[0-773]
HP50/知5/技5
・癒し手/30/0/7 回復
・祝福の防護壁/0/60/8
・呪縛の紫煙/10/0/8 封印 防御無視
・即席の光弾/5/0/1
・フレイル/30/15/8
1:以下の条件をどれか満たすならいつでも「呪縛の紫煙」
A:相手が攻撃力0のスキルしか持っていない
B:相手がウェイト9以上のスキルを3つ以下しか持っていない。
2:お互いが何も構えていない状態なら「即席の光弾」。
3:前回の使用スキルが「即席の光弾」で、
相手の前回の使用スキルもウェイト1なら「フレイル」。
4:自分のHPの[最大値-現在値]が25以下、
相手の構えているスキルが凍結ではなく
【防御無視かつ[自分の現HP+20]以下の攻撃力】あるいは
【[自分の現HP+50]以下の攻撃力】のどちらかを満たし、
かつ【残ウェイトが8以上】あるいは【残ウェイト7で攻撃力20以下】
どちらかを満たすなら「癒し手」。
5:相手の構えているスキルの防御力が0で
A:[相手の残ウェイト×5]>相手の現在HPならば「即席の光弾」
B:相手の残ウェイトが9以上ならば「呪縛の紫煙」
C:相手の残ウェイト7以下、かつ[防御無視]か[回復]ではなく
[自分の現在HP+54-相手の構えている攻撃力]>0なら「祝福の防護壁」
D:上記以外なら「即席の光弾」。
6:相手の構えているスキルがウェイト9以上なら「呪縛の紫煙」。
7:相手の構えているスキルがスキルの攻撃力が20以上、
残ウェイト7以下ならば「祝福の防護壁」。
8:さもなければ「フレイル」。
9:どうも勝てなさそうなら目くらましとして
「呪縛の紫煙」を張ってる間に逃げたい。
10:仲間が傷ついた時に「癒し手」で
怪我を治すのが修道女とか僧侶とか
マジカルヒロインとかの本領だと思う。
11:敗北しても治せば死なない。
女。
ヘレン教の修道女。
孤児や女性などの弱者保護のための
駆け込み教会兼孤児院的な施設の担当。
インカネーションには、サポートとして時たま参加する。
身長158cmぐらい。白髪。22歳。
幼少期に複数人数の強盗に襲われ、両親と家を失っている。
シャスタだけの命はなんとか助かり、
救出後は孤児院に保護されたが、
逃走際に強盗が点けた火に巻かれたことによりかなりの火傷が肌に残り、
恐怖の体験により髪は数日で老人のように白く染まり、
彼女は誰とも話せなくなっていた。
ほとんど精神を壊れさせた彼女を救ったのは、
ヘレン教信者の旅人だった。
ひょんなことから知り合った彼は、強く、美しかった。
彼のように、あるいはヘレンのようになりたいと思った。
そうして強くなろうとすると、不思議と生きる力が沸いて来る様だった。
その後成長した彼女は故郷を去って、この地のヘレン教に入団した。
彼女が本来、ヘレン教が忌むべき
黒髪人種であることは、今や誰も知らない。
彼女はそのことについて、少なからず苦悩を抱いている。
だが、自分のことを慕ってくれる孤児達も、
気高きヘレンへの信仰も、今の彼女は捨てられない。
[補足 スキル説明]
癒し手:治せば死なない。当然の摂理です。
呪縛の紫煙:[精霊駆動]による害ある煙の放射。
敵が吸い込めば喉がやられ詠唱が困難になり、
何もせずに浴び続けても身体能力は鈍る。
術者の調整でただの煙幕にもできる。
祝福の防護壁:[精霊駆動]による結界。
余談だが、シャスタの[精霊]の出所はというと、
身に着けているもののどれかに織り込まれているらしいので、
剥ぎ取れば無力化できる かも。
即席の光弾:[精霊駆動]による小さなエネルギー弾。
小石がぶつかる程度には痛い。
フレイル:普段は衣服の下に隠してる。
ごく一般的な量産型の 棒の先に鉄球を鎖でつないだ打撃武器。
ざるそ
http://www.geocities.jp/navyblue_skyandsea/top.html
(VIPRPGから来てすぐ帰る予定だったけど
もうここまでどっぷりはまったしいいよね?)
ツイッター Za_Dameningen
『彼女の瞳は恐れも憎しみも怒りも有りはせず、
ただ、千夜の果てに澄み切った
満月のように輝いているのだとも言われる。
私達にはヘレンだけが本当の価値だ。
彼女以外のものに意味などない。』
何度も読み返した文庫本は、
赤茶けた表紙も、黄ばんだページも
端がすりきれてぼろぼろになってしまっている。
彼女以外に価値などない、と言う。だけれども。
※
「しゃすたせんせーみてー」
「……うん?」
文字をなぞりながら考え事をしていたら、
孤児の一人に話しかけられた。
「きょうのおめんは
「核シェルターのドアの一部」を
さいりようしたものです!
きけんぶつまーくがよくできました!」
「うん、上手だよ」
「でしょー?!」
最近ここに来た金髪の子だった。
事故で顔にかなり酷い傷があるせいで、
いつもは表に出たがらず内気なのだが、
こういう工作の時間は大好きのようだ。
紙粘土でつくられたお面は、よくできていた。
「せんせーこっちもできたよ!!
すっごくぜんえいてきなけんができた!
やばい!!せかいがしんかんする!!」
それを皮切りに一斉に子供達に呼ばれる。
最近彼らの間にはごっこ遊びが流行っており、
工作も勇者の剣や賢者の杖などを模した物が多い。
……やはり他のシスターだけでは
元気いっぱいの彼らの相手は間に合わないようだ。
私は持っていた本を傍らに置いて、立ち上がった。
「いまいくよ」
※
ヘレン教は至高の戦乙女ヘレンを崇拝している。
「ヘレンの強さ、振る舞いこそは絶対だ」と。
私は、彼女の強さに憧れている。
けれども私では彼女どころか
あまねく猛者達の技術に追いつくことすら叶わない。
いつからかそう思うようになってしまった。
インカネーションに一度供をしてからはなおさらだ。
孤独で美しい強さに追いつくことのできない私は、
せめて、このか弱き人々を護って、癒してやりたかった。
身寄りのない子供達、身を守る術のない女性、
身体を欠かした者、あるいは力を失った老人達、
誰かを頼るしかない人だってたくさんいるのに、
この発展と欲望を求めるだけの街の環境は厳しすぎるのだから。
だが考え直してみると、
そのためには、やはり強くならなければいけない。
「ヘレン、あなたは今、どこにいるのか」
私達が、いつも問いかける言葉だ。
[補足事項]
リリオット北側の郊外に存在するヘレン教の教会。
名前や通称はまだ(決めて)ない。
孤児院なども兼ねて住んでる人もたくさんいるのでけっこうでかい。
年周期で迫害されたりする集団の施設が
街中にどーんとあるのもおかしいかなと思ったので、
(インカネーションの基地は街中にこっそりあるかも)
買出し等の交通の便は不便になりすぎない程度に離れ、
なおかつ知らない人々の目にはあまりつかない程度の位置にあり。
なんというか閑静な住宅街に紛れてる感じ。
子供やよわっちそうな女性や病人怪我人ご老体などが
駆け込めば助けてもらえるかもよ!やったね!!
ただし黒髪種族はノーテンキューだ!!
