[0-773]
HP64/知6/技5
・仕込み錐/20/0/7 防御無視
・鋼鉄ブラシ/15/15/5
・蹴り/5/0/1
・義足蹴り/20/60/12
・熱暴走義足/10/60/13 炎熱
・義足自動回復/30/0/7 回復
1.この行が正常に読めたら【非混乱】状態とする。
2.200ステップ以降ならば【熱暴走】状態とする。
3.最大HPが40以上かつHPが34以下ならば【自動回復】状態とする。
4.最大HPが20以上かつHPが10以下ならば【自動回復】状態とする。
5.相手の攻撃が[凍結]、[封印]、[混乱]ならば【警戒】状態とする。
6.【非混乱】状態でないなら【熱暴走】【自動回復】【警戒】状態とする。
7.1ステップ目の場合、不意打ちの「鋼鉄ブラシ」
8.相手のHPが20以下かつ、残りステップが8以上なら、止めの「仕込み錐」
9.相手が[防御無視]かつ攻撃が自分の最大HP以上なら、悪あがきの「蹴り」
10.相手が[防御無視]かつ攻撃が自分の残りHP+30以上で、残りステップが7以下なら悪あがきの「蹴り」
11.相手が[防御無視]かつ攻撃が自分の残りHP以上の場合、緊急回復として【自動回復】状態とする
12.【自動回復】状態でなく、相手が[防御無視]かつ残りステップが8以上なら「蹴り」
13.【自動回復】状態かつ【警戒】状態でない、相手の攻撃が20以下、残りステップが4以上なら「義足自動回復」
14.相手が構えてなければ「鋼鉄ブラシ」
15.相手が[回復]なら「蹴り」
16.相手の防御が3以下かつ、残りステップが2以上なら「蹴り」
17.相手の防御が14以下かつ、残りステップが6以上なら「蹴り」
18.相手の防御が15以上かつ、残りステップが8以上なら「仕込み錐」
19.【警戒】状態でなく、相手の防御が15以上かつ、攻撃が15以下、残りステップが4以上なら「仕込み錐」
20.相手の攻撃が15以下なら「鋼鉄ブラシ」
21.相手の攻撃が15以上かつ、【熱暴走】状態でないなら「義足蹴り」
22.相手の攻撃が15以上かつ、【熱暴走】状態なら「熱暴走義足」
23.それ以外なら「鋼鉄ブラシ」
男。
公益法人清掃美化機構(セブンハウス系列)の清掃員。
リリオット生まれ、リリオット育ちの28歳。
元々は採掘所に勤めていたが、事故により片足を失い採掘所を辞める。
その後、公益法人清掃美化機構に清掃員として就職するが、機構は裏で街の害となるとされる組織や人物の
偵察、暗殺を行っており、義足と高額な報酬を引き換えにその仕事を請け負っている。
汚れ仕事と思っているが、故郷や離縁している家族の養育費のためを言い訳にして手を血に染めている。
また、郷土愛が強い排外主義者のため、よそ者の出入りが増えている現状を快く思っていない。
スキルの説明
機構から配給された鋼鉄ブラシとブラシの柄に仕込まれた錐を武器にし、さらに義足と残った足を使った蹴り技を組合せ戦う。
鋼鉄ブラシは攻守とスピードのバランスが取れており、仕込み錐は相手の防御の隙を突いて攻撃ができる。
義足も機構から配給されたもので、特殊加工された頑丈さと高速ダッシュ機能を備え持ち、義足を軸足にした高速蹴りと義足による重量系の蹴りを可能とする。
また、本人には知らされていないが、使用者の体力が減った際に自動回復する機能が義足に付与されており、さらに、長時間使用すると熱暴走が起こってしまう。
taka
ツイッター taka0427
深夜過ぎの暗い裏路地に数人の男たちが集まっていた。
「約束の品だ」
「確かに・・・」
約束の品とやらを確認した男は、相手に大金が入ったケースを渡す。
おそらく、公に出来ない闇取引だろう。
近年の抗争激化によりこのような取引は増えている。
違法改造の武器や不正規の精霊、秘匿されている情報など様々なモノが取引されている。
取引が終わり男たちが解散しようとした時、物陰から枝の折れる音が聞こえた。
「誰だ!出て来い!」
出て来いと言われて素直に出てくる馬鹿はいないが、恐怖のあまりか物陰から男が怯えながら出てきた。
男はツナギ姿にブラシをもっており、おそらく清掃員だと思われた。
「す、すみません。仕事が遅くなって、帰っていたら話し声が聞こえて・・・」
と、清掃員の男は言い訳を始める。清掃員も深夜残業とは世知辛い世の中である。
しかし、深夜に怪しい取引をする連中に言い訳は当然通じなかった。
「話を聞かれたなら仕方がない、殺れ!」
リーダー格の男がそう言うと、部下の男たちは銃を構え一斉に撃ちだした。
ここリリオットは精霊採掘で栄えた街である。
しかし、その豊潤な資源を巡る組織間の争いは絶えず、
抗争で一般人が巻き込まれることも少なくなかった。
銃声は数発で終わった。
一般人相手に貴重な銃弾を大量に使うのは勿体ないのである。
銃を撃った男たちも、数発撃てば相手を十分殺せると思っていた。
しかし、清掃員の男は死んでいなかった。
それどころか、外傷もなく平然と立っている。
清掃員は、自分に向けて撃たれた銃弾を避けたのである。
しかし、多方向からの銃撃を全て避けることは出来なかった。
避けれなかった銃弾は、全て弾かれていた。
清掃員が持っていたブラシによって。
銃弾は精製が難しく貴重だ。にも関わらず一般人にも銃を使うのは、抵抗されるのを防ぎ、逃げられる可能性を減らすためである。
