千夜一夜の果てに えぬえむ

ステッパーズ・ストップ 千夜一夜の果てのヘレン

[0-773]

えぬえむ

性能

HP50/知5/技5

スキル

・エンドロール/10/0/5/封印
・サテライトキャンドル/15/0/6/防御無視
・インスタンティカ/6/6/2/
・ハルシネイション/0/30/4/
・スターシェイカー/23/18/10/炎熱

プラン

敵構えなしかつ直前の同時行動時の敵スキルが防御無視でも炎熱でもなく、攻撃力18以下かつ防御力30以下で(7-ウェイト)*敵技術<自HPで経過カウント200以上ならスターシェイカー。
敵構えなしかつ直前の同時行動時の敵スキルのウェイト≦2かつ((敵攻撃-6)>(6-敵防御)または敵防御>5)ならハルシネイション。
敵構えなしならインスタンティカ。
敵が反射で残ウェイト6以上ならサテライトキャンドル。
敵が反射ならインスタンティカ。
残ウェイト11以上かつ(スターシェイカー攻撃力-敵防御)≧敵HPならスターシェイカー。
残ウェイト10かつ敵回復で(スターシェイカー攻撃力-敵攻撃)≧敵HPならスターシェイカー。
残ウェイト10かつ敵防御無視で(敵HP-スターシェイカー攻撃力)が0以下かつ(自HP-敵攻撃力)未満ならスターシェイカー。
残ウェイト10かつ(敵HP+敵防御-スターシェイカー攻撃力)が0以下かつ(自HP+18-敵攻撃力)未満ならスターシェイカー。
残ウェイト7以上かつ敵HP≦15ならサテライトキャンドル。
残ウェイト6以上かつ敵防御0ならエンドロール。
残ウェイト11以上かつ(スターシェイカー攻撃力-敵防御)が15以上ならスターシェイカー。
残ウェイト7以上かつ敵防御≧2ならサテライトキャンドル。
残ウェイト5以下かつ自HP≧15>敵攻撃力+(6-残ウェイト)×敵技術ならサテライトキャンドル。
残ウェイト4以下かつ敵HP13以上で敵攻撃力0か回復ならエンドロール。
残ウェイト3以下かつ敵防御無視か回復ならインスタンティカ。
残ウェイト3以下で敵攻撃≧19ならハルシネイション。
残ウェイト3以下で (7-残ウェイト) ×敵技術<自HPで、経過カウントが100を超えていればスターシェイカー。
さもなくばインスタンティカ。
さもなくばスターシェイカー。

設定

女。
フリーランス(リソースガード参加予定)。

黒髪、黒目に黒いストラップシューズがトレードマークの魔法少女剣師。
ある鍛冶屋の弟子だが、鍛冶の技術については教えられたことはなく、教えられたのは専ら戦闘技術ばかりである。
彼の作った武器のテストを行ってきた関係上、いろいろな種類の武器を扱うことが出来るようになった。
普通の武器のみならず精霊の力を込めた杖なども扱うために、精霊術も覚えさせられた。
また、緑髪の妖精アルティアを従えており、平時はえぬえむのポケットや髪の中に潜み、戦闘時には出てきて精霊砲でえぬえむを援護する。
精霊砲とは要するに精霊のエネルギーを直接ぶっ放す危険極まりない技である。グロい事にならない程度にえぬえむのほうで制御して使っている。

彼女が精霊採掘都市リリオットに行くことになったのは、
師から「ここに書いてあることなるたけやってこい」と言われ、羊皮紙の束を渡されたことに由来する。
「クエストリストとか言ってたけどただのお使いよね。お使いって規模じゃないのもあるけど」
リリオットに行く道すがら、内容を確認する。
「えーと、アイスソードを作れる鍛冶屋がいるから買って(あるいは奪って)こい? 何で奪う選択肢があるのよ」
羊皮紙の束は分厚い。何枚あるかは数えたくもない。
「今最もヘレンに近いと思われるやつらをもし見かけたら偵察しろ? もはや前提すら怪しいレベルね」
続いて名前と容姿が記載されている紙を確認する。
「ヘレンねぇ。そういえばヘレン教ってのがここらでは流行ってるらしいけど…」
どんな宗教だったか思い返してみる。
「確か…至高の戦乙女ヘレンを崇拝していて…迫害されたものを救済し…」
ふと視線を下に落とすと、『注意書き』と書かれた紙があることに気づく。
「えーと、『リリオットにはヘレン教支部があり、過激派により黒髪の人間を迫害する可能性があるので注意しましょう。故に俺は行きたくない』…」
もはや毒づくより他になかった。そもそも迫害するほどの過激派がいるかどうかは分からないが黒髪である以上、いい感情を持たれないことは間違いない。
「まったくあいつは…! あー、もぅ!!」
埋蔵金だのなんだの、他にも大小さまざまなお使いがあったが、後で詳細を確認することにした。
まずはフードの調達である。
「とりあえずリソースガードで小銭稼ぎかなぁ。路銀も少なくなってきたし…」

スキル説明:
エンドロール:魔を封じ、剣を断つ終焉の居合。敵の隙を突いて叩き込む。
サテライトキャンドル:アルティアを通じて放つ精霊砲。威力はグロい事にならないよう控えめ。
インスタンティカ:手元に剣を現出させて攻撃を受け流し、斬りつける。斬ったら剣は即座に消滅する。
ハルシネイション:残像を現出し、敵の攻撃を防ぐ。
スターシェイカー:アルティアと協力し剣術・体術・魔術を駆使して叩き込む乱舞技。戦闘が長引くほど乱舞も長くなる。

オーナー

N.M

https://sites.google.com/site/margueriteofnm/blindxhelen

ツイッター nm43291

SS: http://mac.x0.com/test/ (キャラメイクファクトリー)

[28] 2012/05/14 22:58:29
【【えぬえむ道中記の1 侵入】】 by N.M

「ふー、やっとついたー」
精霊採掘都市リリオット。しばらくはここが拠点となる。

「とは言えまずフードかなにかないとまずいわよね…」
えぬえむは取りあえず懐から布切れを取り出した。
「まぁとりあえず服屋か帽子屋ね…」
ボンネットのように頭にかぶせて門に近づく。

番兵に不審な目で見られはしたが「ほら、黒髪だし…」と言ったら納得してくれた。
ついでに手近な服屋とリソースガードの場所も聞く。
服屋に行ってフードを購入。ついでにリボンタイも買っておしゃれする。路銀がさらに減る。

「って私何やってんの!?」

いそいそとリソースガードの仲介所へ。

「あら、貴方のような子供が傭兵登録?」
「世知辛い世の中だし…」
「ふーん。紹介状とかある?」
「一応あるわ」
師匠からの紹介状を手渡す。というかなんでコネああるんだアイツなどと思ってると

「…いいでしょ。とりあえず手近なクエストこなして行ったり行かなかったりして信用を上げることね。あとこれ許可証ね」
許可証を受け取る。存外あっさりしたものである。
ふと思い立つことがあって聞いてみる。
「そういえば、ここってソウルスミスの傘下よね。リューシャ、って人の名前に心当たりない? 刀鍛冶の」
「リューシャさん? つい先程こちらに来て、今は職人街の方ではないでしょうか」
この街に来ているらしい。師は何故わかったのか。謎は尽きない。

仲介所にはいろんな人がいる。
コインを楽しげに数えてる女性や、どこかで見たようだけど気のせいだろうと思える若くて白髪の女性。

宿泊前になんか一つ依頼をこなすのもありだろう…。

[57] 2012/05/16 22:49:17
【えぬえむ道中記の2 開拓】 by N.M

「クエストクエストっと…」
受付に今受けられるクエストを確認してもらう。碌な依頼がない。
「コレほどの都市ならもうちょっと遣り甲斐の有りそうな依頼があってもよさそうだけど…」
「あー、それはねー」
受付の少女が語る。
「黒髪お断りのクエが多いからなの。ほら、ヘレン教が割と盛んだしね」
つまりは他の人がやりたくない仕事ぐらいしか無いということである。

「一番マシそうなので近くの野犬退治…」
「貴方は戦えるのかしら?」
「まぁ、護身程度には」
「ふーん。お手並拝見。退治できたらこの羊皮紙を広げて」
「情景を記録するアレ?」
「そうそう。じゃ、頑張ってね」

と、依頼を受けて出ようとしたところで入り口にマッドマンが!?

すわ、ゾンビか!?などと口走るものもいたが彼女には泥男に見えた。
結局、ゾンビではなく普通の傭兵だったらしい。よくよく見ると黒髪。
つまりはなんか仕事中ろくでもないことになったのだろう。黒髪だったために。
彼が手に持っている武器は凍剣の類に見えた。だが同時になんか嫌な予感がした。何かとんでもないことになりそうな。

とりあえずフードを深く被って外に出ることにした。
途中で職人街に寄り、郊外に出て野犬退治、帰って報酬もらって一泊。
職人街かどこかでリューシャを見かけたら剣の作成を依頼する。
心のなかでこれからの行動を反芻する。

「…長居は危なそうだけど…長居せざるを得ないかもしれないわね。はぁ…」

えぬえむはため息を吐きつつ、職人街の方へ歩を進めた…。

[71] 2012/05/17 23:00:11
【【えぬえむ道中記の3 希望の剣】】 by N.M

なんだかんだで職人街へたどり着く。
「ここまで大きいとさすがに盛況ねー…」

目に入るはいろんな店。
馴染みのある武器を売ってる見せから分けのわからぬシロモノを売ってる店まで千差万別。

なんだかんだで彼女も鍛冶屋の弟子。
武器の質ぐらいなら一目でわかる。

(なにこれ。鍛冶屋の腕が泣くわね。ひどい材料)

精霊を作った武器ではあるものの、粗悪。その一言に尽きる。
(ぶっちゃけそこらの鉄で作ったほうがよさそうな気もするけど)

口には出さない。因縁付けられて殴られるのがオチだ。
価格を見るとあり得ないほど安い。しかも大量に並んでいる。
(薄利多売もいいけど、こんなんじゃあ…)

並んでいる店の主の顔をひとつひとつ確認するがリューシャと思しき人物はいない。

(まぁ少なくともそこらで安物売ってるようなチャラい鍛冶屋じゃないのは一安心ね)

帰りにもう一度寄ろうと心に決め、えぬえむは野犬退治に向かった…。

[87] 2012/05/18 22:43:28
【えぬえむ道中記の4 凍視】 by N.M

野犬退治は彼女にとっては些細な障害であった。
前から襲い来れば剣を構築して斬り払い、
死角から襲い来ればアルティアの精霊砲で打ちのめす。

接近遭遇から5分と経たずに、野犬の群れは壊滅していた。
「まぁ、コレでしばらく来ることもないでしょ」
渡された羊皮紙を広げ、退治の証拠を撮る。

「日も暮れてきたわね。戻る頃には夜になりそう」
アルティアが髪の毛の中に潜り込んだのを確認し、フードを再び被り直す。用心に越したことはない。

帰り道、念のため職人街を再び通る。
しばらく歩くと、剣を手に取り、ため息をつく金髪の女性の姿。
その刀身はチラリと見ただけでもわかる。相当な質のモノだ。
アイツも様々な属性をもたせた魔剣を作れるのに、
わざわざ注文(奪ってもいいとか書かれていたがそれは措く)する理由がわからないと思っていたが、
一目見ただけで得心した。なるほど、達人の業前だ。

取りあえず、凍剣を作れる刀匠が目の前にいるのだし逃す手はない。話しかける。

「ねえ。……あなた、ひょっとしてリューシャさん?」
「そうだけど、あなたは?」
「あー、えっと。なんて言ったら伝わるのかしら」

衝動的に話しかけたことを少々後悔する。
(リソースガードへの紹介状を用意しといて彼女への紹介状を書かないとか頭おかしい書いとけよ)
ぶつくさ悪態をつく。
(大体同業者なんだから私通さなくてもいいじゃない直接注文してよあのクソ野郎)
ぶちぶち文句を言いながらどう説明したものかと考え、ここはそのまま話したほうが早いと結論づけた。