『黒髪人種の大迫害』が始まったのは、大戦よりも古い。今からもう90年以上昔と伝えられている。
当時、黒髪の女性ばかりを狙う殺人事件が繰り返された。
大戦の起こる数年前から界隈の情勢は荒れており、このような事件が起こると住民の不安はさらに掻き募った。
そこでとうとう捕まった犯人はこう言い放ったらしいのだ。
「戦闘への高揚感がヘレンだ、殺人によってヘレンへの扉は開かれるのだ!!」
それが歴史の中では目立たなかったヘレン教への根強い差別の皮切りになってしまった。
発端になった事件よりも残酷で醜い争いが信者と黒髪人種の間で何度も起こるようになった。
大迫害の発端は、あまりにもくだらない事件のせいだった。
それにも関わらず、ヘレン教の信者はきちがいだ、
人を殺して喜ぶような人間ばかりなのだと、今日までずっとひそかに噂されている。
※
買出しに出ようとした際に、私よりも年下のシスターが、
彼女より更に幼い来訪者と口論しているところに出くわした。
「お願いします、この子を助けてください。ここの人達は弱い人を助けてくれるんでしょ?」
「しかしその子は……」
「早くしてください、もう三日もずっとこのままなんです……!!」
少女の身なりはみずぼらしく、心身ともに疲弊している様子だ。
茶髪のシスターの方は対応に困っているらしく、かなり歯切れが悪い。
「シスターアリサ、どうかしたのですか」
私が声をかけると、シスターよりも先に少女の方がこちらを向いた。
「あなたもシスターです……か……」
言葉の途中で彼女は一瞬息を呑んだ。こういうことも無理は無い。
ここの仲間や孤児達は既に見慣れてしまったようだが、普通なら二目と見られぬ醜い傷だ。
よく新入りの子供にも泣かれるものだから慣れていた。
「緑髪の少女よ、あなたは何者で、なんのために訪れたのですか?」
私が落ち着いた口調で問い直すと、彼女も気をとりなおして話した。
「私の名前はリッシュです。貧民街の者です。数年前から身寄りなく生きてきました。この子は血は繋がってませんが、私の大切な弟です。
ずっと二人で生きてきたのに、病気にかかってしまったらしく私ではどうしようもないんです。
ここは困った人を助けてくれると聞いてます。どうか彼を助けてもらえないでしょうか……」
少女は項垂れるように懇願した。よくみれば彼女は自分よりも少し背の低い男の子を背負っている。
彼の髪の毛は、『黒色』だった。
「……確かにヘレン教は弱者の保護に努めています。ですが私達は黒髪人種を受け入れはしません。
あなたを助けることができたとしても、その子を助けることは教理に反します」
「! そんな!!おねがいです……!!」
私は少女を睨みつける。隣のシスターですら一瞬すくみ上がるのが目に取れた。
この相貌で凄めば大抵一般の者は怖気つく。便利なものだとたまには思う。
「リッシュよ、ここを立ち去りなさい。私達にはヘレンと教理が絶対なのです」
※
この地のヘレン教に入信してから、わかったことがいくつかある。
最初の事実がどうであれ、もはや一世紀に近い溝を埋めるには不可能だ、と。
ならば私は、こうするしかない。
恨みと恐怖を視線にこめてから、無言で少女は出て行った。
……それから、私も何事もなかったのかのように出かけていった。
私は黒髪人種だが、もはや黒髪ではなかった。私はヘレンを信じたかったが、ヘレン教をどこかで信じきれずにいた。
たまにこうして考えてみると自分がどうしようもなく矛盾していて、馬鹿らしい存在にも思えてくる。
いつだって、みんなどこかで苦しい思いをしている。
※
ほんの少しの間だけ礼拝堂に寄ってから、メインストリート脇の商店街に赴いた。
今回は喧騒の中で、新しい本と子供達のための飴玉袋だけを買った。一人の時の買い物は手早く済ませたい。
一目ではヘレン教員とはわからないような服に変えても、あまり時間をかけて量を買い込むと色々と目をつけられやすいからだ。
(そこのあなたー。占いとかいかがですか?たったの25ゼヌですよー。)
(なんでおつかいの中に『銘菓5種ぐらい買って来い』なんてのがあるの?しかも微妙に高価っぽいのばっかだし!!)
(……お土産かぁ。オフィスに置物でも買ってきたら彼女、喜んでくれないかな。)
(冷静ハアアア合点か? 冷静ハアアア合点だ! 情熱わっしょい力持ち!)
(かわいいおじょーっうさん♪よかったらそこで俺とお茶でも……)
(リリオット名物『あられ揚げ』だよー。うまいよー。)
(待てなんかヘンなのいたぞ!!誰かツッコめよおい、つっぱり暴走してるぞあいつ!?)
日中は相変わらず露天なども開かれるほど活気があるが、どこか不穏さも漂わせる。
最近更に乞食が道端に増えてきたせいかもしれない。
「熟したら輝くでしょうが、今は不純物が多すぎて進んで食べる気分にはなれないですねぇ」
声に驚いて振り向くと、道端の占い師の女がじっとこちらを見つめていた。
「……あ、すいませんご飯の話ですよ。うん、私の食べ物の話です。
あとあなた結構でかいですね、胸が。いいですねー。あらでも肌は……なんでもないです」
彼女は確かになんだかよくわからないものを箸でつまんで食べていた。一瞬ただならぬ気配を感じ取ったのだが、気にしすぎたのだろうか。
今はそんな様子は微塵もなくただの小奇麗な女性のようにしか見えない。箸をいったん置くと居住まいを正して、ぼんやりした愛想笑いを浮かべた。
「占いどうですか?たったの25ゼヌです。タダとかでも可です。」
「……お構いなく。『迷った時は助けを請うのもよいが最後に道を選ぶのは自分であることを忘れる無かれ』とも言うから。」
「ん。例の教団の人ですか? ああー、なんかなるほど。」
動揺したのか、つい零れてしまった教理の文句にも聞き覚えがあったようで、彼女はなんだか得心がいったようだ。
占い師というだけのことはあって、知識と直感で私の本質も見抜いてしまったのかもしれない。
歩き続けて道も末になり、あとは郊外の教会に帰るだけだった。
……ふと、私は足をとめた。貧民街がすぐ傍に見えた。
ヘレン教弾圧の発端は無関係の人々の殺人を是とするような、狂言が理由だった。
だが無抵抗の弱者を一方的に殴っても、それは単なる猟奇趣味だ。
ヘレンは弱者をいたぶったりはしない。いつも弱者を助けていた。
でも私達はヘレンじゃない、ただの弱い人間だ。自分達を迫害した人を許せるほど強い人ばかりじゃない。
自分達の家族を殺した人を憎まないほど強い人なんてそうそういない。
ヘレンのような人がいたなら、弱い人間を見たら黒髪人種だろうとなんだろうとそれは助けるのだと思う。
でも皆、それができない。許さない。
考えれば考えるほど、胸がひたすらに苦しい。
※
昼下がりも過ぎていくが、日が長くなり始めたこの時期ではまだまだ暗くならない。
だが路地裏の多いこの貧民街、女一人で歩くにはなにがあるかわかったものではない。ないはずだ。
「おぉいねぇちゃあん。こんなところでなにしてるんだぁ?」
さっそく私が歩いていると、肩に男の手、鼻に酒臭い臭い、耳に品の無い声がかかった。私は素直に振り向いてやる。
「……あな、うらめしや」 「ッ!? うおっ ででででで!!!」
この顔では冗談にならない冗談に男も肝を潰しかけたようだ。隙ができたところを男の手首をとって捻る。
そのまま向こうの壁へ放り投げるようにたたきつける。
「こ、このアマ、げっ……!」 男の額を思い切り強く拳骨で叩きのめす。
彼はずるずると地面に落ちていき、そのまま動かなくなった。気絶はしてないかもしれないが、痛みで動けないだろう。
私は息を吐きながら、(来るべきじゃなかっただろうか)と思った。
目立たないように気をつけてほんの少し探すぐらいなら構わないと考えたが、
情報は貧民街の出身というだけだ、そう簡単にみつかるはずもない。
それでも私はあの少女と男の子に謝りたかった。もしかしてもうねぐらに帰ったのだろうか、
それとも男の子を助けてもらうために彼女はまだ駆けずり回っているのだろうか。
途中で倒れたりはしていないだろうか。
私は仲間を騙し、慕う子供を騙し、助けを求める弱者を騙し、
私の罪を少しでも減らしたいがためだけに他人の心配をしている、きっとそんな浅ましい人間だ。
探していたのはほんの数十分だ。その間にも懲りずに何回か絡まれかけた。全部返り討ちにしてやった。
これで数人に顔を覚えられて、逆恨みでも買われたら不味いのだが……。
しかしその中でも幸いなことに、私は目的の人物は驚くほどあっさりと見つけることができた。
道端に座り込み、顔を覆い隠し、緑髪の少女が黒髪の子供の隣で泣いていた。
黒髪の少年はひたすら息が荒く、苦しそうだった。やがて、彼女は目の前で立ち尽くしている私に気がつく。
「……あんた、こんなところに」私を見て、それだけ喋って黙り込んだ少女は、今度は確かな敵意を込めて私を見ていた。
助けもなんでも、求めて自分から動くものにヘレンは微笑んでくれるそうだ。
故に保護を求める者をヘレン教は拒まない。
私のこの胸につまりそうな思いも、自分から動いていけば、いつか。いつの日にかは。
(ヘレン、あなたは救ってくれるか?)