この哀れな男も、いつもと同じように銃を撃ったらそれで終わりのはずだった。
しかし、この男は倒れなかった。3人が2,3発撃ったが、それを避け、持っていたブラシで弾いたのである。
ブラシなんかで銃弾が弾けるわけがない。銃を撃った男達はそう呆気にとられた。
その隙に
清掃員は一足飛びで銃を撃った男の一人に近づき、ブラシを振り上げ、頭に向けて、殴打した。
裏路地に何かが砕ける音が響く。頭をブラシで殴打された男は、頭から大量の血を出しながら倒れた。
異常事態を察した残った男達は、再度銃を構え撃ち始めたが、銃撃を避けて弾ける清掃員の男には無駄であった。
残った男達も、最初の男と同様に一人、二人ブラシで殴打され倒れていく。
リーダー格の男も銃を取り出したが、撃つ間も与えられず倒されてしまった。
残ったのは取引相手の男だけであったが、小太りでとても戦うことが出来るようには見えなかった。
しかし、戦うことが出来なくても、多人数の銃を持った相手をブラシ一つで倒す男に敵うわけがないことは理解できた。
「ひっ」
と、小さな悲鳴をあげると、小太りの男は大金の入ったケースを抱え逃げ出した。
「逃げる相手を殺すのも気が引けるが・・・、見られたなら仕方がないな」
清掃員の男はそう呟くと、ブラシの柄の先端を回し、引き抜いた。
引き抜いた柄の先端にはおよそ掃除に使うとは思えない、錐状の鋭い金属がついていた。
清掃員の男はその仕込み錐を掴むと、大きく振りかぶり、逃げた男に向かって投げつけた。
投げられた仕込み錐風を切って飛んでいき、見事男の後頚部に突き刺さった。
清掃員は、倒れた男から仕込み錐を引き抜くと、その男の服で血を拭い、元のようにブラシに戻す。
「はぁ…、今回は偵察だけのはずだったんだったんだがなぁ。ばれたら殺してもいいと言われていても
こうも簡単に見つかっちゃあ、やっぱり偵察にはむいてねぇな…。」
清掃員はそう呟くと、街の警察組織である公騎士団が駆けつける前に、大金が入ったケースと取引品を持って裏路地の奥へと消えていった。
彼の名前はダザ・クーリクス。
リリオット生まれ、リリオット育ちの公益法人清掃美化機構に勤めている清掃員である。
主な仕事は、床磨き、ガラス拭き、街の修繕に、町の害となすとされる組織や人物の偵察、暗殺。
街のため、離縁した家族の養育費のため、今日も深夜残業で働く。
「ありえない。なんだあの化け物は」
ダザは自分自身ある程度強いと自負していた。
故に、偵察では見つかっても構わないと注意が散漫になってしまうことが多々あった。
しかし、昨夜の偵察は見つからないように必死だった。見つかってしまえば、命を落としていた可能性があったからだ。
昨夜の仕事は、最近『f予算』について調べている人物についての調査、偵察であった。
『f予算』、街の情勢をひっくり返すほどの巨額の消えた予算。
その分、その情報の取り扱いは慎重にしなければならなかった。
つい先月も、酒場で『f予算』のありかを知っていると嘯いた男が、酷い拷問の末殺される事件もあった。
そんな予算をおおっぴらに調べているところみると、街の住民ではない可能性が高い。
ダザは目撃情報から出没範囲を絞り、身を潜めて対象が現れるのを待つことにした。
日が沈んだころ、その男は現れた。目撃情報どおり、紫のローブをまとった少年のような男だ。
少年のようなというか、見た限りでは少年にしか見えなかった。
「あんな子供が『f予算』を調べている?何かの間違えじゃないのか?」
そう疑問を思いながらダザは追跡を開始しようとき、少年の前に数人の男達が現れた。
『f予算』を探ってるいるのだ、当然複数の組織から狙われる。
男達は相手が少年だと思い、ニヤニヤした顔で少年に銃口を向ける。
「『f予算』について調べているのはお前か?ちょっと一緒に来てもらおうか」
男の一人が少年についてくる様に脅し始める。
しかし、少年は怯えた様子も見せず、軽く溜息を吐いた。
「やれやれ、儂が求めているのは『f予算』に興味のない仲間なんじゃが、相変わらず治安が悪い街じゃのぉ」
そう言うと、少年は男達に向けて指を指した。男達はその意味不明な行動に、まだニヤニヤしている。
次の瞬間、男達のそのニヤニヤ顔は文字通り消え去った。男達の顔は、太い杭で貫かれように抉られていたのである。
。
ダザには少年がなにをしたのかは理解できなかったが、男達が指一本で一瞬に殺されたことは理解できた。
その少年、いや、その化け物は再度溜息は吐いて、顔がない死体の合間をぬって去っていった。
身を隠していたダザは一歩も動くことが出来なかった。これ以上の調査は危険すぎる。ダザはそう直感した。
翌日、ダザは上司にことの顛末を報告をしたが、普段顔色一つ変えない上司が暗い顔をして「そうか、ご苦労」と答えるだけだった。
「いやな予感がする・・・。だからよそ者を入れるのは嫌なんだ」
とダザは歩きながら呟く。ダザは偏った郷土愛からくる排外主義者であった。
採掘資源をめぐる争いは昔から存在するが、近年の抗争激化により傭兵などで外部のものが多く出入りしており、ダザを苛立てていた。
それでいて、昨夜の化け物だ。あんな化け物まで出入りしているなんて・・・。
いや、そもそも本当によそ者なのか?紫のローブ、少年、化け物・・・。どこかで聞いたような・・・?