「うちの師匠が、リューシャさんの凍剣を一本欲しがってるの。打ってもらえない?」
「依頼主に見当はついたわ。じゃああなた、えぬえむさん、かしら」
「え、ええ。リューシャさん、もしかしてあいつの知り合いなの?」
「知り合いというか、あなたの師匠って……まあ、……この業界でも目立つ人だから」

ろくでもないことは容易に想像がつく。自分ですら(自分だからこそ、ともいえるが)存在を抹消したい相手である。

「打つのは構わないけど、正規の依頼として請け負うと残念ながら二年は待つわよ」
「げっ。そんなに掛かるの?」

2年待ち。700日ちょっと。その間「あー早くこないかなー楽しみだなー」などと言いながらこっちを意味有りげに見つめるアイツの姿が目に浮かぶ。
プレッシャーを四六時中かけることは間違いない。そういうろくでなしなのだ。アイツは。

「ええ、……ただし。あなたがこの街でわたしのお願いを聞いてくれるなら、特別に依頼を一番頭にねじ込んでもいい」

またとないチャンス。もしかしたらここまで織り込んだ上でクエストを入れたのかもしれない。
だとしたら相当狡猾ではある。
だがチャンスはチャンス。2年待ちの恐怖から逃れるためなら火の中水の中ぐらい余裕で飛び込むつもりである。
内心の喜びを隠しつつあくまでクールに。
「…聞くだけ聞くわ」

[104] 2012/05/19 22:53:02
【えぬえむ道中記の5 安らぎ】 by N.M

リューシャに連れられ、宿の食堂で夕食を摂りながら依頼の詳細を聞く。

つまるところ、精霊鍛冶の技術を掴みたいということだ。
アイツができるかどうかはわからない。出来るのかもしれないが少なくとも見たことはない。

精霊炊きおいしい。そういえば銘菓を5種類買えとかいうのもあったっけ。依頼の駄賃で適当に買おう。

「消えた街の予算がどうとか、なんとかいう計画が進行中だとか、精霊をこれ以上掘るのは危険かもしれない、とか」

どれもこれも不穏な噂である。こんな噂が民間に流れてる時点でまずいことになっているのは明らか。
アイツの底意地の悪さにはほとほと反吐が出る。知ってて送ったに違いない。どう知ったかはわからないが。

「……とにかく、無理をさせたいわけじゃないわ。それらしい情報があれば、わたしに回してほしいってだけ」

何はともあれ、自分もこの街では新参者だ。情報が手に入るかどうか。酒場では場違いもいいとこだし。

「でも、何も手に入らなかったら二年待ちでしょ?」

不安げに尋ねる。

「あら、わたしはそんなに狭量じゃないわ。……秘書には怒られると思うけど」

それでいいのかしら、などと思いつつ。
刀剣作成依頼用の書類を渡される。ここのフロントに情報と一緒に渡せばいいらしい。

「おっけー。わかったわ。しばらく滞在予定だし調べてみる」


宿の部屋にて。ついでなのでリューシャと同じ宿に泊まることにした。連絡は取りやすいほうがいい。

「にしても…ホント、どうなってんのかしら」
渡された書類を見る。希望の仕様、希望納品日、依頼主の名前…

「…そういえばアイツの名前知らないわ…」

取りあえず自分の名前を記入。仕様はおいおい考えればいい、と結論づけ、布団に潜る。
アルティアを撫でながら眠りにつく…

[123] 2012/05/20 21:20:28
【えぬえむ道中記の6 疾風剣】 by N.M

翌朝。
階下の食堂で朝食を摂りながら今後の方針を考える。

「『ヘレンに近きものは機械人形の如し、ヘレン本人は本能で動くが精密に刻まれた動作はそれに匹敵』…いやどうでもいい上に罰当たりに思われかねないわね」
紙の束を捲る。適当にとって残りは部屋においてきた。
「『強化したい魔剣の噂があるから現物持って来い。なんか刀身が白くて鞘から抜こうとしても抜けないとか』…物凄く曖昧ね。こんな情報だけで探すとか正気の沙汰じゃないわ」
そもそも抜けないなら刀身の色なんてわかるはずもないじゃないあの馬鹿と思いながら食器を片付ける。セルフサービス。

前日の依頼の報酬をもらうため、リソースガードへ向かう。フードを深く被る。用心は大事である。
「そういえば、昨日宿ですれ違ったひと、とっても変わってたわね…」
腕も脚も十全であるにもかかわらず、この大荷物では猫の手も借りたいとばかりに腕や足を増やし、
さらにはヘレン教に喧嘩を売らんとばかりに長い黒髪までつけていた。
「うーん、なんかの流行りなのかしら?」

仲介所で報酬を無事に受け取次の依頼を探す。
「なになに、廃坑の幽霊退治?」
黒髪お断りでない依頼の中から、手近に済みそうなのを選ぶ。
「あー、それね。最近、廃坑になった鉱山からなんか掘る音とか聞こえてくるらしいのよね」
受付のお姉さんが詳細を話す。
「で、なんか巨大な人影を見ただのなんだのって」
「ふーん」
「落盤で死んだヒトの幽霊かもしれないってことで依頼が回ってきたってとこ」
「幽霊ねぇ…廃坑を一人で掘るような人は…うーん」
「廃坑だし落盤の危険もあるからねぇ。…お嬢ちゃんには危なくないかしら?」
「やるわ」
「えっ」
「廃坑掘りならまぁ話せばなんとかなるでしょうし幽霊だったらそれはそれで退治すればいいし」
「まぁ、頭上には気をつけてね」

えぬえむには一つの考えがあった。
職人は教えてくれない。だが精霊を掘り出す者なら?
それも廃坑で掘ろうというアウトロー、かつ掘って脈を当てるほどの者なら?
行動は迅速に。もしハズレでも依頼をこなすことは出来る。

目的地は廃坑。場所を確認しそこに歩を進めた…

[138] 2012/05/21 22:20:53
【えぬえむ道中記の7 石の障壁】 by N.M

「ここが例の廃坑ね…」

第八坑道。幽霊が目撃されたのはこのあたりだという。
そもそも目撃した人がこの廃坑付近で何をやっていたのか。
自分には関係ないと思い直す。

「取りあえず用心に越したことはないわね」
フードを外し、そこらに打ち捨てられていたヘルメットをかぶる。
ヘッドライトの機能は失われてはいるが、アルティアに精霊砲をチャージさせ、それを照明代わりにする。
「おっけー、アルティア。行きましょうか」

いくつも枝分かれしている坑道。幽霊なら掴みどころはないが、もし採掘者がいるなら、そして採掘しているなら。
耳を澄ませた。地面に耳を当てたりもした。
規則正しく。脈打つがごとく。

音に導かれながら、慎重に、慎重に歩みを進めていった…。

[152] 2012/05/22 21:50:23
【えぬえむ道中記の8 岩穿ちの剣】 by N.M

彼女の予想は当たっていた。
幽霊と云われていたのは流しの採掘者だった。
彼の近くにある鉱床。ほぼ間違いなく今しがた掘ったものであろう。
廃坑となった鉱山から掘り出す技術。一つなら偶然もあろうがもう7つも見つけているらしい。

「…予想外なのは、地図作成を頼まれたことね…」
彼が改めて掘り出したのを確認し、入口の方へ踵を返す。
「途中に3つ、横穴に3つ、ねぇ…」
分岐を戻りながら、慎重にマッピングしていく。
アルティアの明かりで照明には困らない。
「ここは下り、傾斜きつし、と…」
迷わないよう、時たま剣を生成し壁や床に目印となる刻みを入れる。刃毀れの心配はない。
「まぁ理由はわかったし、地図作って渡して正体見たり採掘者、ってことでリソースガードの依頼も達成」

あとは…こちらが望む情報を持っているか、だ。
精霊の扱い方。あるいは精霊技術者のコネ。

「…そういえば彼の名前訊いてないわね。地図渡すときでいいか」

独りごちながらマッピングを取る。たまにアルティアを突っついたりする。

ふと耳を澄ますと採掘音。
「更に掘ってそうね…急いで仕上げなきゃ。蟻の巣のようにされたらこっちの仕事が増えちゃう」
駆け足で坑道を進み、横穴の鉱脈を確認していく。

駆けまわったせいもあって、出口にたどり着いたときはもうヘトヘトだった。
坑夫がかつて用意したと思しきベンチに座り、休憩する。
「はふー…」
アルティアが肩に止まる。つっ突き合って小休止。

「さーて、入れ違いになる前に彼のところへ戻りましょうか」
求めるものを手に入れるため、再び、坑道の奥へと潜り込んでいく…。

[187] 2012/05/24 22:56:35
【えぬえむ道中記の9 空雫】 by N.M

採掘者の男、ウロからの情報はゼロ。だが、彼の依頼主ならなにかコネがあるかも知れないことを匂わせていた。
入り口へ引き返すウロの後を遅れないようについていく。

「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はえぬえむ。リソースガードの依頼で、この廃坑に幽霊が出たって聞いて調べに来たんだけど…」
「そうか」
「きっと流れの採掘者か何かだと思って、この依頼受けてあわよくば精霊技術の情報も得ようと思ったんだけど…」
「残念だったな」
「むぅ。知らないんじゃ仕方ないわね。あ、そうそう、幽霊退治の依頼の証拠に一枚撮らせてもらうわね」
早足で追いかけながら羊皮紙を開く。転写されるウロの姿。
ちょこまかと動くえぬえむの姿はまるでリスのごとし。

出口でヘルメットを脱ぎ、再びフードをかぶる。
「そういえば、依頼人ってどんな人なの?」
「金に糸目をつけないタイプだな」
「うーん」
「マッピングも無理言ってねじ込んできたしな。強引でもある」
「精霊技術者のコネとかあるかしら…」
「さぁな。一人か二人ぐらいはいるんじゃないか」
「だといいけど…。そういえばそのシャベル、かなりの業物に見えるわね」
「まぁな。母の形見だ」

などと話しているうちに、目的地―ヒルダガルデの屋敷に近づいてきた。

[199] 2012/05/25 22:55:54
【えぬえむ道中記の10 特権】 by N.M

「えぬえむ、といいます。早速で申し訳ないのですが、精霊の加工や精製、その技術に関しての情報が欲しいのですが」
「ほほー、早速だねぇ。とはいえ、私は一介の商人だからそういうのには疎くてね…。
 だが、そういうのに詳しい知り合いならいる。そちらに紹介状を一筆書いてあげよう」
「ありがとうございます」

ぺこりとおじぎをする。

マーロックは羽ペンをとり、紹介状を書きながらも尋ねる。
「それにしても君のような女の子が何故マッピングの手伝いを?」
「それなんですが…」

ウロの方にちょっと恨みがましい視線を向ける。
当の本人は素知らぬ顔である。

「別件で廃坑の調査を依頼されまして、そこでウロさんと出会いまして。で、なし崩し的に…」
「廃坑の調査? 私の他にも調査を依頼するものがいたのか?」
「いえ、なんか幽霊が出たとか何とか。多分ウロさんの影を見たのかも知れませんね。
 マッピング中には他に怪しいものもありませんでしたし」
そう言ってえぬえむは肩をすくめる。

「まぁどうせ今は廃坑ですし、幽霊騒ぎの一つや二つならむしろ好都合」
「そういうものなんです?」
「他に怪しいものもなかったのでしょう?」
「そうね。私が見た限りではウロさん以外の人は見なかったわね…」
「そうと決まれば善は急げだ。手取りを決めて鉱夫を送らねば…っと」