※
「少しの間、その子を見せてくれないか。」
少女は驚いていた。(何故今更)というような、不信が混じった表情だった。
……このまま話しても多分しょうがないので、私は黒髪の子の方に手をあてる。
「やめて!!勝手に触らないでよ!!」少女が食いつこうとする、だが、私は振りほどきもしない。
「『黒髪の子を助ける』ことは教理に反する。だが『君を困らせている原因を取り除く』と言い換えれば教理に反しない。
まぁ、そういうことにしておいてくれないか。」
「何を言い出すの……。」彼女が言いよどんだのは、男の子の周りにふわりとした柔らかい光が溢れたからだ。
ヘレン教の若き教師、メビエリアラ・イーストゼットが精霊駆動による回復術を編み出したのはほんのここ数年だ。
彼女が生み出した回復術は、実際には『体力と負傷の治癒』ではなく『戦闘中でも可能な程簡略化された肉体の時間遡行』という認識が近い。
そしてそれは戦闘負傷ではない、こういう病にもそこそこの効果がある。時間をかければ少しずつ健康体に『戻す』ことができる。
十数分後、続けていくうちに男の子もほんの少し息が楽になったようだ。
「ねーちゃん。」「ジルバッ!よくなったの?」「さっきより少しだけ。」「……よかった、よかった……!」
息を呑み、思わず泣き出しそうな表情で嬉しがる彼女を隣に、私はもう少し癒しの術を続けた。
息の他にも顔色が少しよくなった。しかし流石に私も疲れて、これ以上続けるのは無理だった。
「なんでこんなまどろっこしいことしてるの、あの時助けてくれればよかった。」
少女はまだ私を疑っているようだった。私はなんとか話し出す。
「……教理だからな。私はヘレン教の人々も助けを求める人々も、両方失いたくないんだ。そういうわがままだ。」
あの時黒髪を助ければシスター達に迫害される、助けないままなら私は黒髪に憎まれる。それは嫌だった。
「君が私に助けを請って断られた時に、
『どうしてこの子は何もしてないのに、黒髪というだけで助けてもらえないのだろう』、そう考えなかったか?」
彼女は黙りこんでいる。
「たぶんそれは『どうしてヘレンを信じているだけで、黒髪に迫害されなければならなかったのだろう』、そういう考え方と一緒だ。
私は、黒髪とヘレン教が憎み合うことが嫌いだ。ヘレンに反してる気がしてならないんだ。
そうしてできれば君に何かを、ヘレンを憎んで欲しくなかったんだ。
どうしても憎いというのならば、ヘレン教を憎まずに私一人を憎んで欲しかった。そんなところだよ。」
憎まないというのは何よりも難しい。現に私は殺したいぐらい憎い奴等が昔からずっといる。
私はそれを少女に頼みに来て、謝りに来たのだ。「すまなかった。」と。
とうとう日が暮れ始める、私は彼女の答えを待っている。
他人の気高い強さは目標になる。ヘレンも、私にヘレンを教えたあの人も、今の私の指針となっている。
私も子供達の指針となれるような、強い人間でいたい。
……こうやっていかなる時も目標を考えるのは、ヘレン教信者特有の、もはや癖のようなものだ。
※
ここで捕まりでもしたら大事だと考えた。
『決めてしまったらもう迷うな、一瞬の迷いで戦闘には敗北する。信念<プラン>のままに行け。』
教理の文言が私の頭を掠めている。私はリッシュの手に小袋をねじ込みそのまま伝えるはずだった用件を削り取りながら早口でまくし立てる。
「煙は吸うな。君が不快に思わなければ使ってくれ。これぐらいのことしかできなくてすまない。私ではせいぜい症状を遅らせたぐらいだ。
この後もその子を守りたいならヘレン教にも黒髪にも近づくな勿論私にも。」
私はもう一度煙幕を張って、そこを逃げ出した。
郊外へ向かって走り続けて、追っ手が来なかったのを確認してからようやく呼吸を整える。流石に肺が痛い。
(ステンドグラス拭きのソラと、同じくらいの歳だったのかな。)
思えばあの少女の心と言葉遣いは、根っからの貧民のものとは思えないぐらい整っていた。
しかも彼女はリリオットの情勢にかなり疎いようだった。あの貧民街で数年は暮らしていると自称して関わらずに?
