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HP70/知5/技5
・アナ・ライザー:穿孔/50/0/13 防御無視
・アナ・ライザー:破岩/60/15/17 炎熱
・アナ・ライザー:防壁/0/45/6
・アナ・ライザー:殴打/5/0/1
・アナ・ライザー:塹壕/0/90/12
1.開幕は『アナ・ライザー:防壁』
2.「相手のHP≦50、かつ「相手の攻撃力+技術×(13−相手のウェイト)<自分の現HP」なら『アナ・ライザー:穿孔』
3.「相手のウェイト<17」かつ「60+0.6×経過カウント<相手のHP」なら『アナ・ライザー:破岩』
4.「相手の攻撃力<自分のHP」かつ「60+0.6×経過カウント<相手のHP*2」ならば『アナ・ライザー:破岩』
5.相手が防御無視なら『アナ・ライザー:殴打』
6.「相手のウェイト>13」なら『アナ・ライザー:穿孔』
7.「相手のウェイト<5」かつ「相手の攻撃力<50」ならば『アナ・ライザー:防壁』
8.「相手のウェイト<11」ならば『アナ・ライザー:加護』
9.さもなくば『アナ・ライザー:殴打』
男。
28歳。鉱山夫。
「精霊語らい」あるいは「鉱脈滅ぼし」とも呼ばれる「流しの鉱山夫」。
地霊の声を聞く能力と鍛え上げられた身体能力で、鉱山から庭の畑まで掘る。
リリオットには3年ほど前にふらりと現れ、以来レディオコーストの外れのあばら家で寝起きしている。
彼の採掘能力は凄まじく「このまま彼が休みなく掘り続けていれば数年でリリオットの精霊は掘りつくされてしまうのではないか」などという冗談が冗談に聞こえないほどで、実際、リリオットの前に滞在していた小さな鉱山を二つ閉山に追い込んでいる。
依頼があれば何だって掘るし、依頼がなければ勝手に掘る。
母の形見である十徳スコップ『アナ・ライザー』は、形状を様々に変え彼のスムーズな採掘をサポートする精霊兵器である。
Matrioshka
ツイッター Matrioshka_doll
第八坑道にざくりざくりという音が響く。
すでに廃坑になったはずのその奥で、一人の男が作業をしていた。
精霊ランプの灯がチラつく下で、土というより岩に近い壁面を、黙々とスコップが削り取っていく。精霊を宿した器具と肉体を以ってすれば、硬い岩盤も砂糖菓子のように崩れる。その男、ウロ・モールホールにとっての問題は、土砂の重さや落盤よりも、これだけ掘ったにもかかわらず鉱脈にたどり着かないことだった。
半刻ほどかけてボタでいっぱいにしたトロッコを横目に、ウロはしばし自答する。
第八坑道が閉鎖されたのは五年前、理由は「採掘量の低下」と「落盤事故の多発」ということだったが、ウロにはとてもそれが本当だとは思えなかった。大地はまだまだその臓腑を抱え込んでいるし、坑道は大地の喉首にまで喰らいついている、ウロにはそう見えたのだ。
「掘れば出る」というウロの発言をオーナーが信用したのが三月前のことである。
精霊を多く含む土地が、気まぐれで狡猾なのはウロの知るところであったが、それにしてもこれだけ彼の感覚を「誤魔化す」土地は始めてだった。彼は若干の焦りを感じると共に、ある種の期待を抱いていた。
更に半刻、岩壁を砕き続けるスコップに、がちり、という感触が走る。
坑道の空気が一変する。ウロは、彼としては珍しくにやりと笑うと、嬉々としてその周辺の壁面を突き砕く。
スコップを地面に突き刺し、倒れこむように座り込む。表情こそ薄いものの、ウロの内心は大快哉だった。大地よ、また俺の勝利だ!お前がどれだけ狡猾にその姿を隠そうと、俺はその血肉に至るまで奪い取ってやる!
