが、一匹になっても死にはしませんでした。ほかのうさぎが一緒にいなくても、さびしくなかったからです。この木はどこまで上れるんだろう。この先に何があるんだろう。黒いうさぎがそんなことしか気にしていませんでした。
 枝分かれが増えて幹が細りかけてきたころ、途中にうろがありました。中は深く、通り道のように穴が続いています。黒いうさぎはその中に入っていきました。躊躇いませんでした。
 中には部屋がありました。触って操作できる画面がある部屋でした。黒いうさぎはいじり回して、その機能を理解していきます。たくさんある機能の中には機能を教える機能や、ここが何なのかを教える機能もあり、かれはこの機械について何でも知ることが出来ました。
 それはこの星とお話しをするために、宇宙人が残していった機械でした。星の言葉は生き物の営みです。生き物を呼び寄せて生きながらえさせる機能はすべて、星とお話するためにありました。そしてもう十分にお話をしたので、その役目を終えたのです。お話は何百年とかけてしますが、宇宙人はそんなに生きられないので、最後の操作は星の民の一人に代わってもらう仕組みになっていました。
 この機械は画面に触って操作しますが、最後の大事な操作だけは、画面の前にある一つの大きなボタンを押すことで成されます。すべてを理解した黒いうさぎはすぐに、そのボタンを押しました。
 外にいたうさぎたちは驚き、脱兎のごとく逃げ出しました。長年をともにしてきたその巨大な木は、今や地響きと共に裂けてふたつに割れ、中から細長い塔のような建物が現れたのです。

 塔はもうもうと煙をあげ、浮かび上がり、底面から火を吹いて、空の彼方に飛んでいってしまいました。もう二度と帰って来ないそれを、うさぎたちは呆然と見上げていました。
 おしまい。



おしまい


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