あるいは彼女の過去にいたたまれないことがあったのか。私はまた苦しくなる。
(……これでもヘレン教とは決め付けられないような服を着てきたつもりだったんだが。)
6月も初旬となり、体全体を覆うようなローブを着てる人間も少なくなってきたのだが、リリオットは山が近くて土地も高い。
まだ冷え込む日もあるし、コートぐらいで不自然ではないと思ったのだが。
いや、どちらかと言えばエフェクティブ特有の目印でもあるのかもしれない。
リソースガードなら性質上よそ者の服を着ていたりすることが多い。公騎士団などは制服や鎧を着込んでいるからもっとわかりやすい。
そういう印が特になく、貧しすぎず目立たない服装のくせに、一般人のような気がしない怪しそうな人物がヘレン教だ。
……なるほど。見分けることも可能かもしれない、極端ではあるが。
日は暮れた。街灯も明りがつき始める。
私はどうしても帰りを待つ子供達のところへ帰らなければならなかった。家まであと少しだ。
※
「アンタ平気かい?さっきアイツに何かヘンなことされてなかったか?」
「うん、私達二人とも大丈夫だから。心配してくれてありがとう」「……その子、病気だって?」
「大丈夫よ、ちょっと風邪引いてるだけ、私達寝床もちゃんとあるんだから」
エフェクティブを名乗っていた女性が立ち去ってしまってから、
リッシュはとっさに隠した小袋の中身を確認してみる。幾枚もの銀貨の他に何かが入ってるのを見つけた。
それは紙包み入った二つの飴玉だった。オレンジ色と赤色をしていた。
少し考えてから、赤色の方を口に放り込んだ。オレンジの方は弟にあげた。二人は久々に甘い物を食べて、
そして元気が出てくるような気がして(もう少しがんばってみよう)と、思った。できるならあのシスターのように。
ヘレン教に必須なのは純粋な力よりも、論理を組み立て、知略を巡らし、考えること。
勝つために、生きるために、とにかく頭を回転させる。それから口からの出任せ等も上手くなる。
※
「シスターシャスタ、貴方は少しの間買い物に行くと言っていたのに、何故こんなに帰りが遅くなったのですか?」
名前の前に役職名等をつけるのは私達があらたまって会話をする時の礼儀だ。だから私は礼儀正しく答えた。
「メインストリートにつっぱり牛魔人が現れて、そのお祭り騒ぎに巻き込まれました。」
「アンタともあろうものが何を真顔でとんでもないごまかし方をしているのよッ!!」「事実です。」
少なくとも前半は事実だったのに、どうしても信じてもらえなかった。こういうことは悲しいものだ。
現在、この大教会に住んでいる人間は六十人程度。内訳は身寄りのない老人達や怪我人、家に帰れない女性などをまとめて十人程。
更にインカネーションに所属して、寝泊りする場所を借りている者が数名。
孤児達がのべ四十人、その中で十にもみたない年齢の子供が三十人はいる。残りが純粋に教会の仕事に従事している者だ。
教会は人手が少ないために、一人が抜けた仕事の負担はかなり大きい。
清掃担当と孤児の相手をすっぽかし、夕飯の時刻を過ぎても連絡無しに外出していた私は、
大教会の運営責任者、チェレイヌ様に執務室でこってりと絞られていた。
「……どうしても本当の遅れた理由は話せないの?」「ですから先ほど話したのが事実です。」
「アンタも拾った頃から頑固なヤツだったわねぇ。埒が明かないわこのままじゃ……やだわ、こんなこと言ったら本気で歳とったみたい」
「婦長、あなたの希望に沿えないことなど私は行うはずがありません。」
「その呼び方はやめなさい。せめて教会長や院長って呼びなさいって。」
「私は素敵だと思います、婦長が。」「こうやって関係ないことでごまかして煙に巻こうって寸法ね、やめなさいって!」
チェレイヌ様の呼び方は私達の間では圧倒的に婦長が人気である。シスター達の頼りになるまとめ役であるからだ。
「あぁ、しょうがないわね。貴方のことだから別におかしなことはしてないでしょう。そう信じてあげるわ。」
そのうち婦長は私への質疑応答を諦めてしまったようだ。ドアを指差し、帰るように促した。
「留守の間はミレアンが貴方の代わりをしていたようだから、彼女の朝食当番を代わってあげるように。
貴方の分の夕飯は、アリサが取っておいてくれたみたいよ。」
「……失礼します。」私が席を立とうとすると、最後に婦長はこう言った。
「何があったのかは知らないけれど、最近は物騒さに磨きがかかってるから用心しなさい。
みんな貴方の留守を心配していたのよ?」
「……今後は、このような失態がないように致します。」私はそう言って、礼をしてからドアを閉めた。
夕食と聞いてそういえば腹が減ったので、私はまだ眠れなさそうだ。
闘いは本来孤独なことだ。手助けがあったとしても、自分の目標のために行動するのはつきつめてしまえば自分だけ。
だからこそ、友や仲間や家族と呼べるあたたかい者がいることはありがたい。
※
執務室から出ると、二人のシスターが私のことを待っていてくれたのを知った。
私と身長はかわらないが二つ年下で長い茶髪のアリサと、低い身長と短い金髪、猫目が特徴的なミレアンだ。
彼女達が私を見つけた瞬間、まずアリサが泣き出しそうな声で話しかけてきた。
「シャスタさぁん本当にどこいってたんですか!!私、日が暮れ始めた頃からいい加減心配で心配で……。」
「いやーでも無事に帰ってきたんだからよかったじゃん。アタシャてっきりもうどっかの誰かに襲われてオダブツかと。」
「おまけに隣でミレアンがこんなことばかり言うから余計に不安だったんですよー!!」
いや、アリサはついさっきまで本気で泣いていたらしい。目が腫れてしまっている。申し訳ない気分になった。
「……すまなかった。ミレアンにも夕方の仕事を押し付けることになってしまったな。
だがそれはそれとして、いつもそうやってアリサをからかうのはほどほどにしておけ。」
「正直アタシはシャスタがごろつき何人にからまれようが、ぜーんぶ倒してくれるって信じてるよん。
この程度の冗談でくよくよするなんてアリサはシャスタの強さ他を信じてないからじゃない?」
「その心配性だけど優しいところが彼女のいいところなんだよ。」「……あーんシャスタさーん!!」感極まったアリサに抱きつかれる。
「キマシタワー!」ミレアンは相変わらず茶々を入れている。「うん、落ち着いてくれ。」
この教会に従事しているシスターは、私達三人を除けば皆そこそこの年齢だ。
だから歳の近い私達はいつの間にかよく集まるようになっていた。
彼女たちといると私も心が和んだ。歳の近い友人というのは、ここに来るまで居なかったからだ。
いくらか話し込んでから、アリサに夕食を温めてもらい、私はようやくすきっ腹を満たした。
いつもは食堂で皆揃って食べるのに、それができなかったのは少し残念だ。
「寝る前に子供達に会わないの?ちょっと遅いけどまだ就寝前だよ?」
「いや、今日のうちに消えてしまう訳じゃないんだから。眠る前を邪魔しちゃ悪い。」
「さっさと安心させてあげなさいよねー。みんな『シャスタせんせーどこー?』って聞いて来たんだから。」
婦長からは聞いていたが、みんな私のことを本気で心配してくれたようだ。
不謹慎かもしれないが、少し嬉しかった。明日はきちんと子供達の世話をしようと思いながら、私はようやく眠った。
教会の朝は早い。朝食当番なら尚早い。なので、今は少し眠たい。
※
中庭に音楽が流れ始め、拡声器を通したミレアンの声が元気よく響く。
「それではー、ヘレン教会特編レイディオ体操ぉ!!今日も一日のはじめから元気よくいきましょおー!!