「くそ・・・、久々に飲みにいくか」
答えを見出せずイラつくダザは、そう言うと酒場へ向かった。
「詭弁ですね。あるのは妄想と憶測だけ。あなたの言葉には理論も証明も含まれていない」
ローブの少女が言ったこの言葉で目が覚めた。
例の化け物、いやウォレスの爺さんの話を聞いていたら確かにその通りだと思えてきていたが、よくよく考えればほとんど憶測レベルの話だ。
これなら、夢路の占いのほうがまだましだ。
しかし、まさかこの化け物に酒場で出くわすとは思わなかったな。昨日の偵察もばれてたみたいだし。
その後捕まって、延々と閉店近くまで話を聞いちまった。
なんか、いろいろと納得してた気がするが、話術っていうか、これも魔法使いが使う魔法の一種だったのか?
なにせ、御伽噺に出てくる丘の古城に住む不老不死の魔法使いだもんな。よそ者どころか古参の老害もいいところだ。
まぁ、なにはともあれ、爺さんが『f予算』に興味がないなら機構の偵察対象からも外れるだろうし、よかったよかった。
あとの精霊武器の流出先やクックロビン卿の内戦計画とかの話は保留だ保留。確かな証拠がないと動けようにない。
あ、だから俺がセブンハウスの偵察するんだっけ?
確かに本当に内戦になれば、多くの住民が犠牲になる。これは避けるべきだろ。
しかし、セブンハウスや機構を裏切って逆スパイをするなんて・・・、リスクが高すぎる。
セブンハウスの偵察なんか断ればよかった。いや、断れば殺されるかもしれないのか。
実は俺偵察苦手なんですって言っても無駄だろうなぁ。
とりあえず、受けるだけ受けとくか。出来るかどうかは別にして。
幸い、ウォレスの爺さんはこの少女との会話に夢中のようだし、今のうちにずらかろう。
誰だか知らないが助かったぜ。
「それでは、ウォレスさん。自分はこの辺で、何か分かりましたらまた連絡します。」
「ふむ。ではしっかり頼むぞ。仮に偵察が苦手でもな」
くっ、なんでもお見通しみたいなこと言いやがって!
ダザは出口に向かい再度ウォレスとローブの女に会釈をすると、ローブの少女は軽く微笑み会釈を返した。
ダザは「かわいい」と感じたが、同時にウォレスと同じような「恐怖」も感じた。
ウォレスが少年に見えるように、この少女もそう見えているだけなのだろうか。
話の内容はほとんど聞いていなかったが、喋り口調が普通の少女とは違った。
その口調を聞いていると、不思議な感覚になる。これも魔法なのか・・・?