ランプの淡い光を反射しふわふわと燐光を放つ精霊の大鉱床を眺めながら、ウロはオーナーには良い報告が出来そうだ、とぼんやり思った。
ウロは地図が苦手だ。
地霊の声に感応する彼の能力を以ってすれば、大抵の場所で迷うことは無いし、ましてや地中では目をつぶっていても目的の場所に着くことができる。
そんな彼が一枚の羊皮紙と、羽ペンを前に考え込んでいた。
いつもなら坑内図作成など引き受けないウロだったが、今度のクライアントは頑迷だった。マッピングは引き受けていない、いや坑内図までが山師の仕事だ、そもそも俺は山師ではない、調査の結果を文書にまとめないと結果がわからんだろう、というような押し問答の末、報酬の上乗せの代わりに坑内図を作ると妥協してしまった。
すでに大小含め7箇所の鉱床を発掘し、すでに紙面上にまとめるだけなのだが・・・。ウロはひとつ息をつくと、人の気配に気付く。
「・・・あなたが幽霊かしら。死んでるようには見えないけれど」
振り返ると精霊のぼんやりとした光に照らされた少女が目に入る。
黒髪の割には身なりはきちんとしている。貴族か冒険者か。
まあ良い。頼むことはひとつだ。ウロは彼女へ向き直り、たずねる。
「お前、地図は書けるか」
「は?」
「地図は書けるか」
「いや、まあ、そりゃあ簡単なマッピングならできるけど」
重畳だ。羊皮紙と羽ペン、そしてインク壷を渡す。思わず受け取る少女。
「頼んだ」
「え?いや、何を?」
「何をって・・・地図だ」
「だから何の地図よ」
「この坑道のだ」
「ちょっ・・・なんで私が!」
「報酬は出す」
「そういうことじゃなくて・・・」
「鉱床は全部で7つだ。入り口からここまでなら4つ。あとの3つは横穴の先にある。それだけ忘れずに記入してきてくれ」
「いや、だからね・・・」
「よろしく頼む」
それだけ言ってウロは岩壁に向かう。まるでもう言う事は無いとばかりに少女に背を向ける。
少女は大きくため息をついて、言う。
「困ったときはお互い様っていうし、良いわ。手伝ってあげる。でもね、この仕事が終わったら、私の知りたいこと、あなたの知っていること、全部洗いざらい話してもらうからね!」
坑道の入り口へと踵を返す彼女を見ながら、ウロは、はて、俺の知っていることとはなんぞや、と思った。
「情報・・・の前に、あなたの名前もまだ聞いてないんだけど」
地図の内容を改めもせずに懐にしまうウロを眺めながら、少女が問う。
「俺か。俺はウロ・モールホール。オーナーの依頼でここの鉱床の探索をしていた」
もうその仕事も終わったが、とぼそりと付け加える。
「報酬は情報だったな。何が聞きたい」
おそらく自己紹介の準備をしていたであろう少女は、一瞬の間を空けて答える。
「そうね。精霊の加工か精製技術に関してなんだけど」
「知らん」
「ええー・・・」
予想外に早く簡潔な答えに面食らう。
「そういう技術を持っている人を紹介してくれるだけでも良いんだけど」
「俺がこの街に来てまだ三年だ。そんな人脈は知らん」
「まだ三年って・・・」
取り付く島もない。
「俺の仕事は掘ることだ。それが金であろうと精霊であろうと、あるいは古代の遺物であろうと、掘り出された後の使い道には興味が無い。漁師は魚の食べ方まで一々口を挟んだりしないだろう」
「・・・でも、漁師は魚の調理法くらい知ってそうだけど」
しばらくの沈黙の後、ウロがもう一度口を開く。ウロは例え話が苦手だ。
「・・・まあ、それはともかく。精霊の加工と精製か?それは俺の専門外だな。残念だが」
無駄足とわかり、肩を落として入り口へと戻ろうとする少女に、ウロは言葉を続ける。
「だが、今回の俺の報酬に、その情報とやらをねじ込むことは出来ないでもない。ちょうど今から仕事の報告に行くところだ。自分の口から説明すると良い」
それだけ言うと少女の脇を通り抜け、さっさと入り口へ向かう。少女は慌てたように彼の後ろを着いてくる。
少女―えぬえむという名をまだウロは知らないが―と共に向かう先は、「稀代の成金」こと商人ヒルダガルデの屋敷だ。
「いやーご苦労ご苦労。助かったよウロ君」
執務室でにこやかに二人を出迎えたのはヒルダガルデの若き当主、マーロック・ヒルダガルデその人である。
「これでウチの鉱夫の働き扶持が賄えるよ。新しく坑道を掘るのは手間だし、最近は地盤もだいぶ脆くなってきてるからねえ。古い坑道がまだ生きてるなら使わない手は無いね。」
広げた羊皮紙をくるくると丸めながらマーロックは話し続ける。
「それにしても今回は随分と時間がかかったじゃないか、君にしては。いつも素晴らしい早さで掘り当てるのに。勘でも鈍ったかい?」
「・・・どこかの誰かが地図作りまで俺に押し付けたからな」
マーロックは大げさに肩をすくめてみせる。
「おいおい、坑内図くらい作るのが山師としての仕事だろう」
「・・・まあ、それはともかく、あの一帯は特に念入りに鉱脈が秘匿されていた。随分と狡猾で、疑い深い大地だ」
「狡猾で疑い深い・・・ねえ」
今度は胡散くさそうに首を傾げる。
「まあ、君のその言い回しもだいぶ慣れたね。最初は何を言ってるのかと思ったけど。実績は上がってるし。まあそういうものなんだろう。便利なもんだねえ」
放っておけばいつまでも喋っていそうなマーロックを遮り、ウロは本題を切り出す。
「で、報酬の件だが」