まずは腕を上げて背筋を伸ばす構えからぁ、さん、はい!!」 ♪〜〜♪〜……
教会特編とは言うものの、特別な効果はないほぼ普通の体操だ。しかし、この教会では朝の習慣となっている。
体がきちんと動く人なら、健やかな体づくりのために子供達から老人までみんなにできるだけ参加してもらっている。
この5分ほどの体操が終わったら、そのまま全員食堂に移動して朝食の時間となる。
今日の朝食はイモとネギ煮込みスープ、ほの甘いコッペパン、あとは牛乳だった。
教会の食事は決して豪勢ではないし、量だってそこまでない。本当は栄養バランスのことだって心配だ。
でも、全員にはきちんと行き届く。朝食作りの時もそうだが人手が足りない分は一般の人にも手伝ってもらい、
子供達にやいのやいの騒がれながら朝食を配り終わると、チェレイヌ様がみなの前で挨拶をする。
「皆の心の内に輝くヘレンと、大地の恵みに敬意を払いまして。それでは、いただきます。」
それから、みんなで声をそろえて「いただきます!!」
「三日間の外出禁止、か。」朝食後の食堂の片付けをしながら私は呟く。
「よかったじゃーん、大して怒られない上にそのぐらいですんで。」隣では結局片付けを手伝っているミレアンが言い返した。
婦長に怒られた後に決まったようなのだが、私には当番の変更以外にきちんとした処罰を加えられることになった。
処罰の理由は「また貴方を外に出したらなんだかあぶなっかしいことになりそうだから」だそうだ。
婦長の考えは、おそらく正しい。
……まぁ、私の生活の拠点は教会一つだ。ここの仕事は忙しいし、やるべきことはいくらだってある。
どうしても暇なら読んでない本だってある。子供達だっている。情報は他の皆から聞こうと思えば聞ける。
「私の目標は、この教会を何があっても守ることだろうからな。」
少なくともリリオットでは、ヘレン教も黒髪人種もあまりよく思われていない。
どうせどちらも争いの種をひきつけるのは違いないと思われる、らしい。
※
朝食の片付けを終えた後、私が教会の玄関や廊下の掃除をせっせとしているとベルが鳴った。訪問者の合図だ。
その時に一緒にいたのは年老いたシスターと、手伝いをしてくれた孤児の少年だ。一番近くにいたシスターの方が戸を開けてみると、何人かの乞食がいた。
異臭が染み付き髪も肌も服も汚れきっているが、黒髪はいない。年齢や性別には違いがあれど、一様に彼らは飢えきっているのは明らかだった。
「施しをください……食べ物か、お金があれば……。」と、かぼそい声でその中の一人がいった。
「少しお待ちください。」シスターに頼まれ、私は少年と一緒に食堂から残っていたご飯を持ってきた。
乞食達に与えると、彼らは喜ぶより先にがっつきはじめた。その眼は落ち窪んで、光が無くて、まるで人間らしさを感じない。
その様子を見て、シスターが哀れみを込めて「貧しい人々よ、あなた達が望むなら、私達は衣服と住居と食べ物を提供しますが。」と申し出た。
だがその途端、彼らは怯えたような表情で黙り込んで、逃げるように立ち去ってしまった。
ヘレン教の信者というだけで、いきなり取って食われるイメージがかなりの人々にあるらしい。
メインストリートにあんなに乞食が居ても、この教会には貧民の殺到しない理由だ。
私達に来る者全て助けられるような予算がないというのも確かにあるが、それでも求める者にはできる限りの施しをしている。
「ケンカしあってる同士を外から見ちゃうと、どっちにもかかわりたくねーよなーって感じなんだろうね。
どうしてもっていうなら、その時に得しそうな方がいいってだけ。」
隣の箒を担いだ少年が、ぼそりと言うのが聞こえた。私も、きっと皆もまったくその通りに考えている。
掃除が終わって休憩中にふと、礼拝堂の方に赴いてみた。今日はまだソラは来ていないようだ。
見かけたら昨日買ってきた飴玉でもあげよう、と考えていたのだが。
いや、もしかしたら流石に子供扱いのしすぎだと怒られるかもしれないな。どうだろう。
皆が幸せになれる日は、いつか来るのだろうか。私にはまだわからない。
※
礼拝堂で日課となっている祈りを捧げている最中に、アリサとミレアンの二人がやってきた。
二人も瞑想に来たらしいのだが、気がついたら三人で普通におしゃべりをしていた。
その中で、ミレアンが喋った「貧民救済計画」について聞いた時は驚いた。
「聞いたことないの?マジ?みんな結構話してるじゃん。実行部隊とか部隊志願の子とかひそひそと。」
「知らないな。」「んー、私もあんまり聞いたことないんだけど。」「えー!?」
ミレアンは私達の中でも噂話に詳しい、外にもしょっちゅう普通の街娘の格好をして出歩いている。
私とアリサが世間に疎すぎるだけかもしれないが……。
「だいたいあんたらは年頃の娘としての振る舞いとかそーいうものを知らなさすぎんのよ、
そうね、今度シャスタの外禁解けたら三人で街に繰り出すわよ!」
「この前喫茶に行ったばかりじゃ……。」「いつのこの前よッ、それ2ヵ月以上も前じゃない!」「ううぅ、怒らなくても。」
「……シャスタが知らなかったのは流石に面食らったけど、
まー私らリリオット内のヘレン教じゃ窓口専門、末端も末端だから情報入ってこないのも仕方ないのよねぇ。
いったい具体的にどういう計画が行われているのか気になるけど、詳しく知ってそうなのはせいぜい婦長ぐらいかしら?」
「そのうち私達にも説明とかされるのかな。貧民の人が来たら忙しくなるとか?」
「忙しいどころじゃないわよこの教会の収容人数なんてたかが知れてるのに。私達が外で乞食みたいに暮らすハメになるわ。」
「……でも本当にあの貧民の人達をみんな助けられるなら、とても素敵だと思うんだけど。」
アリサは素直に喜びたいようなのだが、私とミレアンはそうでもない。
「費用に人手に場所に……とても可能とは思えない。本当に救済が実行されるなら何を根拠にそんな。」
「わっかんないわよ私達じゃ、お偉いさんの考えてることなんてさ。
ヘレン教だっていっても、上の方々なんざ肥えた貴族と同じで利権争いに忙しいなんて聞いちゃうわよー。」
「ミレアンちょっとそういうことは……。」
「ま、アリサみたいに極端にのほほんとしてなければ、救済計画に疑念を抱いてる人はここでも多いだろうね。
こんな話題が出回るようじゃ近頃のキナ臭さに拍車がかかりそうでやだやだ……。」
アリサは不満気というか、悲しそうというか、結局抗議できずにぼそりと呟いた。「本当にできたら素敵なのに……。」
「それは、私らだってみんなだってそう考えてるんだろうけどね。」ミレアンは、そっけなさげに返した。
私は返事ができなかった。
ある伝承で、旅の途中のヘレンは苦難に喘ぐ人々のために、悪漢共、悪魔達、悪しき神すらを打ち倒したと言われている。
故に、弱者の保護もヘレン教の行うところとなった。
彼女の強さこそは、間違いのないこの世の真理だ。だから強き彼女が行ったと伝えられるものは、私達の正義になるのだ。
※
昼間を過ぎれば子守の時間だ。お話を聞かせたり、体を動かさせたり、私はきっとこの時間が一番幸せだ。
……たとえばよく幼い子供達に、「どうして黒髪の人と、シスター達は友達になれないの?」と聞かれる。
子供達は私達シスターやヘレン教の人物が、黒髪の人々を拒むのを何度も見ている。
それを単に不思議そうにしているだけの幼い子供もいれば、反発を覚えている子供も何人かいた。
「……じゃあ黒髪とヘレンにまつわる御伽噺をしてあげよう。うん、新入りの子も増えたし、
最近はあぶないことが多くて、みんなあまりお外に出してもらえずにつまらないだろうからね、私も頑張って話すから。」
ヘレンの伝承は多岐に渡る。私が聞かせるのはその中のひとつひとつ。
ヘレンの影のようにそっくりで、言葉で人を騙すことに誰より長けていた「夜露のディオナ」。
彼女の傍につきそいながらも、後に敵に回った「裏切り者〔ヘリオット〕」。
異界から訪れたという、全ての破壊を成し遂げようとする「第六世界の魔王」。そして黒髪の悪達と果敢に戦うヘレンの物語。
気がつけば、周りの子供達は話を目を輝かせて聞いている。
まだ意味をよくわかっていないような歳の子も聞き惚れるようだ。そんな時、私はとびきり嬉しい。
人前で物語をするときは内容と同じく語り手の雰囲気が重要だ。スピーチと一緒だ。
身振り手振りを交えながら、声の調子を変えながら、場を紡ぎだしていく。
ヘレン教は真理を織り交ぜた寓話を、デフォルメした概念を、物語をずっと語り続けてきた。