マーロックが羽ペンを置く。羊皮紙に蝋で封をしていく。

「ウロ君、これが『神霊』採掘団への紹介状と、こっちの袋が代金だ。でこっちがお嬢さんの紹介状、と住居までの地図」

それぞれ報酬を受け取る。
紹介状を受け取るときに、マーロックから耳打ちを受ける
「…このベトスコ老は今はエフェクティヴに所属している。君のようなお嬢さんが行くには危険なところだぞ」
「それでも、やらねばならないときはやらなければなりませんし」
「若いのに肝が座ってるねぇ」

まぁいろいろあったのですよ、と返す。
すでに踵を返しているウロの後を追ってえぬえむもヒルダガルデ邸を後にした。

「…エフェクティヴか…アイツのクエストに情報とかあるかしら。
 リソースガードに報告したら確認がてら一旦宿に戻って疲れを癒しましょ」

[214] 2012/05/26 21:51:26
【えぬえむ道中記の11 爆撃】 by N.M

「さーてと、紹介状もらったしここで一度リューシャさんに報告するのもありかな?」
リソースガードへの道すがら、これからの予定に思案をめぐらす。
「紹介状渡せば一応任務終了ということにはなるけど…でも私を紹介してるわけだから、一緒に行ったほうがいいかな?」
どちらにしろ途中経過は報告するに越したことはない、と結論づけ、今日は報酬を受け取って宿でのんびりすることを心に決めた。

仲介所で依頼解決の報告をする。
「…ってわけで、流しの採掘者が調べてただけ、ってこと。とんだ幽霊騒ぎね」
「まぁそういうこともあるわね。はい、報酬」
「ありがとうございます」
「…とは言え、こんな噂もあるしね」
受付のお姉さんが思わせぶりなセリフを口にする。
「どんなの?」
「このリリオットの地下には『封印宮』という金銀財宝が眠るとか、ヘレン教のご神体が安置されてるとか、なんかそういうのがあるらしいわ」
「それで?」
「この噂はリリオット七不思議の筆頭でね。この話は皆知ってるけど真実は誰も知らないの。百人に聞けば百通りの回答が得られると思うわ」
「封印宮から出てきたバケモノだったかもしれないってこと?」
「ま、そういうことね。幸いそういうことではなかったけど」
「封印宮ねぇ…」
「まぁ与太話のたぐいだし」
「では私はコレで」
「はーい、またねー」

仲介所を出たところでピィィィィィ!という音が聞こえてきた。
「とんび? いやそれにしてはなんか違うような…」
何か、とても嫌な予感がする。
「…時間あるし、ちょっと野次馬しに行ってもバチは当たらないよね」
そうつぶやくと音のした方へ駆け出す。

彼女に知る由はないが、音の出処は酒場『泥水』。
今リリオットで最も危険なことになっている場所である…。

[232] 2012/05/27 22:55:43
【えぬえむ道中記の12 照射】 by N.M

酒場「泥水」の方へ近づくと、何やら物々しい雰囲気。
明らかに荒くれ者と思しき人が周囲を警戒している。

「これはちょっと近づくのは危険ね…」
路地に隠れて様子を見る。
「こんなところで何を警戒してるのやら」
どうしたものかと思案していると、緑色のつなぎを着た清掃員がブラシを手に目の前を通り過ぎた。そのまま荒くれ者の方へ突進していく。
「速さが尋常じゃないわね…」
ちょっと路地から顔を出す。鼻先を鉄輪がかすめる
「!?」
思わず飛び退く。
「あっぶなー。あれってチャクラム?」
などと思案していると、今度は先ほどの清掃員が吹っ飛んできた。
「大丈夫かしら…」
程なく起き上がると、頭から血を流しながらも、もう一度とばかりに再び突撃していく。

「彼は結構強そうに見えるけど1対2は不利、私が加勢してもまだ無理。魔剣は全部アイツの家だしなぁ…」
ないものねだりをしても仕方がない。ある技のみでやらねばならない。
「…だけど、不意打ち奇襲ならば?」
思いついたが吉日。路地の壁を利用して屋根に上る。
「よっと」
屋根の上なら状況がよく見える。そして、精霊砲のチャージをはじめる。
「アルティア、よーく狙いをつけてね。あの清掃員の攻撃にあわせるのよ」
そして自分の残像を作り出す。残像といえど質量はあるし、ある程度動かせる便利な代物である。
「人が屋根から飛び降りてきたらきっと驚くでしょ」
そして隙を見せたら飛び降りて必殺の居合を当てる。
あとは連携が取れるかだが…

清掃員と荒くれ者たちは睨み合っている。

「……今ね」

屋根側に近い、鉄球男にえぬえむの残像が飛びかかる!

[250] 2012/05/28 22:59:21
【えぬえむ道中記の13 粉塵】 by N.M

振り抜かれる鉄球。圧し潰される幻影。

それに合わせて清掃員が跳ぶ。同時に彼の左足が赤く燃え始めた。
鉄球男の方に向かっている。となれば…
「アルティア! あっちに!」
光条一閃。チャクラム男に精霊砲が直撃する。
同時に手近な路地に降り、そのままチャクラム男の方へ駆ける。
「終焉呼ぶ剣よ、我が手に宿りて…」
詠唱とともに手許に鞘付きの剣を構築する。
「幕を…下ろせ!!」
居合一閃。鉄輪の投擲よりも速く、腕を斬り落とす。
倒れ伏す男。振り向くとちょうど鉄球男も蹴り殺された所だったようだ。
剣を回転させ、鞘に収める。そのまま剣は消失する。
清掃員に空の両手を見せ、敵意がないことを示す。

「助けてくれたのか…?」
「まぁね。不利そうだったし。もしかして迷惑だったかしら?」
「いや、助かったよ。ありがとう」

鉄球の一撃に耐えたり、足が燃えたり、謎の多い清掃員ね。
おそらくあれは見張り。他にも何人かいるはず。などと考えていると…

「…『泥水』に行かないと…。」
「泥水?」
「…向こうにある酒場だ」
「え?止めといた方がいいわよ。そんなに血を流してるのに。似たような連中もまだまだ大勢いるわよ」
「仲間がいるかもしれないんだ」

清掃員は酒場の方へ向かい始めた。
えぬえむも慌てて後を追う。

「えーっと、私の名前はえぬえむっていうんだけど貴方の名前は、…ってこれは…」
入り口が氷に閉ざされている。
「こういう時こそ精霊砲よね。清掃員さん、ちょっと離れててね」
精霊のチャージを始める。殴って壊すよりかはいくらか速いだろう
「もうちょっと溜めようかな」
「…窓から入れそうだぞ」
「えっ」

結局、さしたる妨害もなく、『泥水』へ入る。
その中は、凄惨で、そして、寒々しかった。
絶句するしか無い惨状。
「これはひでぇ…」
「そうね…」

死体の検分はやりたくない。
だが一人、目を引く死体。首を掻っ切られているにもかかわらず、出血がない。傷口は凍り付いている。

「この手口は…まさか、リューシャ…?」
たしか師の書いたリューシャの特徴に冷気を使った攻撃・防御を得意とする、とあったはずである。
血の海のなかリューシャと思しき人は沈んでない。まだ死んではいない。安堵一息。

となると、どこから脱出したかだが。裏口を見るが、開いていない。
窓は外から内に割れている。扉が外から凍りついていたのと合わせると、退路を塞いで窓から奇襲したのかもしれない。
そして、再び出た様子はない。出ていたら気づいて然るべきはずである。

「となると…」
カウンターの裏を探る。
「あった! 清掃員さん、こっちこっち!」
「コレは…隠し通路か」
そこには階段が隠されていた。

[264] 2012/05/30 22:20:07
【えぬえむ道中記の14 救済】 by N.M

通路の先にいたのはリューシャと見知らぬ少年、見知らぬ女性、そして負傷者二人。
先ほど聞こえた足音は三人分。
彼女らが先行し、負傷者を背負って戻ってきた、と考えるのが妥当か。

この先に何があるにせよ、危険なのは間違いない。負傷者は四肢をへし折られている。爆薬の匂いなどもした。
酒場に戻って負傷者を病院に運ぶというリューシャの案に特に反対する理由もない。

えぬえむたちは地下通路へ引き返す。

アルティアによって通路を照らしながら慎重かつ迅速に通路を進む。
ついでに、リューシャに現状を報告する。
「…でねー、そのウロさんにマッピングの手伝いさせられてね。で、報酬として紹介状もらったわけ。確かべトスコさんといったっけ」
「えっ」
声を上げたのはリューシャではなく、女性を背負った少年―オシロ―だった。
「うちのじーちゃんだ…」
「そうなの? 一段落ついたら紹介してもらえる?」
「というか、今ダザさんが背負ってるのが…」
言いながら、清掃夫の男が背負っている老人を見やる。
つまりは、彼がべトスコさんらしい。
「…取りあえず、病院まで運ばないと」

「泥水」へ通じる階段を登り切る。地獄のような光景が再び目に入る。

床を閉じ、少し思案する。
(向こうの状況からして追手が来たら厄介ね)
「ちょっと待って。この床封鎖したほうがいいと思うの」
「私がやるわ」
リューシャが腕を振るうと、通路への入口はあっという間に氷に閉ざされる。
「ありがと」
「どういたしまして」
「それで、今からどこに向かうのかしら」
「公騎士団病院ね、急ぎましょ」
「じゃ、ちょっとあの子手伝ってくる」

裏口から酒場を抜け出す。さっきのような荒くれが他にもいないとも限らない。
病院につくまで油断はできないのだ…。

[278] 2012/05/31 22:44:10
【えぬえむ道中記の15 空壁】 by N.M

「ふー」
一息つく。

あの笛の音を聞いてからいろいろなことがあった。

謎の荒くれとの交戦。
惨劇の酒場。
リューシャとの再会。
負傷者の移送。
オシロとのチェス。

取りあえずクタクタである。
負傷者の片方はべトスコさんだという。
幸か不幸か。それは分からないが取りあえずしばらくは目を覚まさないらしい。
また、怪我とは別に重大な病気に罹っていることは看護師とオシロのやり取りから察することが出来た。
何にせよ、自分にできることはあまりない。

「…オシロくん出かけちゃったし、そろそろ私も宿に戻ろうかな。べトスコさんはしばらく起きないみたいだし」
「そうそう、えぬえむ」
帰ろうとしたところで、リューシャから声が掛かる。
「なぁに?」
「昨晩、魔剣を持った子が来てね。あなたのこと紹介しておいたわ」
「魔剣? まぁアイツなら興味持ちそうだけど」
「やっぱりね。で、その魔剣だけど、エーデルワイスと言って刀身は白くて―」
そこまで聞いてえぬえむはぱちんと指を鳴らす。
「炎と冷気の力を合わせ持ち、剣を抜くに人生の走馬灯を巡る」
「知ってたの?」
「アイツが探してた剣の特徴と一致してるわ…。探してる理由が『なんか面白そうだから』というのが物凄い癪だけど」
「とにかく、彼女にあなたのこと紹介しておいたから一度あってみたら?」
「うん。で、その人って?」
「"螺旋階段"のソフィア。街外れの塔で骨董屋をやってるそうよ」
「じゃ、機会があったら会ってみるわね」

取りあえず、クタクタである。
暖かいお布団が恋しい気分である。
今日の残りの時間はアルティアを撫でて過ごしたい。
そう思いながら宿への帰途に着く…。

[316] 2012/06/03 22:35:15
【えぬえむ道中記の17 不滅の剣】 by N.M

病院から帰宅の途についたえぬえむ。
だが彼女に大きな障害が立ちはだかる!!