ダザはそう考えながら、その不思議な感覚を振り払うために一度頭を振って酒場のドアを閉めた。
「ふぅー、どっと疲れた。全然飲めなかったし、他の酒場にでも行くか。」
酒場を出たダザはそう呟くと、次の酒場を目指して移動した。
これだけ大きな街だと酒場も何件もある。
一番大きいのは、さっきまでいた市街地の近くにある看板が大きい酒場だ。
ダザが向かっているのは採掘所に近い小さな酒場。ここは、残業明けの鉱夫達が利用できるよう早朝まで営業していた。
店の名前は『泥水(どろみず)』。酷い名前だが、採掘所の鉱夫達の受けはよく、安い値段で泥酔するまで飲むことが出来た。
店の中は閑散しており、鉱夫が数人、あとは老人とジョッキにビールを残したまま寝ている少年がいるぐらいだ。
そういえば、俺も若いときに飲みに連れて行かれるたびにあんな風に酔って寝てたな。
そう思いながら、店の中に入った。
「おう、ダザ坊じゃないか。久しぶりだな。」
店の中に入ると、店主の親父が声をかけてきた。
「お久しぶりです、おやっさん。」
「採掘所にいたころには毎晩のように飲みに来てたのになぁ、まぁ一杯飲めや」
そう言って親父はクズ粗霊(アラレ)をアルコール精製した酒、精霊酒を注いでくれた。
安くアルコール濃度も高くクセの強い酒で、店名にもなっている「泥水」と俗に呼ばれている。
「採掘所を辞めて何年になるんだ?」
「今年で6年目です。」
「そうか、足のほうはどうなんだ?歩けはしてるようだが。」
「義足のおかげで何とかです。ただ、採掘所には戻れそうにはないですね。」
ダザは6年前まで採掘所で鉱夫として働いていた。
しかし、とある爆発事故により足を失い採掘作業が出来なった。
その後、採掘所を辞め、現在の公益法人清掃美化機構で働くようになる。
「そりゃ残念だ。今の掃除屋がそんなに気に入ったか?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「親方!お久しぶりです」
「がははは、元気にしてたかダザ?おい親父!俺にも泥水だ!」
この威勢のいい髭面の男は、ダザが勤めていた採掘所の鉱夫長である。
面倒見も良く部下の鉱夫達からも慕われているいい男だ。ダザも採掘所時代によくお世話になっていた。
親方はダザの隣に座り、ジョッキに注がれた酒をグビッと飲んだ。
「しかし、義足だとしても普通に歩けるようなら採掘所でもやっていけるだろ。何が駄目なんだ?」
「この義足には稼動制限があって、採掘所のような過酷な環境には向いてないんですよ。」
「あぁ、そういえばそうだったな。事務職ならあいてるぞ?」
「俺が事務ですか?勘弁してくださいよ。」
いつもなら、こんな具合に炭鉱所の話で盛り上がるのだが、今日は少し様子が違っていた。
「ガハハハ、確かにおめぇに事務は似合わんな。・・・ところで調度いいところに来てくれた。ちょっと頼みたいことがあるんだ。」
と親方が言うと、急に真面目な顔をしてダザの方を向いた。
「親方が俺に頼み?珍しいですね。」
「・・・ダザ、おめぇ、エフェクティヴに入らねぇか?」
「何ですか?藪から棒に。・・・その話は前断ったと思いますが?」
エフェクティヴは労働条件が厳しい鉱夫などの貧困層による反体制組織である。
鉱夫長である親方もエフェクティヴに所属しており、また、親方の下で働く鉱夫達も多くが加入していた。
ダザも配属直後に勧誘を受けたが、そのときも断っていた。
親方も「無理に入るもんじゃねぇ」と言ってそれ以降しつこく勧誘してくることもなかった。
「ちょっと事情があって人数が必要なんだ。確か、断った理由は戦力差が大きすぎてニュークリアエフェクトが起こせねぇからだったろ?」
「そうです。それなのにセブンハウスやソウルスミス相手に小競り合いを起こし、無駄に犠牲を増やしている。本気で街全体のシステムを再構築したいのか疑わしいもんです。」
ダザはこの街が好きだった。そして、この街の施政機能、七つの貴族とその分家から構成されるセブンハウスが公平かつ正当に機能していないことも知ってる。
エフェクティヴはそのシステムを破壊して、再構築するニュークリアエフェクトを起こすことを目的にしている。
ダザはニュークリアエフェクト自体にはそこまで反対ではなかった。ただし、それは圧倒的戦力差で実行可能かつ犠牲がより少なくすむことが前提であった。
再構築が不可能なら、現状のシステムをより正常に働かせるよう努める。それが今の仕事に就いている理由の一つであった。
「その戦力差だが、どうにかなるかもしれん。」
「…といいますと?」
親方は更に周囲に注意し話し始めた
「誰にも言うなよ・・・?まず、炭鉱所で今までにねぇ巨大な精霊が見つかったらしい。これを奪えれりゃ武器や資金が増やせる。
それに、セブンハウスも再構築後の待遇さえ良くすれば裏切る分家の奴が何人かいる。そいつらとも接触中だ。」
「確かに、随分ましになりそうですけど、それだけじゃまだ戦力も資源も・・・」
「それだけじゃねぇ・・・。」
親方は、酒を一度飲むと緊張した面立ちで続けた。
「ある巨額な資金を得る目処がついた。あの金さえあればリソースガードを抱え込むことも可能だろう」