そうやってヘレンを皆に覚えてもらいつつ、心の傷を癒してきたのだ。故にこのような才能も訓練、育成されている。
それから子供達も話がヘレンの勝利に終わった後に、彼女が人々を守るために戦った相手が『卑劣な黒髪の悪魔』なのなら、
私達が黒髪人種を嫌うのも仕方が無いのかな、と、その時は彼らはなんとなく納得してくれるのだ。
……彼らが大きくなった時に資料を調べてしまえば、真実というのはわかってしまう。
その時に、彼らは私達に対して幻滅してしまうだろうか。そうだとしても、私はまだこの子達に『迫害』の物語をしたくはない。
私は愚かだろうか。
突然起こるのではない、積み重ねた結果で起こるというほうが正しい、と思う。
※
一通りお話を聞かせた後に、子供達を庭で遊ばせていたのだが、
私はその中で、一人子供が足りないことに気がついてしまった。どこかに行ってしまったのか。
子守をしていたもう一人のシスターに探してくる旨を告げて、私はその場を離れた。
はぐれた子を探していると、「あ、危ない!」男性の声と同時に、鈍い重い何かが崩れる音がした。
それから泣いている子供の声がしてくる。驚いて声の方に駆けると、清掃員姿の男と抱きかかえられている子供がいた。
はぐれた子は教会の傍の、ほんの少し外れたところで砂遊びをしていたらしい。
それから傍のヘレン像が崩れてきたところを、彼に庇われた。
あの像は大分古くなっていたので近く修繕に出す予定のものだと聞いていたが、
こんなことになるならば立ち入り禁止の柵でもつけておけばよかったのだ。短慮だった。
私は傷を負ってしまった清掃員に回復術を行い、礼を言った。治療もそこそこに、彼は街の方へ帰っていった。
その時ふと笛か鳥のような音がした気がするが、あるいは空耳だろうと私は思った。
「ルールを破って勝手にどこかに行ってはいけません。」
子供をきちんと叱って、中庭に帰してから、私はヘレン像のことを婦長に報告していた。
結果、男衆何人か手伝ってもらい、崩れた像を運んでもらうことになった。
遊び疲れた子供達を教会の中に入れてから、少しの間その様子を眺めにいって来た。
丁度、ちょっとした買出しに行っていたらしいアリサも帰ってきたところだった。
部分部分になったヘレン像は担架で別の、邪魔にならなそうな場所へと運ばれていく。
無残にも砕かれた彼女は、その悲惨さとは裏腹に微笑を浮かべていた。
「なんだか怖くなっちゃうね。ヘレンが砕けるっていうのも不吉だけど、ばらばらになったのを運ぶっていうのがさ……。」
「確かに、あまりまじまじ見るもんじゃないな、気分が悪い。」「……そうだね、じゃあ私買った物を……あれ?」
ふと、アリサが何かに気づいたようだ。私も彼女の視線の先を見た。
すると金髪の男性が少し離れたところから、物珍しいのか像を運ぶところを見つめている。
……いや、作業ではなく、教会を見つめていると言った方が正しそうだ。そんな印象だった。
「すいませんそこの人!!何か御用でしょうかー?!」アリサがよく通る、大きな声を出した。
こういう時の彼女はまるで物怖じしない。男の方はびっくりしたようで、硬直してしまったようだ。
アリサはそれが当たり前だというように男の方へ近寄っていく、私もなんとなく不安なのでついていった。
ヘレン、あなたは今、どこにいるのか。
……私の目標は、どこにあるの?
※
「何か教会に御用でしょうか?お悩みがあるなら、私達の力で及ぶ限りお手伝いさせていただきますよ。」
アリサは屈託のない笑顔で笑いかける。金髪の男の態度はどこか空々しかった。少し違和感を感じる。
「……ああ、いや、ちょっと騒がしそうだったから見ていただけです。用事なんてないですよ。たまたま通りがかっただけです。」
(手紙の中と現実の区別ぐらいちゃんとつけている……)
彼は話しかけられる前後にもごもごと何か喋っていた気がするが、よくわからない。
用事がないなら、私たちもさっさと帰ってしまうに越したことはない。踵を返そうとした時、結局男が声をかけてきた。
「なぁ、あんた……」「?」男はなんとなく言い出しづらそうだったが、強く言い放った。
「あんたは、本当にヘレンを信じてるのか。」「どういうことでしょうか?」アリサが引き続き受け答えをしている。
「ヘレンなんておとぎ話の存在だ、絵空事の世界だ。悪者を全部やっつけて、伝説の剣を振り回して、弱者を全部救えて、
そんなヒーローが本当にいるとあんたは思っているのか?そんな訳のわからないヤツのこと、信じて身を投げ出せるっていうのか?」
……わかった、この男に感じていた違和感の正体が。
彼はヘレン教を嫌っている。彼の眼は深い場所で私達に敵意を示している。
ならば引き離さねばなるまい。アリサは傷つきやすい子だ。口を出そうとした瞬間だった。
「ヘレンはいますよ。」はっきりとアリサは答えた。私も、金髪の男も少し驚いたようだった。
「ヘレンは私達の絶対なる憧れです。とはいうものの人間は各々違う憧れを抱いています。抱く憧れも一種類じゃないかもしれません。
……だからヘレンは私達の理想全てを内包していると言われています。希望の全てを彼女が持っています。
人によってはヘレンが繊細に見えるだろうし、小山のように巨大に見える人もいるでしょう。でも素敵には違いありません。
色々な理想を持つ色々な人が、ヘレンを介して集まって協力している、
それは素敵なことなんじゃないかなぁって思って、私はここにいるんです。
私のヘレンは、子供達を守る聖女です。それはきっとどこかにいる。私は彼女に少しでも近づきたいと思っています。
ヘレンに、理想の素晴らしい人に、なりたいんです。ヘレンはいます、皆の理想です。」
アリサの答え方は少し緊張して慌しかったが、ひたすらまっすぐだった。ただ純粋だった。男もそれに気がついたらしい。
「……そうか、わかったよ。変なことを聞いて申し訳ない。」
「あっ。あのっ。私の方こそいきなりこんなこと……!!」わたわたと弱気なアリサに戻ってしまう。先ほどの勢いはどうしたのか。
去り際に、男は呟いた。「あんたみたいに良い人は、こんな場所よりもっと別の場所にいるべきだと思うよ。」
もう一つ気がついたことがある。あの男は諦めている。自分の理想には、どうやっても手が届かないと思っている。
私と同じ絶望の色をしていた。
……そうだ。私は救いたいのではない。救われたいだけなのだ。認めることができずに眼を瞑る。見つめられない。
暗闇の中をそのまま進んでいく。それで答えは見つかるだろうか?
※
教会に帰って来て気がついたのは、シスターの人だかりと血の臭い、女性の嗚咽と男の声だ。
「何があったのですか?」「シスターシャスタ!丁度よかった、貴方は今、回復術を使えますね?!怪我人です……!」
一人のシスターの合図で人だかりが散る、その中にいたのは……。
「……うっ。」刺激が強かったようで、アリサが思わず口元を押さえる。目の前には血濡れの女性が横たわっていた。
数人係りで大分癒されているものの、金髪の女性の怪我は相当深刻だったのがわかった。
私は彼女を知っていた。若きヘレン教の教師にして、類稀な才気を持つ精霊研究者、
メビエリアラ・イーストゼット。私の憧れの一人だった。何故彼女がこんなことに……。
いや、考えるよりは早く治さねば。私は治療に加わる、アリサも少し躊躇してから、隣で回復術を行ったようだ。
……周りから聞いた話だと、彼女はついさっきまで意識があったのだが私が来るのとほぼ同時に眠ったようになってしまったらしい。
重症を負った彼女を運んだのは、黒髪の男だった。彼は彼女に何もしていないと言い張っている。
しかし、それは余りにも不自然だ。皆がそう考えている……何故なら、彼はヘレンに敵対する黒髪だからだ。
敵意の中に居心地悪そうにしている男に、私は回復術を止めて話しかけた。男の服や指先には、彼女の血がこびりついている。
「貴方がメビリエアラ様を、彼女をここに運んだのですね?」
「……そうだ。どんな理由があっても死にかけの人間をほっとくなんてできないからな。」
彼はもはや、少しうんざりした様子だった。この空気に流石に参ってるらしい。
「貴方は何者か。名前や職業は?」「……マックオートだ。マックオート・グラキエス。職業は……旅人だな。」
少し考える。受け答えは常識的にできるようだ。
そしてこの男とメビリエアラ様の関係は謎が多い。もちろんこの場では彼の言葉のみを頼りにはできない。
しかしわざわざ敵意を向けられる場所にのこのこやってくるところは本当に善意なのか?それとも裏があるのか?