ぐ〜〜…

腹の虫。空腹である。

「うー…宿まで持ちそうにないよー…」
取りあえず手近な店に入る。店の名は、ラペコーナ。
黒髪のウェイトレスさんが働いてるので取りあえず自分でも大丈夫そうである。
マトンハンバーグとライスを頼んでお腹を満たす。

「あふー。ごちそうさまでした。さて、戻ろうかな」
代金を払って宿に戻る。

「うーん、とりあえず目を覚まさないと話聞けそうにないしなー」
宿の食堂でアイスをちびちび舐めながら刀剣作成依頼書片手に思案する。
「それに、もしかしたら紹介状必要なくなるかもしれないしなぁ…」

腕を組んで思い悩む。

「とりあえず武器の仕様だけでも決めよう…」
武器の種類は…ブロードソード、シミター、ファルシオン、ダガー、まぁいろいろあるが・・
「クレイモア、と…」

クレイモアは両手持ちの剣だが軽く、取り回しが良い。
その分打つのは難しいが、リューシャなら問題ないはずである。

「ん、アルティアもアイス食べる?」
ふにふにしながら残りの部分も埋めていく。

そうこうしているうちにリューシャが戻ってきた。
オシロも一緒である。

「おっかえりー」
二人に手を振って呼びかける。

[329] 2012/06/04 22:28:53
【えぬえむ道中記の17 呪い牛首】 by N.M

朝食を済ませ、宿を飛び出す。

「…とはいったものの、どうしたものかしら…」
コレまでの情報を整理する。
そういえばリューシャが言うには真っ白な魔剣を持つ者がいて、骨董屋を経営しているらしい。
そしてその人は白い髪をした女性らしい。

「よし、次はコレね」
指を鳴らす。
「とはいえ、取りあえず働かなくちゃ食べてけない」
目的とは裏腹にリソースガードの仲介所へ向かう。


仲介所が何やら騒がしい。なんか大々的な依頼が貼りだされたらしい。人ごみの隙間を縫って張り紙を確認する。
「ダウト…フォレスト…攻略作戦?」
「嬢ちゃん興味あるのか? 若いのに命を散らすこたぁない、やめときな」
「私向きじゃあなさそうね」
「そうだな。ダウトフォレストにはエルフが住むとか」
「エルフ…」
アイツが渡したヘレン教の情報によると、ヘレンはかなりの確度でエルフだという。
一般に流れているヘレン教の情報を集めてもそのような情報は見受けられないが…。
ヨタ話を集めたのかそれとも裏情報を掴んだのか。
どちらにせよえぬえむには判別がつかなかった。

傭兵たちの話を聞くに、エルフたちはものすごい強さだという。
その強さが本当ならば、もしかしたら、あらゆる人を救うことも可能かもしれない。

アイツは言っていた。
「力だ。絶対的な力だ。力があれば片手で世界を握りつぶすことも、最悪の結末をひっくり返すことも可能だ」

強者たれ。
ヘレン教の一部ではこういう教えもあるという。
自分に力はあるか? ただ殺すだけでない力が。

そうこう考えているうちに公騎士団らしき人が来たのでそそくさと受付に行きクエストをもらうことにする。

「なにかいいクエストある?」
「荷物運びとかどうかしら?」
「重いの?」
「そう重くはないけどなんか開けたら呪われそうっぽいから」
「っぽい?」
「まぁこれを螺旋階段って店まで運んで…」
「ちょうどいいわ! その店に用事があったのよ」
「じゃあ、ハイこれ」

渡されたのは一抱えぐらいある箱。

「何が入ってるんだろ?」
「まぁ骨董品店だし骨董品じゃない?」
「それもそうね」

箱を抱えてえぬえむは店を後にした…。

[341] 2012/06/05 22:56:36
【えぬえむ道中記の18 悪計】 by N.M

えっちらおっちら荷物を運ぶえぬえむ。

「泥水」前を通りがかるが、運悪く―というか案の定―封鎖されていた。
野次馬が輪を作り、公騎士団が厳重に警備をしている。

素知らぬ顔して公騎士団の一人に話しかける。
「あのぅ、ここで何があったんですか?」
「コロシだ、コロシ」
「こわいですね」
「全くだな。さぁあっちいったあっちいった」
「あと、もう一つだけ」
「何だ?」
「ここから『螺旋階段』って店に行くための道を…」
「あぁ、それならそこの道から回ってまっすぐだ」
「ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げ、道を急ぐ。

(うーん、確かに道にも死体転がってたけど…ここまで大規模な封鎖が必要かしら?)

そんなことを考えながらえぬえむは『螺旋階段』へ向かっていく。
店主は留守とも知らずに。

[350] 2012/06/06 22:57:53
【えぬえむ道中記の19 空圧】 by N.M

『螺旋階段』前。えぬえむは荷物を店の前に下ろした。
「なんだかんだで微妙に重たかったー」

ふと見ると張り紙が。
『御用の方はポストに用件と連絡先をどうぞ』
「来たのはいいけど留守か…」
とりあえず荷物を届けに来た旨と、魔剣について相談事があることをリューシャから聞いた旨を書き、宿を連絡先としてポストに放り込む。

「さてさて、これからどうしようかしら?」
とりあえず店の隅っこに届け物をおいておく。
「どこに行ったかわかればいいんだけど、残してる様子もないし」
後頭部を指でコツコツ叩き思案する。
「ダウトフォレストも気になるのよね…。報酬貰いがてらもうちょっと詳しい話聞いてこようかな」

そう心に決めるときた道を引き返すことにした。目指すは仲介所。

[364] 2012/06/07 22:55:08
【えぬえむ道中記の20 呪縛】 by N.M

「ただいまー。店主さん留守だったけど届けたよー」
「ちょうどよかったわね。彼女が『螺旋階段』の店主よ」
そこに佇むは白髪の女性。
「…ってことはあなたがソフィアさんね? リューシャさんから聞いてるわ」
「よろしくね」

早速魔剣を見せてもらう。

「これが噂の魔剣ね…何から何までアイツの情報通り過ぎて怖いわね」
「あいつ?」
「私の…まぁ、その、師にあたる人ね」
ちょっとだけ鞘から抜いてみる。

追憶剣の名の通り、記憶が脳をめぐる。つまりは直近の記憶。『泥水』の惨劇。
(うわー…)
あの状況でも冷静でいられるよう訓練されてなかったら発狂するところであった。
そもそもあそこで感情的にならないほうが狂ってるのかもしれないが。

わずかに抜いた刃を確認する。明らかに力のある、手に負えない魔剣。
「確かにアイツが喜びそうな剣ね…」
「なんか云われとか知ってるのかしら?」
「アイツは強い力を持つものが好きなのよ。で、改造したり対抗したりと」
「じゃあ解呪については…」
「アイツだから解くとしても力づくでやりそうね」
「それって危なくない?」
「リスクごと圧し折るような奴よ。いつかしっぺ返しくればいいのに」
肩をすくめる。

ついでに、紫ローブの魔術師、ウォレスから語られたという推察を聞く。
黒髪と白髪。ヘリオット。裏切りと魔剣からの解放。

「うーん、ヘレンとヘリオットねぇ…。情報源としては本当か怪しいレベルだけど、ヘレンがエルフだとしたら、ヘリオットもエルフかエルフに近しいはず。
 ならば、エーデルワイスもエルフに関わりがあるかも?」
「ダウトフォレストにエルフが住むって話は聞いたけど…」
「ちょうど二次侵攻がどうのこうの言ってたわね」

後ろで百人目おめでとうございます!などという歓声が上がっている。
当の本人はあまり嬉しそうな顔をしていない。というか死人同然の面である。

「ちょっと、エルフにあってみる?」
エーデルワイスを鞘に収め直し、えぬえむはソフィアに問うた。

[373] 2012/06/08 22:57:08
【えぬえむ道中記の21 呪術の儀式刀】 by N.M

ミスリル貨。
魔力銀として有名な金属を硬貨として鋳造したものである。

(つまりはコレでエルフと買い物しろってことよね)
材料もチラ見した限りでは、相当な貴重品が並んでいた。
アイツなら「あー、とりにいくのめんどくせー天から降ってこねーかなー」とかぼやきそうな品ばかりである。

気をつけろとはいっても、もう遅い。取りあえず前金はもらってしまったし、やるしか無いのだ。
前金の中身を見ると結構な額が入っている。
(コレを百数十人ぶん…よほどの額ね…)

なんだかんだで、ソフィアの店に一度寄ることになった。
道すがら、師への愚痴をぶちまける。
「ほんと、アイツだけはいっぺんぶち殺したいわ。勝てた試しないけど」
「はぁ…」

『螺旋階段』前。
「ついたわね。それで荷物はどこに置いたのかしら?」
「確か店の隅っこに…あったあった」
「ちょっと開けてみましょうか?」
「見てもいいの?」
「頼んだ覚えがないのが気にかかるけど…」

包装を開けると、木の箱が出てきた。その箱を開けると…

「なにこれ…」
「黒い…剣…?」

箱の中から出てきたのは柄から先ま真っ黒な、鞘に収められた剣。

「まるでエーデルワイスを墨で染めたかのよう…」
ソフィアが感想を漏らす。
「なんか関係があるんじゃないかって送ってきたのかもね。
 …黒耀石か黒鉄かと思ったけどこの材質は見たことないわね。エーデルワイスもそうだったけど」
「多分抜くのは危なくて、刃も真っ黒でしょうね」
「ただのイタズラの可能性もないわね。鞘を通してでもなんか魔力を感じるわ」
「……これどうしよう?」
「エーデルワイスと対になるか、少なくとも縁ありそうだし、エルフに見せてみよっか?」

謎の黒い剣。一体どういう秘密が隠されているのか。二人はまだ知らない。

[403] 2012/06/10 16:56:48
【えぬえむ道中記の22 虚像】 by N.M

昼なお薄暗い森、ダウトフォレスト。
えぬえむとソフィアはその真っ只中にいた。

「ダウトフォレスト、ねぇ。少なくともエルフとは取引ができる相手であるはずだけど」
「そうでなければわざわざミスリル貨渡してまで依頼はしないでしょうしね」

他の参加者たちの士気は高い。
前金を受け取ったとも言うのもあるだろうが、やはりダウトフォレストに隠されたf予算の手がかりだの、封印宮だの、女のエルフだのそういうものに興味があるらしい。

「本当に大丈夫かなぁ。反感買って私達まで襲われるかも」
ブツブツぼやいてるうちに準備が完了したらしく、第一陣が突撃を開始した。

突然虚空から矢が飛び出してきた。
傭兵たちの数名が胸や頭を穿たれ絶命する。

「んなっ!? どこから撃ってきやがった!?」
「上だ、あっちから飛んできやがった!」

遠くから見ていたえぬえむはソフィアに訊く。
「今の、見えた?」
「いいえ、全然…」
「数は少ない。けど、狙いは恐ろしく正確…。次はどう来るかしら?」

見ているうちに傭兵たちは次なる行動に出た。

「こうなりゃ焼き討ちだ! 松明用意しろ!」
「多分木の上から撃ってきやがったな。切り倒してやる!」
先陣の様子を見た後続隊は斧やら松明やらを持ちだして来る。

「…ダウトフォレスト(疑いの森)と言われる理由がわかった気がしたわ」
「?」
「例えば、あの傭兵が木に斧振るおうとしているけど…」

次の瞬間、木が不自然にしなり、傭兵を枝で強く打ち付けた。

「…ツリーフォークね。あんなコトされたら反撃食らっても仕方ないわね」

火も突進してきた獣―人の世では見たこともないような
―に踏み潰され、矢は降り注ぎ、一人、また一人と倒れていく。

「ちょっと安全な所に退避したほうがよさそう…」
「でも、安全なところってあるの?」
「わからない。けど見た感じ、敵意を剥き出しにした者から順々に攻撃してるみたい」
「専守防衛ってこと?」
「多分ね。そろそろ本陣から離れたほうがいいかも」