「巨額な資金?ま、まさか・・・!?」
その時、酒場のドアが開いた。ダザと親方は一瞬身構えた。
入ってきたのは緑髪の女とドロだらけの男。両方見たことある顔だった。
緑髪の女は6年前の爆発事故の時、一緒に特殊施療院に運びこまれた子供の一人。
確か名前はレストで、今はリソースガードやってる。
もう一人の男は、ドブさらいをしてた奴か。ドロがいろんな所に飛び散ってて、それを注意したんだっけ。
「すみません。オシロさんはおられますか?」
「・・・ちっ、何でこんな所にリソースガードが来るんだよ・・・」
親方が悪態をつく。レストは男を連れて、寝ていた少年のところに向かった。
親方は再度声を小さくして聞いてきた。
「まぁ、なんだ。気が変わったらいつでも来てくれ。」
ダザは答えなかったが、断りもしなかった。
レストはドロだらけの男を少年に任せると、店を出て行った。
少年はその男を引きずりながら店の奥へ連れていった。
「たく、リソースガードめ。」
親方はレストに対して再び悪態をつく。
「知ってるんですか?」
「直接やり合ってはないがな。緑髪のレストって奴で実力は確からしい。」
「そうなんですか。」
リソースガードをやってるのは知っていたが、事故から6年頑張ってやってるんだなと、ザダは感傷に浸った。
「ところで、ダザ坊」
店主の親父が申し訳なさそうな顔で声をかけてきた。
「なんでしょう?おやっさん。」
「悪いんだけど、さっきの若いのが汚していった床、掃除しといてくれんか?」
「はい?あんなよそ者が汚していった床を?」
「頼むよ。公務員の掃除屋だろ?酒代1杯分タダにするからよ。」
「たく、大した値段じゃないくせに。」
と、ダザは渋々と掃除を始めた。
ダザが掃除を始めて数分後、再度店の扉が開いた。入店してきたのは街で占い師をしている夢路だった。
「ふぅ、疲れたー。あれ?ダザがいるなんて珍しいね。掃除しにきたの?」
「飲みに来たんだよ。」
「ふーん、まぁいいや。おっちゃん、ビールとお寿司ね。」
「夢路のねーちゃん、うちに寿司はねぇーな」
「そうだっけ?じゃあ、あられ揚げ一つ」
夢路は相変わらずのマイペースだ。ダザは苦笑しながら掃除を続けた。
「あれ?親方顔色悪いね?」
「おう?そ、そうか?」
急に顔色を心配された親方は戸惑いながら答えた。
「占ってあげるよ。えーとね、ズバリ飲みすぎでしょ!?」
「・・・それなら俺でも分かる。」
「え?ダザも占いできたんだ。知らなかった。」
「がははははは」と、親方の笑い声が店に響いた。
「で、なんでダザは掃除してるの?」
夢路はあられ揚げをかりかり食べながら尋ねた。
「食べながら喋るな!また汚れるだろ。」
ダザは溜息を吐きながら、掃除をしてる理由を説明した。
「ドロだらけの男が汚した床を掃除してるんだよ。ほら、ドブさらいやってた奴いたろ?」
「あー、いたね。すっごい勢いでドブさらってた人。」
「今、店の奥にいる。気を失ってるみたいだがな。」
「へー・・・。ねぇねぇダザ。お見舞いに行かない?」
「はぁ?なんでよそ者のお見舞いなんかに。」
「そんなこといってるからダザは友達少ないんでしょ?」
なにかがダザ胸に突き刺さる音がした。
「ほらほら、いくよ!」
「あ、おい、こら!」
ダザは夢路に無理やり、ドロだらけの男がいる店の奥へ連れて行かれた。
「もぐもぐ、なにやら面白そうな話題が…?」
「お前、なに拾い食いしてるんだよ。」
「食事中だから黙って!もぐもぐ。ところで、あの緑髪の子知ってる?」
「黙れと言っといて聞くな。リソースガードのレストって奴だよ。」
「ふーん、レストちゃんっていうのか。ごくり。ふぅ腹の足しにはなったかな。」
食料庫から出たダザと夢路は今だ通路にいた。夢路がなにか言っているがダザはいつものことだと思って諦めている。
「じゃあ、俺戻ってるから」
「じゃあ、私また行ってくるから」
「はぁ?また行くのかよ」
「だって、可愛い子がいるし。あと、面白そうだからね。ん?そう言えばブラシどうしたの?」
「あ…。」
あのゴタゴタの中、食料庫に忘れてきたらしい。
仕方なくダザも夢路と一緒に食料庫に戻ることにした。
「話は聞かせてもらった!」
夢路が元気よく中に入ると、中にいた3人は驚いた顔でこちらを見た。
「ゆ、夢路さん!?」
「ごめんね。ダザが忘れ物したみたいで。」
夢路はそう言うとブラシ取り、ダザに投げ渡した。
「私は夢路、こっちのはダザ。貴方がレストちゃんね?」
レストは何故名前を知っているんだろうと警戒しながら頷く。
「よろしくね。そっちの少年は、えーと?そう言えばドロ男君の名前も聞いてなかったね。」
「あ、すみません。マックオートです。
「オシロです。」
夢路のマイペースに皆がのまれていく。
「よろしくー。…ところでさ、なにか困り事あるみたいだね?」
レストは部外者に言うべきか悩んだが、マックオートがしゃべり出したので、諦めて説明することにした。
「ふーむ、難事件だね。」
「仲介所にいる人間全員に混乱や幻想をかけれる程の使い手がそう居るとは思わんがな。
似た人物が偶然同じように指令書を落とした可能性が高くないか?」
「私もそうは思うんですけど…。」