それにシスター達は彼に敵意を向けているのと同時に、正直怯えを隠せないでいる。どうすべきか。
「ノードかネイビーはここにいますか?」私が名前を出した二人は、まだ歳若いがインカネーションに所属しているものだ。実力は知っている。本物だ。
「彼に見張りをつけて、ここに留めるべきです。本来ならこの教会に黒髪が居るなどおぞましいことなのですが……。
尋ねるべきことや、不審なことがいくらもありますし、メビエリアラ様にも詳細を聞かなければ。」
シスター達が動揺する。男はまっさきに感づいたようだ。「あの、それはつまり……。」
「私は事実関係がはっきりとわかるまで、マックオートをここで軟禁することを提案します。誰かチェレイヌ様に報告を。」
報告は通った。許可も降りた。
さて、メビリエアラ様が目覚めるのを待つか、それともあの男の話を先に聞くか。
悩んでいる所に、また一つ問題が起きたらしい。「しゃすたせんせー!!おてがみもらったの!!」
この手紙は最優先事項だろう。
※
一方、マックオート達はシスターに怒られたので、今度は世間話をしながらチェスをプレイしていた。
「メビリエアラさんだったか、あの人本当に気絶してるのか?起きた途端俺の首絞めようとして、
しかも俺に眼を……アレさせるぐらいの肝があったってのに、いきなり寝ちまうなんて。」
「メビ様だって人間だし、疲れが出るくらいおかしくないとは思うけど。まぁそのまま起きてても納得しちゃけどさ。」
「インカネーションって呼ばれてたが、君みたいな子までヘレン教では兵士みたいに扱ってるのか?」
「実働部隊は志願すれば誰でも入れるようになってるけど強制ではないよ。まぁ実力がなくちゃ即オダブツなんだけどね。私は憧れてたから早く入りくて頑張っちゃった。」
「……ここは孤児院も兼ねてるらしいが、みんな兵士になるのか?」
「ううん、ここで暮らしてる子が全部が全部ヘレン教の関係者になるわけじゃないよ。
実際ある程度一人立ちできるようになったら、鉱山や商店で働くようになったりする人とかいるし、
みんなの意思の自由を尊重してるもの。」
「へー……。」こうして話してみると新鮮この上ない。本来なら交わることもない者同士の会話だからか。
(しかし、この子にだけまかせて俺の監視か。その気はないが俺が力任せに逃げようと思えばできてしまうんじゃ)
突然、マックオートの頬を熱の塊が掠め、髪の一房をもぎ取る。わずかに血が滲んだ後に、冷や汗が一気に沸く。
塊は少女の銃を模した指先から発射されたらしい。
「黒髪さん。今、変なこと考えてませんでした?」少女の表情はにこやかかつ口調が丁寧になっているが、目の奥が笑ってない。
「い、いやいや全然!ていうかいきなりなにすんの!!チェスじゃ俺に勝てないからってさー!!」
咄嗟にメビのあの眼を思い出しながらマックオートは全力で首を横に振った。
「いえ、別に疑ってる訳ではないんですけどね、子供だと思われて舐められても癪なので、牽制代わりの挨拶ですよ。
……そうですねーチェスばっかりしてるのもどうかと思うから、次はテーブルトークゲームとかしない?
紙とペンがあればできるし、戦略の体操になるんで私達 ―― 同年代のヘレン教関係者の間では人気なんだよ。
『あい さだ し』ってTRPG知ってる?いや、それは時間がかかりすぎるし、対戦の『マーガレット』がいいかな。」
マックオートは内心動転しそうだった。だが漠然と考えることもある。
(今まで出会った人々と比べて、このお嬢さんが俺に対する嫌悪感が少ないのは事実だ。
こうやって待たされている間に、何か、もっと色々と聞き出せないものだろうか?)
叱ったッ!!次章完!!
(ごめんなさい言ってみたかった。)
※
私に手紙を持ってきたのは、あの石像が倒れた現場にいた子供だった。
「まったく君は。みんなが部屋の中にいるのに、どうしてまた外に出たんだ。」
「だって、あそこにわすれものしちゃったから……ご、ごめんなさい……ちゃんとほかのせいせいにいったよー!!」
とりあえず、私は手紙の内容に眼を通す。焦ったような筆跡だ。
「……そうか、ならいい。それに手紙を届けてくれてありがとう。」私は子供の頭を撫でた。
(助けてくれ、か……)
ソラが暗殺の疑いをかけられるなど、なんの根拠があるかわからないが馬鹿馬鹿しい域の戯言だ。
私にどこまでできるかわからないが、彼女を教会にかくまうぐらいならできるだろう、
もともとここはそういう人々のための施設だ。それにソラは教会の人々と知り合いだ。変な疑いもかけられまい。
……教会の中を通って裏手に向かい移動していたのだが、何か騒がしい気配がする。
浴場の方からだった。まだ入浴時間ではないはずだが、誰かが勝手に入ったのだろうか。
しかもこれだけ大きな声を張り上げれば、何を話しているかまではともかく、人がいることがいつばれるかわかったものではないだろうに。
これは叱らねばならないと思って近づくと、脱衣所の方から慌てて誰かが出てきた。しかもそれが黒髪だったので、かなりぎょっとした。
「マックオート!?なんでこんな所に?」
「ああ、あーえーシスターさん!!ちょっと立て込んでてですね!!俺もよくわからないけどえらいことになってます!!」
彼は非常に狼狽していた。まともに話が聞けなさそうだと判断した私は浴場に踏み込む。人影がいくつか見える。「何事ですか?」
ソフィアという女性の対処が冷静だったこと、私が間に入ってことによって
場はなんとか大事になる前に収まった。だが、色々と問題点はあるので、指摘していこう。
「状況をまとめて……そうだな。まず4人それぞれに言うべきことがある。
まずネイビー、勝手に黒髪を外に出すんじゃない。情報は伝わっていてもやはり黒髪を見るのは皆が動揺するんだ。
それから浴場の管理は本来私達の仕事だが、君の好意で当番を請け負ってもらっている。
負担を減らしてくれるのには感謝しているが、一度責任を負ったことは最後までやりとげるようにしなさい。
ソラと、ソフィアさん。人目を避けたいから正門ではなく裏手に回りたいと言う気持ちはわかる。
だが勝手に敷地内に入らないでくれ。泥棒じゃないんだから、それは誤解を招く行為だから。最後にマックオートは。」
「な、なんでしょう。」
「君はとにかく部屋から出るな。君に悪意がなくとも面倒なことになる。浴場にも入るな。
不潔なのが嫌ならあとで持っていくから濡れタオルで我慢しろ。」
「そ、そんな。ふ、風呂が遠のく……。」
みなが縮こまっている中で、彼は一層よよよと泣き崩れた。
……一段落したらソラの話を聞こう。
ここまでの大規模な騎士団の介入……私達の平和は崩れてしまうのか?