次の瞬間、獣が本陣に突進してきた。幻影を盾に咄嗟に躱す。ソフィアもマントを翻して防御の姿勢をとっていた。

「とりあえず、話せそうな相手が見つかるまで逃げましょう!」
「ええ!」

二人は森を逃げ惑う。
目を瞑れば付かず離れず追ってくる気配。そして、森の上に感じる巨大な存在。噂の『目』だろうか。

気づけば犠牲者の叫び声も聞こえない。獣の暴れる音も、木々が動きざわめく音も聞こえない。

「終わった…の…?」
「だといいけど…誰かがいるわ」

今まで何もなかったように見えるところから、一人。
その見かけは伝承に出てくるヘレンに酷似していた。

「贄の時間は終わり、交渉の時間が始まる。相応の代価を支払えば、それに応えよう」

おそらくは、エルフなのであろう。
見えはしないが、他にもそこらかしこに気配を感じられる。
下手な動きをしたらどうなるかわかったものではない。
森の木々や獣たちの監視の中、交渉は始まった…。

[456] 2012/06/13 21:30:23
【えぬえむ道中記の23 歪曲】 by N.M

「対価を出して、――だよー♪」

そう、彼―彼なのだ―は、アスカだった。

彼はドワーフだという。
エルフは明らかに動揺している。

ここに至るまでえぬえむは何をしていたか。
ちょっと前に遡る。

「対価にミスリルねぇ…」

えぬえむは悩んでいた。


ヘレンについて訊こうかと思っていたが、ソフィアがヘレンになりうるという。
そしてエーデルワイスはヘレンの情報を収集したという。
アイツならとても興味を持ちそうな話である。
もしかしたら知っていたのかもしれないが。
ヘレンになるのなら、ソフィアを見ればその生き様がわかるかもしれない。

リリオットの埋蔵金「f予算」についてははウォレスと言う少年―と言うには老成されている感じがするが―が答えを得た。

ならば、この黒い剣は。エーデルワイスと対になっていると言わんばかりの魔剣は。何かが引っかかる。

荷物袋から一振りの剣を取り出す。
アイツと関わってから日が浅い時に渡された剣だ。
今はより手に馴染んだ剣を自分で構築できるのですっかり忘れていたが…。
見合わぬ鋭さ、輝き、その材質は…。

「この剣、対価になりうるかしら?」
鞘から抜き放った真銀の長剣。
その輝きは今も昔と変わらなかった。

「…いいだろう。対価と引換に汝の問いに答えよう」
再び剣を鞘に収め、エルフに手渡す。

「私は、と…ソフィアさん?」
ソフィアは滂沱の涙をこぼしている。
エーデルワイスの封印。話から察するにエーデルワイスの記憶が流れ込んでいるのだろう。
エンドロールで流れを断ち切れば止まるのかもしれないが、ヘレンになりかけているのなら中断するのもまずい気がする。
「ちょっとこれ、借りるわね」
黒の剣を取り、エルフに見せる。

「私が求めるのはこの剣について。わかるかしら?」
「この剣は…情報だ」
一瞥してエルフが答える。
「エーデルワイスみたいに情報圧を攻撃的に使うの?」
「いや、この剣、柄、鞘、全てが情報そのものだ」
「えっ」
言われてみると握る手にぞわぞわした感触が。
「情報というけどどんな情報?」
「有り体に言えば、ありとあらゆる情報」
「…この剣の特徴とか名前とか記憶とかも?」
「少し見せてもらうぞ」
エルフに黒の剣を手渡す。
「この剣の情報を少し頂くぞ」
「どうぞ」

エルフは手をかざす。
エルフの手に黒い靄のようなものが吸い込まれていく。

「代価と回答の分は頂いた。応えよう」
エルフは語る。
「この剣は想起剣『マルグレーテ』。エーデルワイスに対抗するかのように造られた剣。
 エーデルワイスが情報を収集するのに対し、マルグレーテは情報を放出する。どちらにせよ、情報圧による攻撃は同じだ。
 情報は常に、万物に存在する。情報を少しずつかき集め、圧縮して放出する。流転するが故に放出しても失くならない。
 そして、この刀剣を打った者、製造者の名だが…ない。存在しない」
「えっ?」
「打った者はいる。だが、名前がない」
「……まさか」
もたげる疑惑。それを押し殺すように問う。
「他にはなにかないかしら?」
「刃を抜くと圧縮した情報が所有者を襲い、よくて廃人、悪ければ死ぬ。耐えられるもののみが真の力を発揮する」
「とんでもない魔剣ね」
「ちなみに今の情報はすべて吸収した情報によるもの。
 そして最後のは注意書き扱いとなっていた」

とりあえずマルグレーテを返してもらう。
エーデルワイスはもはや持ち帰れないであろう。
ソフィアにこの剣を買い取ってもいいかと訊こうとしたがどう見てもそれどころではない。
最悪何があったかも覚えていない可能性がある。

方針を考えていると地響き。起こる方角を見れば砂煙。
可愛らしい服を着た、筋骨隆々の男が向かってきている。
彼も、エルフの話を聞きに来たらしい。
そのあとは、ご覧のとおりだ。

男は残った手を広げ、ソフィアは涙を流し、ウォレスは成り行きを見守っている。

えぬえむはソフィアのそばに駆け寄り、目まぐるしく変わる情勢を見ることしか出来なかった。

[476] 2012/06/15 00:33:17
【えぬえむ道中記の24 空無】 by N.M

「これは困ったことになったわね…」
気を失ったソフィアを背負い、えぬえむは途方にくれていた。

ウォレスは何時の間にか姿を消し、アスカは到底手伝える状況ではない。
えぬえむは半ば引きずるようにしてソフィアを背負いながら森を歩いていた。
「エーデルワイスが情報を収集し、マルグレーテが放出するのなら…」
腰に下げた魔剣を手に取り、鞘をソフィアにあててみる。
「これで少しは持つかもしれない…」
流石に抜くのは危険だろうけど、と肩を竦める。
とりあえず縄で剣を固定し、再びソフィアを背負う。

しばらく歩いていると、ふわふわした耳毛を持つ人を発見。
何か俯いてて所在なさげである。
どうしたのだろうと声をかけてみる。
「こんにちはー。どうしましたか?」
こちらを向くと目を丸くて、
「そ、ソフィアさん!?」
どうやら知り合いだったらしい。
「うーん。長くなるけど…」
かくかくしかじか。恐るべきはエーデルワイス。欲しがる莫迦な師の気がしれない。
ついでに互いに軽く自己紹介を済ませる。
「…というわけで、ソラさん、ちょっと手伝ってもらえる?」

[490] 2012/06/16 17:09:32
【えぬえむ道中記の25 崩れゆく聖域】 by N.M

ソラと協力してソフィアを運んでいると、いつぞやの凍剣を持った男が現れた。
なんでもソラとソフィアの知り合いらしい。

彼―マックオートというらしい―に現状を簡単に説明する。
話を聞いて目を丸くしていたが、同時に話を理解したというように頷いた。

ひと通り話終えたところでソフィアが目を覚ました。
ソフィアはソフィアで、もはや自己の認識すら覚束なくなってしまっている。
やはり情報の塊とはいえマルグレーテを巻きつけるだけではだめなのか。
あのエルフは情報を取り出していた。それを真似することは出来ないか。

だが、今はその時ではない。当面は…

「…この通り、だいぶ侵食されてきてる。まずは落ち着ける所まで運ばないと。
 『螺旋階段』がベストだけど、この森とは丁度逆方向だし…私の泊まってる宿が近いかしら?」

ソフィアを載せた手製の担架を三人で運ぶ。道すがら互いのことを話し合う。

「…というわけなんだ」
「なるほどー……」

教会は教会でいろいろあったらしい。
そうこうしているうちに宿の前。日もとっぷり暮れてしまった。

「とりあえず、広い部屋一つ借りましょ。話はそれからね」

前に使ってた部屋はマックオートの就寝用でいいかなー、
さすがに寝るときに男女一緒の部屋はちょっとね、
とか内心思いつつ宿屋の受付へ向かった…。

[508] 2012/06/17 21:51:00
【えぬえむ道中記の26 地の獄の針】 by N.M

ソフィアは黒髪殺しを追っていたらしい。
エーデルワイス。マルグレーテ。二つの剣を使用して犯人の位置を特定したとか。

ソフィアを追った先にいたのはいつだか『泥水』近くで出会ったダザ。
だが明らかに様子がおかしい。

彼を見て「黒髪殺し」と断言するソフィア。

ダザは図星を突かれたか激昂してソフィアに襲いかかる。
ソフィアは表情を変えるでもなくマントでひらりひらりと攻撃を躱す。

そうこうしてる間にソラを抱えたマックオートが追いついてくる。

「えぬえむちゃん、ソフィアちゃんは!?」
「ダザさん、いや、『黒髪殺し』と戦ってるわ」
「ダザのこと知ってたの?」
「えぇ。最初会ったときは黒髪を憎む様子はなかったのに…」

等と言ってる間に『黒髪殺し』の語りは最高潮に達していた。

「ヘレンだ!ゴミ共を殺す戦いへの高揚感こそが、オレ達をヘレンに導くのさ!」

その言葉に反応するようにソフィアの白かった髪が金髪となり、動きも疾く、鋭くなっていた。
ダザがひるんだスキにソフィア(あるいはヘレンと言うべきか)はつぶやく。

「この男の肉体は傀儡。意思の本体は義足内の精霊。この意思の活動能力を喪失させる手段。義足の封印または切除」

マックオートが駆ける。魔剣とブラシが激突する。
ブラシでは分が悪いと見たか、義足による蹴りに変えてきた。

私も剣を構築する。その剣は針のように細く、鋭い。
「ソラさん、封印術の類はあるかしら?」
「あります」
「義足を狙って、撃てる? 当たったら追い打ちをかけるわ」
「ええ!」
そう言うと手を組んで祈りはじめた。
私もマックの加勢に向かう。

***

『黒髪殺し』は、1対2という状況下でも平然と攻撃を受け流していた。
あの針を振るっても軽く弾き返される。
マックが大きく後ろに蹴り飛ばされる。隙を突かれたわけではない。
赤熱した義足の威力が防御を大幅に上回ったのだ。

狙いをソラに定めた『黒髪殺し』。マックオートが割り込む。
だが、二度の蹴りで彼の体は宙に舞い上がった。

「マックさん!!」
「ふん、お前も一蹴りで後を追わせてやるよ」

マックがしたたか地面に打ち付けられる。
『黒髪殺し』が左足を振り上げる。距離的に間に合わない

駆ける。

それでも駆ける。

救える可能性がある限り、駆ける。

足が振り下ろされようとしたその時、義足を曙光の如き光が貫く。

「光よ……!」
『ガッ!?』

ダザの口からではない、義足そのものから発せられた声。
同時にソラが血を吐いてマックの上に倒れこむ。

千載一遇。この瞬間をおいて他にない。
神速一閃。針の如き剣が義足を貫く。

『グアアアアアアアアアア!!』

この世のものとは思えぬ断末魔。
もう一つ剣を構築し、居合の構えを取る。

「汝の執念、怨念、悪行三昧。夜明けとともに幕を下ろせ!」

義足を根本から断ち切る。

***

「…さて、どうしようかしら」
ソラは魔法の過剰使用が原因と思われるグロッキー状態、
マックは立てそうにない。ダザも気を失っている。それに義足もない。
義足が原因なら同じ義足を使い続けるのは危ないだろう。
ソフィアは一歩引いた場所で一連のやり取りをじっと見つめていた。