レストはチラリとマックオートの方を見た。
「後半のことは全然覚えてない…。本当にすまなかった。」
「マックオートさんの記憶が消されれているところ見ると、術者と見たほうが…。」
話を聞いた俺たちはそれぞれ意見を出し合う。夢路が変によそよそしい。
「じゃあ、当面は似た緑髪の子、落ちてるかもしれない指令書、混乱や幻想の使い手を探すわけね?」
「まぁ、そうですね。」
「なるほど。じゃあ、探すの手伝って上げるよ。」
全員が「えっ」という顔をする。
「私は露天占い師で人探し可能だし、ダザは清掃員だから落ちてる指令書を見つけられるかもしれないしね。」
「そんな、悪いですし・・・。」
レストが本当に困った顔で拒否をするが、
「僕も手伝います!」「もちろん、俺も手伝うよ!」
と、オシロとマックオートまで言い出したため、仕方なくお願いすることにした。
当然、ダザも手伝うことになった。
マックオートとダザは、レストを仲介所の近くに下ろし温泉へ向かった。
「ふぅー、疲れた・・・。」
ダザは体を洗うと、温泉につかった。マックオートは汚れが酷いらしく洗うのに一苦労しているらしい。
今日はいろんなことがあった。
ウォレスの爺さんと緑のローブの少女、親方からのエフェクティヴ勧誘、レストの依頼書に、花の化け物。
花の化け物は精霊の暴走らしいが、暴走であんなのになったのは聞いたことがない。
まぁ、最近の技術発展は凄いし、採掘所の機密なら黙っとかないとな。
レストの依頼書は、街の掃除の際探してみるか。他の仲間にもそれとなく聞いておこう。
しかし、夢路のマイペースには困ったものだ。最後何故か残ってるし・・・。
エフェクティヴはどうするかな。巨大な精霊、セブンハウスの裏切り者、巨額な資金。
たしかに、それだけあれば『ニュークリアエフェクト』の実現できそうだが・・・。
ウォレスの爺さんがクックロビン卿が貧民に武器を流している可能性があると言ってたけど
それが例の裏切り者なのか、それとも別に裏があるのか。
どっちにしろ、セブンハウス内の偵察は必要か。
ウォレスの爺さんは『ニュークリアエフェクト』ついてはどう考えてるんだろうか。
内戦の危惧はしていたけど、一応聞いてみるかな。
あの爺さんはなんとなく信用できそうな気がする。
ただ、エフェクティヴが巨額な資金を狙っているは伏せといたほうがいいかもな。
と、ザダが今日あったことを思い返していると、マックオートがやっとドロを落として温泉にやってきた。
「よう、ちゃんとドロ落とせたか?」
「なんとか落とせました。」
そう言うと、マックオートも温泉につかった。
「ふぅー、気持ちいい。」
「ドロさらいは大変だもんな。俺も新人の時にやらされたよ。」
「そうなんですか。」
ふと、マックオートはダザの義足に目を向けた。
「ん?ああ、この義足か?昔、爆発事故にあってな。この街は昔から抗争や事故が多くて、手足を失う奴は多いんだ。」
「あ、すみません。」
マックオートは義足に目を向けたことを謝る。
「しかし、全然気づかなかったです。ダザさんが義足してるなんて。」
「精霊義肢の技術が発達してるからな。こんな風に温泉につけることも可能だ。」
「精霊義肢ですか。凄い技術ですね。」
「まぁ、そういう技術を盗みにきたり、金で雇われて街で暴れるよそ者が多いのが大変なんだがな。」
ダザのマックオートを見る目が変わった。
「俺は、そういう連中が大の嫌いなんだ。勝手に人の街で暴れ盗み治安を悪化させる。街に根を張り育つわけもなく、害虫のようにやってくる」
ダザは隠し持っていたブラシをマックオートに突きつけた。
「!?」
「マックオート、てめぇは何のために街にやってきた?他の害虫どもとは違う気がするが、返答次第じゃ追い出させてもらう。」
マックオートに街に来た理由を尋問したダザは、その回答にイラついていた。
理由が分からない?湧いては消える存在?おとなしく出て行く?それでいて指令書探しはしたいと?
確かに他の害虫とは違うが、これじゃあウジウジしたウジ虫、メソメソした泣き虫だ。
あの花の化け物と勇敢に戦った男と同じには見えない。
ダザは怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、落ち込んでいる相手に逆効果だと怒りを抑えた。
「ふぅー。」
ダザは一旦息を吐いてから、喋りだした。
「とりあえず、他の害虫のように街に迷惑をかけないっていうのは分かった。追い出すのは止めとこう」
ダザは突きつけていたブラシを逸らした。
「ジーニアスって奴は聞いたことがないが、図書館にでも行けばなにか分かるかもしれん。
あと、看板の大きい酒場にいる紫のローブを被った子供に聞いてみてもいいかもな。子供に見えて博識だ。街のことも良く知ってる。」
「・・・だが、俺は・・・。」
「よく分からんが、あんな難しい本を読むほど呪いを解きたいと思ってるんだろ?じゃあ、とりあえず呪いを解いた後に、理由考えればいいんじゃないか?」
「・・・えっと、意味がよく分からないが?」
「行動が先で理由が後ってことも良くあるってことだ。今日だって、レストが花の化け物に襲われた時に咄嗟に護っただろ?あの時、わざわざ助ける理由を考えてから動いたか?」