※
チェレイヌ様がふと呟いたのが聞こえた気がする。
「まさか、ファローネ様に礼拝堂を貸したのが何かまずかったのかねぇ……そんなこと言っても仕方ないが。」
いざという時の備蓄を保管した地下倉庫には、いまや人でごった返している。
チェレイヌ様を筆頭にシスターの重役が統率をとっているが皆が動揺していた。
子供達は泣きべその子ばかりだ。そして何よりも明らかに、倉庫の中の人が足りないのだ。教会の全員に満たない。
「そうだねぇ、パッと見て実働部隊の方々はともかく、ログアさんと彼女が面倒を見てた子供達が来ていない。
障がい者を助けに行ったらしサフィーさんもいない。メビ様の看病に行ってたアリサもいないね。
あの子は足だけは異様に早いから逃げ切ってると思うけど。」
ミレアンは渋い顔をしているが冷静だ、だが私はそろそろ気が気じゃない。
ソラはあそこに隠れたままで大丈夫だったのか、マックオートはまだあの部屋にいるのか、メビ様は、子供達は。
「……助けに行かなければ。」「ダメダメ、シャスタはここにいなよ。あんたも意外とパニックになりやすいんだからさ。」
「私はこの中でも戦える技術がある!!」「だからこそだよ、いざって時のためにも守る人が必要なんだよ。しんがりと同じよ。
それに不安になってる子供をあやせるのは私よりシャスタが上手でしょ。」
ミレアンはいつのまにか愛用の拡声器を持ち出している。あれにも精霊が埋め込まれてはいたが、戦闘に応用できるとは思えない。
「婦長がいりゃあなんとかなるとは思ってるけどさ、現役引退してる人に鞭打ちたくないもんね。
なぁに私の舌先八寸の丸め込み、虚矢火芭<<ウロヤカバ>>の術を甘く見るんじゃないよ。
重要なのは能力じゃない、イマジネーションとフレーバーだッて脳筋共に教えてやるのさ!許可が下りたら。」
だだその時、地下倉庫の扉が開いた。遠目だったが、シスターログアが帰ってきたのがわかった。
それからどうやら、ソフィアとマックオートも……。だが、後ろの二人は見失ってしまった。
※
「……ああぁどうしようどうしようどうしよう!!
メビリエアラ様は起きあがってさっさと礼拝堂の方に行っちゃったし、
子供達や部屋に入れてた黒髪の人を連れてこようとしたらもう部屋にいないし、
ていうか黒髪の人が入ってきてるらしいの見ちゃったし、どうすれば、どうすればー!!」
茶髪の女性は明らかに混乱してしまっている。自分の行くべき場所すら見失ってひたすら廊下を走っている。
「誰か、逃げ遅れた子はいないですかー?!」
敵は明らかに減っているが、教会の混乱はまだ少しの間、止まない。
立ち止まることも多い。でも。
※
地下室ではミレアンの扇動に暴れていた人がほとんどだが、
それ以外の人々は皆の変わり様にすっかり怯えきってしまっていた。
しかも皆いきなり煙に巻かれてばたばたと倒れてしまったのだから、怯えようはなおさらだ。
どうにかなだめなければならないと思っていたのだが。
「一つ、原因に心当たりが見つかった。シャスタ、あなたも来る、それとも残る?」
……この事件の原因がわかるなら私も知りたかった。だが私がソフィアに提案された時に、近寄ってくる人がいた。
「ちょっと、げほっ、うちのシスターを、げほげほ、勝手に連れて行かないでもらえるかしらねッ……!」
結った赤髪が特徴的な、妙齢の女性だ。ソフィアがちょっと驚いたように尋ねる「あなたは正気を保ってたんですか?」
「はぁ、私だってね、これでもここの責任者だ……この程度の、どっかのバカの策略で……げほげほ。」
具合悪そうな様子に、私は思わず焦る。「大丈夫ですかチェレイヌ様!!」
「う、ミレアンの扇動より、うっかりお前の煙をちょっとでも吸い込む方がキツかったかね……。」
「教会の長のチェレイヌ様だ。この中で一番偉い人。」私がソフィアに手短に説明しようとするとそうなった。
「そうなの?……すいません、でもこの状況だと……。」
「う、うーん。」ソフィアが言いかけたところで、チェレイヌ様がふらふらと倒れこんでしまった。慌てて私が支える。
煙を吸い込まなかったとしても、この洗脳によって何かしら負担を受けてしまったのだろうか?
その時の私の答えはこうだった。
「ソフィアすまない……私はここに残るよ。皆を置いていけないもの。こうして皆を傷つけてしまったし……」
「でもシャスタのせいではないわ?」
「……いや、その前に。私が、ここの人を守らなきゃいけないんだ」
騒動が終わりを迎えるまで、いや、私がいつか動けなくなる日まで、守らなきゃいけないものがあると思った。
ささやかな行為ならば、ささやかな結果が返ってくるものなのだろうか。
この町は少し変わった。この教会も少し変わった。
そして私は変わったのだろうか?私がしたこと。私自身が何かを為した訳じゃない。
たとえば少し前、この町が、教会がおぞましいものに包まれた。
その時の私はただ訳のわからないまま必死に子供達を守ろうとした、ただそのぐらいのことしかしていない。
その後しばらく経ってこの教会は黒髪の保護も行うことになった。
教会の中には反対する者もいたが、いつの間にか黒髪の子供達は自然と受け入れられていた。
資金面に関してはクローシャ卿の支援のおかげもあったのだが、一部のシスター達の根深い嫌悪はどこにいったのだろう?
それが私にはわからなかった。でも皆打ち解けていたのは事実で……。
ふと、私の隣に緑髪の少女と、その子より年下の少年がいた。
つい最近にこの施設に保護された子供達だ。
「シャスタ、これあげるよ!」
そういって彼女の手から飴玉が一粒差し出された。
ぼろぼろに擦り切れた表紙を撫でる。私の理想のヘレンの物語を撫でる。
空は青く高く、果てなかった。あの人に私の秘密を打ち明けた日もこんな青い空をしていた気がする。
私はこれから何かをこの子達と為すことができればいいのではないだろうか。
こうして黒髪もそれ以外の子も、分け隔てなく触れられる日を続けられるようにしたい。
※
「あの子はわかっているのかねぇ。」「ん?なんですか婦長。」
「婦長って呼ばない、掃除の手を休めない!いや、シャスタの話さ。あの娘が黒髪寄りだったのはなんとなくみんな察していたんじゃないか?」
「あーそうですねーそれでバレてないと思ってたあたり彼女も意外とアレですよねー。私みんなにごまかすの大変でしたわー。」
「でも実際昔からあの娘がしてきた、ほんのちょっとずつの行動でさ、結構考えの変わった子とかいるんじゃないかね。
特にシャスタが面倒見てた子供達なんかさ、すぐに打ち解けたじゃあないか。あんたもそういう口だったんじゃないか?ミレアン。」
「………。」「物語は終わらない。そして始まる前から始まっている、人の目に見えないところまで果てなく広がっているものさ。」
「教会長……。」「なんだい?」「その締め方って、なんかズルいです、正統じゃないですよ!!」
「勝てば官軍、終わりよければ全て良しなんだよ、なっはっは!」「リアリティとか説得力はどこにいったんですか!!」
「いーいじゃないか、皆、良い人に恵まれたってことだ!それは素直に祝福すべきことだよ!」
【なんとなくおわった】
[0-773]
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