-------------------------------------------------------------------------------- 戦闘開始 -------------------------------------------------------------------------------- 宝良 花巻 :20/1/1/2/加熱剣、斬撃剣 習志野 瀬子: 5/0/0/3/導来剣0、黙祷剣、胎胎剣、加熱剣、加熱剣、全体剣 -------------------------------------------------------------------------------- 処理 -------------------------------------------------------------------------------- 何をしなければならないか。 結局のところ行き着くのはそこだった。 これまでは。 こちらの打撃は障壁でぬかりなく止められ、その間に有効打を通される。絶命。敗北。 試合はそんなところだろう。 (習志野瀬子か) 楽しげに力を振るう相手を見やる。 級友であるはずの小娘の記憶も古くおぼろげだ。 自分を打ち倒す者の冗談みたいな幼さに、宝良花巻はかすかに笑いさえした。 (何の訓練もされてない紙のような肉体。それを代替する才と術。  奇襲をも防ぐ自走防壁に、制御の必要もなく暴走に任せる観念動力) それを打ち破る手立てが浮かばない。 体が拒否しているのだ。 休んでいいならそうさせてくれと。 何もしたくない……それが心からの望みなのだと。 旅の間には考えられなかったような惰弱さだ。 そして、旅立ちの前を思い起こせば懐かしい甘えでもある。 (あの忌々しい責務がないと、私はこんなにも弱くなれるものなのか) 宝良花巻は、飛ばされた世界で過ごした死闘の日々を振り返る。 旅の初めには戸惑い、わめき散らしたと思う。 なんで自分がこんな目に遭うのかと。 有り得ない災難に巻き込まれた自分を誰か救えと、無邪気に泣き叫んだ。 受難に次ぐ受難の中で、友と呼べる人間とめぐり合った。 自分のことだけを案じていられたはずなのに、心配事が際限なく増えていった。 世界の盛衰に立ち合い、決断を委ねられた。 強くなりたいと思ったこともあった。 でも強くはなれなかった。 ただ、切り抜けることを幾度も強要された。 出来ないことを迫られる度に自分は、自分の中に無いはずの力を引っ張り出し辻褄を合わせた。 老いても戦いは終わらなかった。 未曾有の破局を切り抜け平和を勝ち取った後にすら、生き残った民を導く難題を背負わされた。 利害対立や謀略、裏切りの看破とその黙認。 神経の擦り切れるような重労働の中で、いつしか目は人を追うようになった。 見栄や体裁や虚栄に心奪われながらも懸命に働く若者の中に、後継者を探した。 昔の自分と同じ幼さで喚き叫ぶ子供らに未来を見た。 全てを失った民を復興させるために構築した組織。 いつの間にか自分なしで立ち行かないシステムになっているのに気づいた。 多忙の中で最後には、自らが築いた組織の腐敗と格闘した。 そんな戦いはいつまでも続く。 終わらない。 今際の際まで問題がなくなることは無かった。 だから最終的には彼女は、ただ備えることにした。 布石を打って終わりとするのではなく、有事の際に自然とそれに立ち向かえる人材を育成し残した。 それでほどほどに切り上げて、途中のまま死なせてもらった。 そして目が覚めたらここにいた。 満点とはいかずとも自分に及第点をつけて往生と思ったら、今さらこの『現世』に戻された。 永久に続くかと思われた煉獄は煙のように消え、この暢気な生活と再会した。 自分には今、何もない。 本当に何もない。 宝良花巻。 その名の重苦しいまでの意味を、ここで知る者は自分以外にはいない。 顔を伏せる。 爆発するように涙が出る。 悲しみではない。 粕も残らぬくらい人生を搾り取られた自分に、このような、感傷にぐずぐず浸れる贅沢が与えられたのだ。 あまりに強烈な情動で、そうだと分からぬくらい嬉しかった。 体は激しく痙攣した。 感情は干上がってなどいなかった。 堰を切って溢れ出た。 これから何をしよう、などとは考えもしなかった。 今はただ感情に任せてむせび泣き、理性を手放す解放感を存分に楽しむ。 -------------------------------------------------------------------------------- 結果 -------------------------------------------------------------------------------- 勝利者:習志野 瀬子 --------------------------------------------------------------------------------