風に舞うチラシが私の顔を覆う。
引き剥がして中身を読む。

チラシはギ肢のオーダーメイドの宣伝。そしてそこにある似顔絵。
この絵には見覚えがある。彼女は一度宿で見たことがある。もしかしたら泊まっているかも。

「ソフィアさん、いやヘレンさんというべき? …三人を連れて宿に戻りましょう」

問題は二人で三人をどう運ぶか、だ。

[527] 2012/06/19 00:36:30
【えぬえむ道中記の27 修復】 by N.M

天は自ら助けるものを助くとは誰の言葉だったか。
ダウトフォレストで出会ったアスカと再会し、ソラたちを宿まで運んでくれることとなった。

「四人も担いて平気なの?」
「へーき、へーき」

平気というよりもはや重戦車か何かの兵器だ。

宿の前で別れを告げ、三人を部屋に寝かせる。
ソラは呼吸が苦しそうだ。熱もある。
マックオートはだいぶ痛手を負っている。包帯巻いて応急処置をしておく。
ダザは未だ目を覚まさない。相当精神が摩耗しているようだ。

今のうちにとギ肢技術士(チラシによるとリオネというらしい)の部屋に行ってみたがすでに就寝中だったらしく反応がなかった。
リューシャはまだ帰ってきていない。
ソフィアはあの通りヘレン状態である。
あいつが云うには「ヘレンが皆を救ったわけではない。皆がヘレンに救われたのだ」
義足を見てソフィアが何かつぶやいている。

何を言っているのかよくわからなかったが、平易な言葉で言い直してくれた。
念のため刺してた針を抜き、精霊結晶部分を突き砕く。
そんなことをしているうちにソフィアが部屋を出ようとしている。
なんでも「とこやみのせいれいおう」とやらの目覚めが近いらしい。
ものすごく嫌な予感がする。追わねばなるまい。
だが、三人を放置するわけにもいかない。

そこにリューシャが帰ってきた。
「アルティア、ソフィアを追って! 後から追うわ」

リューシャに簡単に事情を説明して宿を飛び出…


「あら?」
「…っと、ちょっと忘れ物!」

部屋に戻り、マルグレーテを手に取る。ついでにチラシと仕様書も。
「多分この人この宿にいるからダザさんが困ってたら紹介してあげて!
あとこれ仕様書ね! 今渡さないとなんか渡し損ねそうだから!」
「え、えぇ。わかったわ…」
いうだけ言ってリューシャの手に書類を押し付け、半ば呆然としている彼女を尻目にえぬえむは闇夜広がるリリオットへと駆け出して行った…

[538] 2012/06/19 22:44:56
【【えぬえむ道中記の28 二値化】 by N.M

えぬえむはアルティアを、そしてソフィアを追っていた。

(アルティアの位置なら目を瞑ったってわかる!)
冗談半分に目を瞑る。マルグレーテの鞘を握った手がチリチリする。

思考が闇に溶けていく…

***

脳裏に浮かぶはリリオットの街路ではなく、どことも知れぬ場所。
左右には本棚、そして目一杯詰められた本。
それらは全て白の枠と中身の黒で埋められている。
いや、感じる世界全てが、白と黒でできている。

「この世の全てが詰まっても、その手に掴むは虚ろのみ
 ここは開かずの大図書館、知も鍵無くば無用なり」

脳裏に響く声。いや、声と言うよりは文字。心に思い、問い返す。
「あなたは誰?」
「え? お前がそれ訊く? ゲラゲラゲラ」
突然格好つけた喋り方を捨てて笑い始めた。最悪である。
「答える気がないならいいわ。ここはどこ?」
「お前が握ってるマルグレーテの心象風景だ」
今度は存外あっさり答える。わけがわからない。
「無限に広がる情報も、在処知らねばただの屑。全ての知識を持て余したる、愚者の聖堂、情報庫」
「へぇ、それでマルグレーテは辞書で他人を殴るような武器に?」
「まぁな。鞘だけでも殴り続ければ人は死ぬ」
「バールのようなものでも同じでしょ」
「で、結局マルグレーテって何なの」
「情報だよ。錠前かけて、誰にも開けられない無用となった情報の塊だ。無理にこじ開ければ死ぬ」
「エルフはなんか読み取ってたけど」
「鞘だしな。名札みたいなもんだ」
「錠前といったわね。『鍵』はどこ?」
「え? お前がそれ訊く? ゲラゲラゲラ」
「ふざけないで」
「まぁ昔話をしてやろう」

どこぞに金髪の女エルフがいた。
武器を持たせりゃ部族内で敵うものはいなかった。

部族間の闘技でも、彼女を破るものはいなかった。
彼女は全てを打ち倒してなお不満気だった。

そうしているうちにただの力比べでは満足できなくなった。
彼女は故郷を飛び出した。

彼女は強きものを探した。
弱きものは強きものに悩まされていた。

彼女は斬った。
強きものを斬った。

弱者は救われた。
彼女は不満気だった。

強きものが弱かったからではない。
弱きものが何も知らずに彼女を讃えたからでもない。

彼女は、餓えていた。
戦に、餓えていた。

彼女は戦って戦って戦い続けた。
何も言わず、弱きものを救うその姿、まさに英雄なり。

だが、違う。
真実は、違う。

彼女を敬うものたちが現れた。
彼女を崇めるものたちが現れた。
彼女に恋焦がれるものたちが現れた。

それでも彼女は意に介さなかった。なぜか。
彼女には戦いしかなかったのだ。

「…で?」
「ソフィアを救いたくはないか?」
「何よ突然。そりゃ救いたいわよ」
「他はどうだ? ソラは? マックは? ダザは?」
「救いたいと思ってなきゃ宿まで運ぼうと思わないわよ」
「なんだかんだでお前も甘いな」
「さっさと要点に入りなさい」
「さっきも言った通り、マルグレーテは情報だ。何の、では無い。全ての情報だ」
「記憶を失う前のソフィアの情報もあるわけ?」
「当然だ」
「鼻持ちならない物言いね」
「当然だ」
「もう突っ込まないわよ。で、どこにあるの?」
「お前の記憶力悪いねぇ。『鍵』が必要に決まってんだろ」
「つまり、それを見つけろと?」
「お前は知ってるはずだぞ。じゃ、そろそろ追いつきそうだからお暇するわ」
「ちょ、ちょっと待って」

***

ぼふん。何かにぶつかる。
ソフィアだ。アルティアが心配そうにこっちを見ている。
「ちょっと勢いつきすぎちゃった。てへ」
笑ってごまかしアルティアの方を向く。そこには、闇。

「…『ソフィア』さん、これは…」

[552] 2012/06/20 22:11:19
【えぬえむ道中記の29 嵐を運ぶ者】 by N.M

解は常闇。
先ほど言ってた「とこやみのせいれいおう」いや「常闇の精霊王」。それが、この闇らしい。
徐々に広がる闇。相当強力な力の持ち主に違いない。
だがソフィアの中のヘレンはそれを何事もないかのように語る。

「えぬえむ すこし さがってて」
「? ソフィアさん、何を…」

抜かれるエーデルワイス。刃を見ただけでわかる凄まじい情報圧。軽く振るだけで灰燼残さず吹き飛ばしかねない。

「やみ には ひかり を。せいれい には せいれい を。 きりさけ えーでるわいす」

破滅級の一撃を、ソフィアは何の躊躇いもなくぶっぱなした。

***

闇は裂かれた。空は凍った。あまりに非現実的な現象。
ソフィアは障害が取り除かれたとばかりにずんずん進む。
慌てて後を追いかける。

(何が起こってるんだか…)
(見たか、エーデルワイス。いつ見てもすごいねぇ)
突然割り込む文字の声。
(だから何よ)
(マルグレーテでも似たようなことは出来るぜ)
(抜いたら死ぬような武器が使えるとは思えないけど?)
(まぁそれも一理あるな)
(あるな、じゃないわよ。だいたいあんた何者よ)
(抜けばわかるぜ。まぁ抜けないけど)
(じゃあどうすればいいのよ)
(あ? お前も存外鈍いな。お前は既に知っている。『鍵』もある。後は理解するだけだ)
(だからズバリといってよ)

だが声は返らない。

ソフィアを追って走り続ける。
ドームの中心部に見えるは、教会か。


闇を切り裂く白の剣、
闇く沈みたる黒の剣。

二つの剣は闇の根源へと駆けていった…。

[578] 2012/06/22 00:47:31
【えぬえむ道中記の30 狂乱爪】 by N.M

ソフィアについて行くとそこには人が。人々が。
「何、この人たち…」
ソフィアの話から察するに、悪意のある精霊に乗っ取られているらしい。
(大正解)
求めていない返事と共に、群衆が私とソフィアに襲いかかった!

***

さすがに切り捨てるのも躊躇われるのでソフィアがマントで受け流した相手をマルグレーテで片っ端から殴っていった。
特に威力があるということはなかったが、暴徒を鎮圧するには十分だった。

ともかく二人の前では暴徒も風に吹かれる木っ端の如し。
互いに手加減してもこんなもんである。

「ダザさんの場合はわかりやすかったけど今回は…」
などと思ってたらソフィアが倒れた男に濃厚な口付けを始めたではないか。
口付けを終えると情熱は何処へやら、男を放り捨て、あまつさえ口が穢れたと言わんばかりに何か黒いものを吐き出した。
なんでもこの黒いものが群衆を狂気に駆り立てた原因らしい。
見ててなんかアレなので傷口からの吸引を提案してみたが、傷つけるのは趣味じゃないという。

なんだかなぁと思いつつ、処理が終わるまでベンチで休むことにした。

***

「おわった」
その声に閉じてた目を開く。
闇は北の方角へ逃げている。鉱山の精霊が目当てか、また別のものか、

ソフィアはまっすぐ向かわず、何かを追うかのように道を辿り始めた。
果たしてそこで見つけたのは、左腕が義手の少女と、闇の塊。

(こいつはお前の知り合いだな)
(彼女とは初対面だけど?)
(闇の方に決まってんだろこのすっとこどっこい)
(いや知らないわよ?)
(お前も薄情だな。見た目に惑わされんな。チェスした仲だろ)

そこまで言われると、心当たりは一人しかない。
「…まさか、オシロ!?」

[604] 2012/06/23 02:26:17
【えぬえむ道中記の31 貪る炎】 by N.M

肉体言語の押し問答。
同時にソフィアはオシロに問いかける。

これはちょっと割り込めない。
しかし、この闇の塊がオシロで、常闇の精霊王を精製したとはちょっと信じ難い。
(事実は事実だ。受け入れろ)
そのオシロは、人殺しはもう嫌だと言っている。
だが、もう手遅れに見える。
闇は動き始めた。あとは自力でなんとかするアテがあるのだろう。
精霊鉱山で精霊を…
あの時ウロは何を貰ったか。たしか神霊の採掘と言ったか。
「まさかあいつの目的は神霊…」
ソフィアの中のヘレンは勝つためにオシロの力が必要と考えているらしい。
(もしかしてあんたも精霊王の封印方法とか知ってるの?)
マルグレーテからの声に問いかける。
(128個ぐらい瞬時に思いつくね。だが解は出さない)
(けちー)

ソフィアと緑髪の少女が間合いを取る。
割り込むなら今だろう。

「二人とも落ち着いて。私達はあの常闇をなんとかしたいだけ。一緒にきてくれれば助かるのだけど」
オシロのほうを向く。
「あと、もう目覚めないと言ってたけどそれは間違いね」
レディオコーストが深い闇に包まれて行く。
「闇が動いてる。目覚まし時計を手で探るかのように、精霊、恐らくは神霊を掴むわ」
緑髪の少女を見やる。
「手遅れになる前に鉱山へ。さもなくば…」
肩を竦めて鉱山のほうを向く。
「全て死ぬだけよ」
振り向かず言葉を続ける。
「オシロ君。私は行くわ。関わりたくないというならそれでもいい。けれども、あれを精製した事実は変わらないわよ」
再び振り向き二人を見る。
「まずはアレを、常闇を始末しましょう。そのためには人手は多いほうがいいわ」