「しかし、あれは咄嗟のことだからで・・・。」
「あー、ごちゃごちゃうるせぇな。じゃあ、咄嗟って何秒だ?1秒?2秒?10秒は咄嗟じゃなくて、9秒は咄嗟だとしたらその差はなんだ。
悠久の歴史の中じゃ俺らの人生なんか刹那のようなもんだろ。それなのに、いちいち全てを理由を考えてから行動してたら何もできねぇ。
呪いが解きたいから解く。気に食わない奴は追い出す。気に入った奴は助ける。ただそれだけだ!」
自分に街に来た理由を尋問した男とは思えない台詞だとマックオートは感じた。
一方ダザも怒りと酔いでよく分からないことを言ったなと思っていた。
「・・・まぁなんだ、少なくても今日お前がいたおかげで、あの花の化け物を倒せたんだ。
お前のおかげで救われた人が何人もいるんだ。だから、お前は決して"何の意味のない存在じゃない"。」
そう言うと、ダザは少し照れくさくなって温泉から上がった。
「温泉に誘ったのも、別にお前を追い出すためじゃない。ただ真意が知りたかっただけなんだ。脅して悪かったな。」
「ダザさん・・・。」
「ダザでいい。まぁ、温泉につかってゆっくり考えな。理由じゃなく、どうするかを。あと、依頼書探し頑張ろうな。呪いの件もなにかあったら手伝うよ。」
ダザはマックオートを残して先に温泉から出て行った。
「ふぁー」
ダザは欠伸をしながら、清掃美化機構の依頼一覧表前に来ていた。
「今日残っている依頼でセブンハウス関連はジフロマーシャの夜勤だけか。」
朝一番、上司にウォレスが『f予算』を狙ってないと伝えに行った為、他のセブンハウス関連の依頼は既に取られていた。
清掃美化機構は高度な清掃技術があるだけでなく、戦闘技術を持ったものも少なくなく、清掃員兼護衛ということで金持ちやセブンハウスでからよく依頼が来ている。
また、清掃員達も街や公共施設に比べ報酬の高いため、そっちの仕事を優先的に取っていた。
「とりあえず、今日は昼間に町の清掃して、夜からジフロマーシャかな。」
そう呟くと、その依頼に自分の名前を書いて、街の地図を確認する。
南西に広がる小高い丘の頂にある大きな屋敷が「リリオット」本家だ。
その丘の麓には、貴族街が広がっており、その中に公騎士団を有する「バルシャ」家、公騎士団病院や清掃美化機構を運営する「クローシャ」家、学術院などの学校、図書館を管理する「ラクリシャ」家がある。
元々は、ここら一体の大地主である「リリオット」とその付き人である騎士、癒師、学者がそれぞれ貴族の地位を与えられたとか。
残りの3家は、街の発展に大きく寄与した家が、その功績を認められ貴族の地位を与えられた。
北の職人街にある「ジフロマーシャ」は採掘と精霊精製技術の発達に寄与し、貴族入り後はそれらの統括管理や新技術開発の研究、奨励などを勤めている。
中心街にある「ペルシャ」は、リリオットに商人を呼び物流を作ることで、街を豊かにした。ソウルスミスに自身が管理していた市場ルールをレンタルした後は、その監査と財務管理をしている。
南の農村部近くにある「モールシャ」は、南に広がっている猛獣が住むダウトフォレストの一部分を開拓し、農地を作ることで食糧難を解決した。
現在も、農地と農地拡大及び害獣駆除のためにダウトフォレスト周辺の警備、開拓する狩人組織を管理している。
このように、セブンハウスはリリオット家を頂点にそれぞれの家の特色を活かすことで、数百年順調に施政が出来ていた。
と、ダザは小学校で習ったことを思い出しながら地図を見ていた。
「だが、近年、特にソウルスミスが市場を管理し出してからは、利権争いや私利私欲に走りだして腐敗が進んでるんだけどな」
そう思い地図から目を逸らしたとき、自分の行動予定に「定期健診」と書いてあるのに気がついた。
「綺麗に使ってるね。個人的にはもっと激しく使ってもらった方がデータが取れていいんだけど。」
白衣を着た男は、ダザの外された義足を見ながらそう言った。
ここは、ヘレン教の特殊施療院にある一室。この男はここに勤める精霊義肢技術者である。
ダザの義足はこの男に製作され、定期的に整備されていた。
「しかし、清掃美化機構には感謝しないとね。多額な寄進と、こんな良い実験体を提供してくれるとは。」
「・・・本人の目の間に実験体とか言わない方がいいですよ。先生。」
正式には癒者ではないが、ダザは先生と呼んでいた。
男はセブンハウスから多額な寄進と被験者の提供を受けることで、戦闘用義肢を開発し、被験者に与えているヘレン教の裏切り者であった。
特殊施療院は裏切り者による精霊義肢技術の流出対策として、特定の部屋でしか義肢知識を参照できないように技術者の記憶にロックをかけていた。
しかしながら、開発した義肢の流出対策は完全ではなく、男の裏切りを可能にしていた。
「詳しい原理は思い出せないけど、加熱性の精製精霊を使用し加速移動を実現してるのか。我ながらいい仕事をしてる。」
と、先生は笑いながら自分が製造した新しい義足をダザに装着した。
「しかし、神経系の作りはまだ甘い。最低限の神経しか構築できてない。神経路を細く出来れば複雑な動きも可能になるんだけど。」