「ああ、代金と、あと『神霊』採掘団への紹介状だったか?今書き上げてしまうからちょっと待ってくれ」
「それももちろんだが。地図作り分の追加報酬があるだろう。まだ内容は決めていなかったはずだ。」
「まあ金額に色はつけてやるつもりだったけど。それじゃ不満かい?」
「まあ、途中で協力者を雇ってだな。彼女なんだが。・・・あー。なんて名前だったか」
さっき名乗ったじゃないか!内心毒づきながらえぬえむは名乗る。
「えぬえむ、といいます。早速で申し訳ないのですが、精霊の加工や精製、その技術に関しての情報が欲しいのですが」
『神霊』の発掘計画の発端は、八年前にさかのぼる。
セブンハウスでも鉱業を司るジフロマーシャ家が、突如大規模な用地買収を行ったのだ。
そこにはレディオコースト第一坑道も含まれていた。リリオットで最も古く、最も深いと目されていた坑道である。
何か公に出来ないようなものを発掘する。あるいは地中深く廃棄する。f予算の手がかり、あるいはそのものが埋蔵されている。果ては封印宮の手がかりを発見した。等々。
様々な噂が囁かれたが、セブンハウスが多くの鉱夫を囲い込み始めるに至り、それらは一つに収束を見せた。
曰く、セブンハウスは第一坑道で秘密裏に精霊鉱を掘り出している。曰く、それは公にすればこの街のパワーバランスが崩れるほどの巨大なものである。
ジフロマーシャ家を主導とし、特級極秘事項として推し進められてきた『神霊』採掘であったが、ある程度製霊業に携わる人間にとってはもはや公然の秘密となりつつあるのが現状だった。
以上がマーロックが楽しげに喋った『神霊』採掘の来歴である。
ウロは歴史に興味は無いが、現状は把握しておく必要がある。
採掘団の全責任はクックロビン・ジフロマーシャが握っている。紹介状を懐に、ジフロマーシャ邸にへと足を向けた。
ジフロマーシャ邸正門、その前でウロと一人の公騎士がにらみ合いをしている。
邸内はなにやら騒然としており、今しがた門兵の片方が様子を見に行ったところである。
「・・・お前らがさっさと主人に引き継いでくれれば、俺はこんなところで時間を無駄に食わなかったんだがな」
「だから、何度も言っているだろう!クックロビン卿は今は誰ともお会いにならん!」
「何のための紹介状だ」
「一旦帰って日を改めろ!その紹介状とて今日しか使えぬわけではあるまい!」
邸内のざわめきに呼応するように、門兵も落ち着かない様子だ。門の中をちらちらと見やり、同僚が帰ってくるのを待っている。
「だったら・・・」
「たっ、大変だッ!」
ウロの無茶を遮るように、様子を見に行っていた公騎士がかけ戻る。
「一体どうしたというのだ!この騒ぎは!」
「卿が・・・。クックロビン卿が・・・!」
「ま、まさか・・・」
「自刃なさった・・・!」
バカなと虚ろに呟く門兵を眺め、ウロは、さて、俺はこれからどこと交渉すれば良いものか、と思案していた。
ジフロマーシャ邸の騒動の後、五日が過ぎた。
ウロは今、第一坑道最奥、『神霊』の前に立っている。
神霊。不遜にも神の名を頂いた精霊結晶。高さがウロの10倍ほどもあるホワイトスモークの不等辺多面体が、精霊ランプの灯を受けてちらちらと輝いている。人夫たちがあくせくと動き回る中、ウロは結晶を見上げ、神霊が、そしてこの場自体が発する空気に身を震わせていた。
はらわたを裂かれる怒りと、宝物庫に土足で踏み入られる焦り。大地が発する怨嗟をウロは聞く。
すぐに楽にしてやる。誰にともなく呟く。
「おや、武者震いかい?君でもそんなことがあるんだね」
極めて軽く、そして明るく話しかけてきたのはマーロック・ヒルダガルデである。泥と岩にまみれた坑道にはふさわしくない、青の執務服で身を固めている。
ふん、と鼻を鳴らし、質問に答えず応じる。
「マーロック、珍しいな。お前が現場に出てくるとは」
「いやいや、神なんて呼ばれてるシロモノだ。見られるときに見ておかなきゃ損だろう?せっかく僕のおかげで採掘許可が出たんだ」
クックロビンは『神霊』の採掘についての全権を掌握していた。よそ者であるウロがその計画に組み込まれるには、なんとかしてセブンハウスの、いやクックロビン個人の信用を得なければならなかった。
「しかし今や卿は墓の下。」
くつくつと笑いながら、マーロックは、君が掘った墓穴のな、と付け足す。
「まあ、ジフロマーシャはアレの手腕で成り立っていたんだろうね。脇を固めるヤカラの横面を札束ではたいてやったらこの通りさ。」
要するに、混乱に乗じてカネで現場の指揮権を買ったわけだ。
「セブンハウス様の仰るには、この『神霊』をこのままの状態で、切り出さずに掘り出せ、とのことなんだけど・・・。どうだい?」
「そうだな・・・」
ウロは考える。
この大きさの結晶を運び出すには坑道の幅が明らかに足りない。地上までのおよそ3000を、拡張しながら運び出すのは骨だ。第一、このあたりの地盤では、何度落盤があるか知れない。他のルートを見つけ出すにしても時間がかかるだろう。
ウロは『神霊』に手を置き、大地の怨嗟に耳を傾ける。奴らの急所を探すのだ。
「掘るとすれば上からだな」
ウロのその一言に、マーロックは思わず天井を見上げた。
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