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ステッパーズ・ストップ

そのほか

2011年


トド06




<鴨居陽太> 

 戸所はオレのことが好きなのだろうか。そうだと決まっている訳ではないが、わざわざ家に訪ねてくるんだから、それなりの理由があるはずだろう。もしかしたら告白をされるかも知れない。そうなったら楽しい。付き合うか振るかの選択はオレの胸先三寸だ。付き合ってメッタメタに犯してもいいし、拒絶してもいい。両方やってもいい。
 戸所はどっちかっていうとしょぼい。五段階評価でDだ。ビジュアルも、所属グループもだ。オレがまだ学校に行っていた頃、戸所が上村やカブ美とよくつるんで、教室の端ですげー静かに盛り上がったりしているのはよく見かけた。確か、上村香苗のことをシュリちゃんとかって呼んでたかな。なんで上村がシュリなんだよ。どういうあだ名なんだよ。必要ねーだろ。くっだらねえ少女マンガか何かのアレか? 明らかにシュリってツラでもねーだろ。笑える。だからDなんだよ。死ねよ。ちなみにランクEは人間と呼べる範囲を逸脱したゴミの巣窟で、妖怪マツ子とかカスデブの光輝とかが入ってくる。
 オレはちがう。今は黒野のせいで最下層に落とされた堕天使的な位置づけだが、本来はBか……いや高くてAに属する高貴な身分だ。なぜならオレは一時期は黒野や山田、加藤といった面々と対等に話していたし、C以下の連中については男女関わりなく無視し続けたからだ。ビジュアルは悪くない方だと思うし、アクセサリーとか音楽とかも外してないやつを選んでいたし、UTATINEではBランクの女子とも公開相互してメッセージを送り合っていたという実績まである。まあ自分を謙虚に評価して低く見積もっても、B未満と言うことはないだろう。
 つまりオレがこうなっている原因はオレにはなく、あいつらに見る目がなかったせいだということだ。本当に見る目のある人間なら、オレの本質を理解しようとするはずだ。
 オレは学校を休んでいるが引きこもりではない。オレが学校に行かないのはクラスの奴らに対する復讐のためだ。オレが広い心で許してやってるのをいいことに、不当にオレをカス扱いする連中を、オレは教育してやらなくてはならない。みんなオレの存在価値に、オレがいなくなって初めて気づくはずだ。現にこうして戸所が会いに来ている。口で言っても分からない馬鹿ばっかりだから、こうするしかないのだ。
 それをババアは勘違いしてオレのことを引きこもりだとかぬかすから殺したくなる。学校行かなかったら引きこもり? バカか? オレの戦略的撤退がどうして分からないんだ? 何の権利があってそんな風にオレのことを決めつけてんだよ? 本当に、世界はバカに満ち溢れすぎていてオレは我慢の限界に来ている。だからオレはババアに対しても容赦しないし、戸所の前でも怒鳴ってやった。しつけてやった。戸所、びっくりしたんじゃねえか? いつも以上に厳しくブチキレてやったから迫力も半端じゃなかっただろうな。それに、目からウロコが落ちたんじゃねえか? 親を教育するなんて発想、どうせ常識に縛られた思考しかできないあいつには考えもつかなかっただろ。常識を破壊できるのは哲学を持っている人間の特権だ。戸所はオレを気にしてここまで来るほど見る目のある人間だから、こうしたオレの魅力に気づいている可能性は高い。
「えっと。入る……の?」
 ドアを開けると、制服を着た戸所が間近にいた。鞄を両手で握ったまま戸惑っている。オレを見てから視線を逸らした。そう言えばオレは学校ジャージのままだったのを思い出した。
「入りたくなきゃいいよ」
 入れとは言ったが、オレは押しつけない。オレに対して半端な気持ちで会いに来られても困る。オレが最もむかつくのはオレを正しく評価しようとしないバカだ。逆に言えば、自らオレを理解しようという気持ちがあるのなら高く評価できる。Dランクのボンクラでも歓迎してやるということだ。それに戸所は、改めて見たらかわいく見えなくもない気がしてきた。
「いや、でも、悪いし……なんかいきなりだし」
「入るのか入らないのかはっきしりろよ」
 悪いとか何言ってんだ。オレがいいって言ってんだから関係ねえだろ。だいたい戸所の方がオレに会いに来たから部屋に入れてやろうとしてんのに遠慮する意味なんてないだろボケ。
「でも、わたし……」
「入るんなら入れよ!」
 面倒くさくなって、オレは戸所の腕を掴んだ。
「きゃっ」
 戸所は、いかにも女子って声をあげて体を萎縮させる。怯えて後退しようとする。失礼なやつだな。オレは軽く引っ張った。戸所は抵抗する。何なんだよこいつ。
「何なの。逃げんの?」
「いや……」
 戸所の態度は曖昧だ。
「離して。痛い」
 ちょっと握っただけで痛いとか言う。弱えーな。
「だってお前逃げそうだろ。ここまで来て、オレに会いに来ておいて、それで逃げるとかどうなの? 訳分からないんだけど。入るのか入らないのかはっきりしろよ。入んないなら入んないでいいけど、それだったら、ここまで来ておいて何で入らないのか説明しろよ」
「……そうだよね。鴨居くんの言うとおりだ」
 戸所は唐突に聞き分けが良くなった。腕から伝わってきた震えも収まる。静かになる。少しうつむき、目を伏せた。
「ごめんなさい。うん、わたしは鴨居くんの様子を見に来たよ。ただ、ちょっと驚いたの。引きこもりの部屋のドアが開くなんて、思わなくってさ」
「引きこもりじゃねえよ!」
 オレは怒鳴りつけた。戸所が、ババアと同じ決めつけをしたからだ。ふざけんな。戸所は驚いてオレを見たが、すぐに「ごめんなさい」と言って頭を下げてくる。
「腕を離してもらっていい? 入るから」
「あ、ああ」
 戸所の雰囲気がいきなり変わったような気がして、オレの方が少し戸惑った。まあいい。分かればいいんだ。
 オレは手を離し、戸所を部屋に招き入れる。



つづく


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