[619] 2012/06/24 01:08:08
【えぬえむ道中記の32 風蝕刃】 by N.M

とにもかくにも、オシロと緑髪の少女レストを加え、鉱山へ向かうことになった。
鉱山へ向かう途中、いかにも魔法少女的な女の子が空から急降下着地してきた。
「ホーリーヴァイオレット、ただいま参上!!」
なんだかんだでレストを知っているらしく、一緒にくることになった。
黒髪殺しを追っていたらしいがその件は解決した旨話すと、
「あ、あらそうなの…あはは…よかった…」
なんか振り上げた拳の着地点に困ったような反応だった。
オシロのほう表情こそ見えないものの、安堵のため息が聞こえた気がした。

そうこうしているうちに、鉱山入口へ。
後ろからくる足音に振り向くと、そこにはリューシャが。
灯りをアルティアに任せ、歩を進めながら情報交換をする。

リューシャは奥までは来ないらしい。彼女の魔法は役に立つかと思ったが、戦いは不得意なので遠慮するという。
鍛冶屋は強いというイメージがあったがサンプルがあいつである。参考にならない。
「そのかわりと言ったらなんだけど、えぬえむ、この刀を使う気はないかしら」
シャンタール。リューシャの持つ、曰く付きの妖刀。
普通この手の武器で真っ先に犠牲になるのは製作者である。
「抜いた人間をみんなって……リューシャは?」
「……わたしは製作者だもの。例外でしょ?」
「そうかしら。製作者が死んだとか発狂したとか、そういう魔剣の話ってよく聞くけど」
リューシャ本人の元へ戻っていることも気になる。
普通なら戻らず犠牲者を増やすものだ。

「まあ、時間はまだあるし、もう少し考えたら?」

そうこうしているうちにリオネやマックに合流した。
リューシャは街の暴動の対処をしに行くという。

ソフィアは、いやヘレンは戦いが終わればソフィアを返すという。
ただ、闘う。死んでも悔い無き純粋さ。
ヘレンの笑顔は、とても護りたくなるものだった。

[629] 2012/06/24 22:58:20
【えぬえむ道中記の33 災厄の剣】 by N.M

いつだかアイツが言っていた。
「いいか。『救う』と言うことは、救う対象に仇為すモノに逆らうことだ。
 刀剣、傷、病、重力、死、破滅の運命。お前は、全てに逆らえるか?」

***

ヘレンの精神感応網。
一度、似たようなものを見たことがある。
無損失疎通路。
無限の知覚が開かれる。
そのとき、頭の中で、最後の1ピースがかちり、とハマった。

***

ソフィアが飛び出すことにより、エフェクティブたちの攻撃が殺到する。
彼女が察知した相手は全くの損失なく私の知覚に伝わる。
狙いをつけ、射角を調整しながら精霊砲をチャージする。
(天に満ちたる星々よ、地に溢れたる精霊よ。我が妖精の手に宿りて、全てを揺るがせ。スターシェイカー)

アルティアへの合図とともに、無数の精霊砲が過たず敵を貫く。
坑道を崩す音が聞こえる。
マックとソフィアに遅れないよう、坑道を奥へ奥へと駆け抜ける。

***

通路の果て。大空洞。そこには神霊が、そしてオシロがいた。
マックが呼びかけるがオシロの返事はない。
なにか物凄く嫌な予感がする。アルティアも私の左腕にしがみついて震えている。

「…ソフィア、エーデルワイスあるわね。それで、マルグレーテを斬って」

そう言って黒の剣を掲げる。
ソフィアも白の剣を掲げる。
マルグレーテの情報圧。耐えられるものがあるとすれば、それはヘレンの精神感応網を吸収したエーデルワイスのみ。

「1,2の3で行くわよ」
「わかった」
「それ1,2の…3!!」

交差する剣。砕け、バラバラの情報に分解される鞘。押し寄せる情報圧。

1010100010100010101

彼女は正しかった。マルグレーテの情報の奔流を受け流せるものはエーデルワイスだった。
彼女は間違っていた。エーデルワイスを持っているのはソフィアだった。

溢れる情報は、えぬえむをアルティアごと飲み込み、そして、何も残さず、消えた。

0010101010011010100

「ここは…」
私が気づくとそこには何もない。自分もない。全てがない。
(ようこそ、全ての情報へ)
「これは一体どういうこと?」
(お前は『情報』そのものになったんだよ。0と1の集合体)
「つまり、死んだのね」
その言葉とは裏腹に、自分の心は落ち着いていた。
(何馬鹿なこと言ってんだ。お前は全てだ)
「こんなに要らないわよ。不要なものが多すぎる。宇宙の果ての星の動きとか興味ないし」
(なぁに全ては連鎖してるのさ)
「全てといったわね。では全てを救う方法は?」
(無いな。そもそもこれは情報を集め、情報で以って全てに逆らう剣だ。相反する2つのものを両方破壊することはできても、両方救うことはできぬ)
「敵も救えと?」
(それが全てということだ。誰かが割を食うしか無いんだよ)
「本当に?」
(やってみろよ。今のお前にできることを)

00101010100010111010

情報が再構築される。0と1が組み合わさる。
そこには黒髪、黒目、黒ストラップシューズのいつもの少女。
ただひとつの違いは、背中に広がる4枚の羽。
広がる闇よりなお闇く、羽の中では太陽が、月が、惑星が、星々が、宙を巡り、輝いていた。
(情報化した時、アルティアと一緒になっちゃったみたいね)
黒い剣を握る。刃からは情報が黒い靄となり無限にあふれだす。
剣を回して突きつける。

「…さぁ、精霊王。死の連鎖反応、その終端。汝を弑して、終わらせる!」

[653] 2012/06/25 23:59:07
【えぬえむ道中記の34 暗殺】 by N.M

あの時アイツはなんと言ったか。

「『あのクソッタレ以外』が『生き残る』。」

***

マルグレーテの唯一欠けてた情報、剣の打ち手。

その姿形は見覚えがあって…

***

正義気取り? そうじゃない。
私はただ目の前の敵を砕きたいだけ。

オシロがマスターオブエフェクティブ?
圧政に対する聖なる戦い?
街に光を取り戻す?

そんなのはどうでもいい。本当にどうでもいい。
ただただ、目の前の傲慢極まりない存在が気に食わない。
だいたい「常闇」とやらが光を取り戻すとか臍で茶が沸く。

もはや言葉は要らない。
私は私のやり方で、全てを、打ち砕く。

***

八体の人形。どれも性質を一点特化させた力ある精霊だ。
マックが向かう。人形を光の剣を抜き、拳で殴り、斬り裂く。
ソフィアもエーデルワイス片手に突撃する。

この程度、マルグレーテを抜くまでもない。
手を合わせてマルグレーテを虚空へしまう。

「無明闇夜よりなお冥き闇、その身に刻んで悔いて死ね」

***

飛び交う人形。そのことごとくを無視する。

ソフィアが「神霊」に叩きつけられる。
ちょっと驚いたが突き刺した短剣を見て、思わず笑みがこぼれる。
それはそれとしてソフィアを傷付けた分も上乗せである。

最速で、戸惑うオシロに近づく。光の精霊ごと手刀で斬りつける。闇の精霊が防ぐ。

返す拳を情報化する。光の精霊が何かしているが、無視。

「想起せよ、汝の敗北を」

現れるは市松模様の盤面。そして、チェスの駒。


「あの時お前は、どう打った?」

「あの時お前は、どう指した?」

「あの時お前は、…」

「あの時…」

拳を叩きつけるたびに進む盤面。

「そして、あの時お前はクイーンを取った」

「なれば、その後は?」

「私の手は何だった?」

「死角から来る騎兵『ナイト』が」

「背後を通る僧兵『ビショップ』が」

「そして最奥で成りたる歩兵『ポーン』が」

「精霊王『キング』をチェックメイトに追い込んだ」

マックの剣と、私の手、そしてソフィアの愚霊剣。

その三閃がオシロを、神霊を貫いた。

そのままオシロの真髄を掴む。

01010001001010101…

情報となり、融けて、圧縮され…

FFFFFFFFFFFFFFFFF…

塊となった情報を握りしめ。

「神霊と共に、ぶっ死ね!!」

全力の拳を神霊に叩き込む。
ソフィアが反動で飛ばされ、マックが間一髪受け止める。

神霊も情報と化し、潰れた情報の塊をさらに押し潰し、虚空へ、消えた。

[680] 2012/06/27 00:01:45
【えぬえむ道中記の35 迷彩】 by N.M

「四つ。」

リリオットからやや離れた丘の上。

男がつぶやく。

***

精霊王は跡形もなくなった。
常闇は潰えた。
そしてそこにはソラがいた。

しかし、あの時「えぬえむ」と呼んでくれた。優しい少女の姿は微塵もなかった。
憎しみに囚われた、不合理な感情を持って。

今の自分なら憎しみごと砕けるかもしれない。
だが、砕いてしまっては救えない。

などと考えているとソフィアがくずおれた。
ヘレンが限界に近づいているらしい。

取り落としたエーデルワイスを返す。
握りしめたエーデルワイスの刃をマルグレーテの刃と交える。

黒髪の癒師の記憶が。
幽閉されし少女の記憶が。
破滅呼ぶ時計の男の記憶が。
業持つ清掃員の記憶が。
精霊王の記憶が。

そして、螺旋階段の主の記憶が。

ソフィアを、ソフィアたらしめる。

***

(うわーソラって肉食系だなー濃厚な口付けだぜ)
(あんたの情報が死の呪いだと告げてんだけど)

(ジョークも情報の一つだ。…ジーニアスねぇ。あれ嘘っぱちだ)
(何言い始めてんのよ突然)
(いいからマックのヤローに渡せ。奴には情報が必要だ)

ちょうどマックオートが近づいてくる。触ってもいいかと訊かれたので何気なく渡す。

どうせ持たずとも直結してるのでマルグレーテと交信を試みる
(何話してるのよ)
(まぁヤツが悩んでたようだからな)
(どういう風の吹き回し?)
(ソラを救うにはヤツがうってつけ。それだけのことだ)

マックは何を思ったか駆け出した。
放り出されたマルグレーテを拾う。

その頃にはソフィアも起き上がっていた。

***

「これからどうしよっか」

(ぼさっとしてる暇はないぞ。暗弦七片。核融合炉大爆発。市民の暴動)
言葉に圧縮された詳細な情報。それはリリオットの破滅への道を示していた。
(最善はここから逃げ出すことに思えるけど?)
(抗うこともなくか?)
(まぁ止められるなら止めるに越したことはないけど…)
(歩きながらでいい。思考せよ。全てに抗う一閃を)

***

「…えぬえむ?」
ソフィアが心配そうにこちらを覗き込む。
「ソフィア…?」
「ええ、私は、ソフィアよ」
「……っ!!」
それ以上言葉は出なかった。抱きしめるというより、抱きつく、その感触。
それは、とても暖かくて…

「何やってんだ?」
男の声に我に返る。あわててソフィアから離れる。ソフィアも心なしか照れている。
「…って…ウロさんじゃない。こんなところで何を?」
「神霊を掘ってたんだがな…まぁもう無くなったようだな」
「ごめんなさい…」
「気にすんな。ここはあらかた掘り尽くしたし、次の山を探す頃合いだ」
「そう…じゃあ一緒に下山する?」
「そうだな」

***

「何か手を縛られたまま眠ってる人がいるんだけど」
「あれ、これ夢路さんと言ったっけ?」
「マーロックの秘書やってたぞ」
(こいつバクだからなんか特殊なもので捕縛したほうがいいぞ)
四者四様の反応。
「あの赤い糸ある? ちょっと借りてもいい?」
「いいけど、一体何を?」
「まぁ彼女もエフェクティヴだろうし念のため、ね」
きっちり縛ってウロに渡す。
「何で俺が」
「あの時の趣向返し。それと、放っといてなんかあったら目覚めが悪いし」
一行は山を降りる。鉱山の危機は去った。今度はリリオットの危機である。

[700] 2012/06/28 01:42:35
【えぬえむ道中記の36 明鏡止水 】 by N.M

「三つ」

男がまたつぶやく。

***

食事をとってた偶像が何かに惹かれるように飛び出す。

あとをソフィアと追ってみると、そこには行進を続ける少女の姿。
マルグレーテの情報が、彼女こそリリオット家のマドルチェだと告げる。
ともかく彼女を止めなければ惨事は止まらない。

「刹那の幸せ振りまいて、残すは屍ばかりなり。
 汝が望む幸せは、心なき死の道程か?」

大仰に問う。同時に虹色の剣を振るい、耳目を集める。
(ソフィア、任せたわよ)

「あなたはハッピー?」
無邪気な笑みを浮かべて問いかける。
「答は、否ね」
「じゃあ私がハッピーにして「お断りします」
拒絶の言葉と共にマドルチェが仰け反る。
観客はどよめく。リリオット卿は呆然とする。
何の事はない。黒い情報圧を拳として飛ばしてぶつけたにすぎない。
「あなたは少々幸せを振りまきすぎた」
再び殴る。仰け反る。それでも笑顔は消えない。
事情を察したのか像が向かってくるが、剣で軽くあしらう。
「あなたはやり過ぎた。あなたにふさわしい罰」
再び殴る。
「偽りの幸せから引き剥がす」
再び殴る。きっと死ぬ間際でも笑っているのだろう。
「あなたの失ったものを以て!」
その瞬間、偶像に紛れてたソフィアが、

光る右手で、

哀しみで、

マドルチェの失くした負の感情で、

「哀しみかあるからこそ、幸せもあるのよ」

そっと、撫でた。

***

マドルチェは呆然としていた。
そして精霊が躰に染み込み…
空を向いて、地面にへたり込み、大声で泣き始めた。
それを合図に、偶像も精霊となって消えていった…。

「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずお店入りましょうか」
ぐずるマドルチェと展開について行けないリリオット卿、そのお付きのメイドともども、ラペコーナに入っていった…。
「さて暗弦七片について訊かないと」

[720] 2012/06/29 01:14:11
【えぬえむ道中記の37 絶対心眼】 by N.M

「二つ。」

男はつぶやき、丘の上に寝転がる。

***
マドルチェの七片『絶望』は、彼女のイヤリングだった。今はソフィアの耳に飾られている。
ラペコーナで事情説明をしていると、転移の魔力が展開する。

マルグレーテで確認。逆算。

「…ソフィア。コレはダザさんのところへ跳ぶみたい。そして、龍と、観測者と…。とにかく、了承すれば跳べるみたい。」

などと説明してたら夢路とウロがすっ飛んでいた。

「危なくない?」
「むしろ出た先のほうが危ないわね。でも、虎穴に入らずんば虎児を得ず、って言うでしょ?」
「じゃあ、行きましょう」

そして二人も跳ぶ。

***

「英雄は、いないのでしょうか」

そうつぶやくヴィジャの背後に現れるえぬえむ。
「英雄なんていないわね。そんなのはお伽噺の中だけ。真実は、奇人、変人、戦闘狂」
「では、貴方は何者でしょうか」
ヴィジャが問い返す。
「私は私。それだけ」
「貴方もあの呼び掛けに応じたのかしら」
観測者、カガリヤが問う。
「もちろんよ。聞くまでもないでしょう?」
ヴィジャと背中合わせになる。金属特有の冷たさが伝わる。
「貴方も、暗弦七片が一つ『歯車の指輪』を持っている」
「はい」
「頂くわ」
「その前に、僕を倒してください」
「…それしか手がないのなら」
「手加減は、できませんよ」
「ならば、私もちょびっと本気を出しましょうか」

変動:エンドロールを4番目に、ハルシネイションを1番目に。
カガリヤが一瞬目を見開く。

えぬえむは高らかに宣言する。
「これは、決闘よ。他のものは皆手出し無用」
「いつでもかかってきてください」
「ならば、三歩進んで振り向いて斬る。いいわね」
「いいでしょう」
二人が離れる。一歩。二歩。三歩!

***

「あなたの手はわかっている。初手を見せ、その反応を伺い、後の先をとる」

振りぬく剣。飛び散る火花。

「そして、避けられぬ死の運命を以って、眼前の敵を貫く」

居合一閃、伸びる腕。
剣閃は腕を切り裂き、
腕はえぬえむの心臓を貫く…

「残像よ」

確かに貫いたはずの心臓。だが、そこにあるのは、長い、長い針。
空間に止められたかのごとく、引くことも、押し抜くことも出来ない。

「天を惑う星々よ。我が命に従い、剣と為せ」
羽を巡る星々が次々と飛び出し、刃となる。

「禍の火種、災厄の剣」
燃え盛る剣が金属の体に傷を入れる。

「混沌の呼び水、狂乱爪」
ねじくれたナイフが肩甲骨を貫く。

「木霊する風、嵐を運ぶ者」
豪風とともに大剣が真一文字に斬り裂く

「打ち砕く金剛、岩穿ちの剣」
無骨なサーベルが腹を貫通する

「巨岩を土塊へ還す、風蝕刃」
小振りのソードブレイカーが身を削る。

「貪欲たる日輪、貪る炎」
黒く輝く処刑剣が叩き込まれる

「そして月夜に煌く死の刃…」
ヴィジャの目の前まで寄る。
その手には薄く、儚く、鋭い刃。

「暗殺」
その一振りはヴィジャの、頸動脈にあたる部分を、斬り裂いた。

[737] 2012/06/30 00:39:44
【えぬえむ道中記の38 沙羅双樹】 by N.M

「一つ」

男は上体を起こした。
***

雨が降る。

ヴィジャが遺した歯車の指輪を拾う。
「総ては救えない。オシロも、ヴィジャも、犠牲になった」

集まった暗弦は二つ。カガリヤと対峙しているリオネの分を合わせても三つ。足りない。

そこに来たるはランプを提げた少女と石を握った少年。
ウォレスの古城からリリオットへと戻ってきた、すみれとペテロだった。

「それ…もしかして、暗弦七片!?」
「え、えぇ。これが『希望』と…」
「『勇気』…」
ランプと石を掲げる。

「これで五つ。あとの二つは…」

舞台の上には、一人の騎士。

その躰はボロボロで。

でも。だからこそ。

声をかけずにはいられなかった。

***

暗弦七片の記憶。

役者たちの心。

深い、深い、孤独。

それらはマルグレーテを通じて想起され、

えぬえむは、

涙を、流していた。

[760] 2012/06/30 21:50:17
【えぬえむ道中記の39 白紙―名も無き剣師】 by N.M

「ゼロ。時間だ」
男は立ち上がり、顔をしかめる。

「核は……、止まったか」
そうつぶやくと、リリオットへ向かい、歩き始めた。

***

気がつくと、ソフィアに抱きしめられていた。

「うっ…ぐすっ…」

「えぬえむは英雄じゃない。けれど、ただの人殺しでもないでしょう? あなたが頑張らないと、街は失われていた。
 私の知ってるえぬえむは、それを見過ごせずに頑張っちゃうような、お人好しの女の子だよ」

その言葉を反芻する。
自分は何か。私は私だ。妖精とストラップシューズが大好きで、困っている者には手を差し伸べ、反する者は咎めたがる。
何が正しくて、何が間違っているか。何も、何もわからない。
…結局、迷いながらも自分の道を信じて、進むしか無いのだろう。

***

ソフィアは私と一緒に、アイツに会いに行く事に決めたらし…えっ?

「し、正気? 前に話したと思うけど、アイツはあんな奴よ!?」
「まぁまぁ。会ってみなくちゃわからないじゃない」
「ほー。どんなことを話したんだ? ん?」
誰かに後頭部を鷲掴みにされる。いや、もうわかっている。後ろを振り向かなくてもわかる。
アイツだ。作務衣を着て、ボサボサ頭のアイツだ。頭を掴まれたまま持ち上げられる。
「あ、あなたは?」
「あー、不肖の弟子…弟子でいいのか? まぁ弟子でいいや、がお世話になりましたな。ソフィアさん」
「いえ、こちらこそ…」
「いやーうちの馬鹿弟子がさぞかし迷惑かけたことでしょう。まぁ恩返しには足りないかもしれませんがぜひいらしてください」
やっと解放される。まだ頭が痛む。

行く前に店じまいをするとのことなのでソフィアと一度別れた。
その間もアイツは好き勝手行動する。

***

「おっ、光陰相対流のカラスじゃねーか。何呪われてんだ? ん?」
えっ、と思い、アイツが声を掛けた騎士の方を見る。
よくよく見る。衣装が変わっても、姿が変わっても、心で見れば確かにあのカラスだ。

「私を…知っているのですか?」
「まぁな。実のところ、侍同士の例の争いに紛れ込んでたしな。その釘引っこ抜いてやろうか?」
どこからか釘抜きのようなものを取り出してカラスに近づく。
「それで抜くのは痛そうなのでいいです」
「いやいや、コレで叩いて貫通させる」
「もっと痛そうじゃないですかー! やだー!」
そろそろ止めどきである。

「いい加減にしなさい」
本気でアイツの後頭部にマルグレーテを振り下ろす。
ガチリ、という鈍い金属音。あろうことかマルグレーテを釘抜きで受け止めている。バケモノである。
「あぶねーなー」
「呪い解くにしてももっとマシな方法はないの?」
「だって準備面倒じゃんそういうの」
「はぁ…」
アイツのフリーダムさ加減には呆れるしか無い。

***

待ち合わせは『螺旋階段』。それまでに、済ませることがある。向かいながらアイツに話しかける。

「ねぇ…マルグレーテを打ったのも、マルグレーテを『螺旋階段』に送りつけたのも、あんたの仕業でしょ?」
「まぁそうだな。材料見つけんの苦労したなー。打つのも苦労したなー。で、なんだ?」
「これ、返すわ」
意外だ、とでも言いたげに口笛を鳴らす。
「ほー、全てを斬り裂く究極の力を要らないと言うか」
「だから、よ。想起剣とはいうものの、その実は暴虐の剣、弑逆の剣。逆らうものを悉皆殺しするための剣」
「それでも、救えるものはあっただろう?」
「本当にこれが必要だったかは、疑わしいわ。とにかく、こんな力なんて要らない」
自身を情報化し、自分とアルティアを取り除き、再構築する。
そこにいるのは、妖精を頭に乗せた、いつもの自分。手には柄から鞘まで真っ黒な、一本の剣。
「返すわ」
マルグレーテを投げ渡す。
「へぇ。その剣の力なら、俺を殺すこともできたんじゃないか?」
「そんなのは殺したとは言わない。アンタだけは私の力だけで殺す」
「救えなかった奴らのことを悔いてた少女のセリフとは思えんなぁ」
「アンタだけは例外よ」
「いいだろう。いつでも殺しに来いよ」

***

『螺旋階段』前。
そこには、幸せを追い求めた少女と、涙で顔を濡らしたソフィアの姿があった。
旅の道連れを増やし、リリオットでの冒険は、終わりを告げる。

だが、彼女の旅路は、終わらない。

***

かつて、精霊の街に未曾有の危機が襲った。
そして、危機は解決した。
語る者もいるだろう。調べる者もいるだろう。
その中で一輪、街を駆け巡り、危機を防ぐために剣を振るった、一人の名も無き剣師(Nameless Marguerite)がいた。

お人好しな彼女は、今もどこかで、妖精とともに、自分の道を信じて、闘い続けている。
Neverending Mobiusloop.(おわり)

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