先生は精霊義肢製作を趣味のようにしており、こうやって義肢性能についてブツブツ語ることが多かった。
「では、稼動チェックだ。動いてみてくれ。」
ダザは言われたとおり歩いたり走ったり跳んだりしてみた。
「通常稼動は問題ないね。次は加速移動だ。」
「了解です。」
ダザは義足に力を入れるような感覚で曲げ、その足で地面を蹴った。
次の瞬間ダザは10メートル程先に跳んでいた。
「問題なさそうですね。」
「耐久性、軽量性、機能性も前回より向上してるね。まぁ、僕のことだ。他にどんな機能入れているかは分からないけど。」
「前みたいに、蹴ったときに足首から先が飛んでいくのは勘弁してくださいね。」
先生は大きく笑った。
「しかし、これだけ動く義肢が作れるなら、機械人間みたいのも作れそうですよね。」
ダザはなんとなく思ったことを聞いてみた。すると、先生はニヤリと笑い語り始めた。
「機械人間。異国ではロボットとか言うらしいけど、それに最も必要なものは何かわかる?」
「?」
「脳だよ。いかなる強靭な体や力を持っていたとしても行動を考えることが出来なければ意味がない。
特殊施療院の技術者の中には機械人形にヘレンの精神を入れて復活させると意気込んでる奴がいるけど
僕に言わしてもらえばそんなのは邪道だ。僕達はヘレンを造ることを目的にしているのではなく
ヘレンに近づくために義肢開発をしているんだ。義肢ならばひ弱な僕でもヘレンに近づけるからね。」
「・・・それで、自分の両腕と両足を切り落としたんですか?」
「その通りだよ。ダザ君」
先生は再びニヤリと笑う。服の隙間から義肢がチラチラ見えた。
ダザは義足の交換を終えて施療院から外にでると、近くに立っているヘレン教の教会が目に入った。
黒髪以外の人種を全て救済し、戦乙女ヘレンを求め目指す宗教。
本来の目的は後者らしいが、迫害された反動から救済活動は活発であり、この街でも少しは支持を得ている。
特に小学校や学術院はセブンハウスの管理下で教会が運営しており、通っていたものには馴染みが深い。
ただし、やはり好戦的で危険というイメージも拭えず、黒髪人種への過剰までも差別から嫌悪する人も多い。
結果とし、黒髪にもヘレン教にも関わらない方が良いとする者が大多数であった。
ダザは小学校に通っていた時期があったため、多少は読み書きや計算が出来、街の歴史や、ヘレン教の知識はあった。
故にヘレン教に影響されて黒髪を差別することはないが、ヘレン教を偏見で見ることもなかった。
確かに、あの先生のような狂信者がいるが、それでも全体としては街に良い影響を与えている。
黒髪差別も、自身の排外主義と似たようなもので、同調は出来ないが非難も出来ないと考えていた。
ふと、古ぼけたヘレン像の前に子供が座って砂で遊んでいるのが見えた。
教会は孤児院も兼ねており、そこに住んでいる子供だろう。孤児の世話なんて立派なもんだとダザは眺めていた。
と、その時ヘレン像が大きく傾いた。倒れる前兆だ。
「あ、危ない!」
と叫ぶと同時にダザは義足に力を入れ地面を蹴った。
1回、まだ届かない。連続使用は体に負担が大きいが構っていられない。
2回、あと少し。着地する右足が痛い。間に合え!
3回、届いた!ダザは子供を抱え込んで跳び、崩れてくる像を避けた。
驚いた子供は大声で泣き出し、騒ぎを聞きつけた修道女が駆けてくる。
「大丈夫!?」
子供を様子を見てみると、泣いてはいるようだが外傷もなくどこもぶつけてはないようだ。
「大丈夫そうだ、怪我はない。びっくりして泣いてるだけみたいだ。」
ダザが離すと、子供は泣きながら白髪の修道女の方に駆け寄っていった。
「あ、ありがとう。しかし、貴方の方は大丈夫なのか?」
「うん?ああ、俺は大丈夫だ。」
連続加速の負荷と飛び込んだときの擦り傷で体中痛いが、ほっとけば治るだろう。
しかし修道女はほっとかなかった。
「見せてみて。」
服をめくり、擦り傷を確認した修道女はその傷に手をかざした。すると、ダザの周りに柔らかい光が溢れだし、傷と体の痛みがみるみる消えていった。
「回復術ってやつか、わざわざすまない。」
「子供を助けてくれたんだ。当然の行為だ。」
精霊駆動による回復術。数年前に実用化されたばかりの技術だ。この技術のおかげでヘレン教はさらに救済活動を活発にしている。
痛みが殆ど消えた時、遠くから微かに笛のような音の聞こえた。この音は公騎士団の危険信号音?なんでこんなところで?
疑問に思ったダザは急に起き上がる。
「ありがとう!この礼はまたする!」
修道女にそう告げると、ダザは音が鳴った方に駆けていった。
ダザは笛のような音が鳴った方に走っていた。
あれが危険信号音なら、公騎士団が襲われたということか?
こんな地域だとすると相手はエフェクティヴか。
そうだとすると、あんまり相手にしたくないな、親方のこともあるし。
走りながら考えていると、向かっている方向が『泥水』であることに気づく。
まさか、『泥水』で何かあったのか?
そう思い走る速度を上げようとしたとき、風を切って飛んでくる音が聞こえた。
ダザは咄嗟に身を低くすると、頭の上を何かが通過した。
その物体は弧を描き、飛んできた方向に戻っていく。ダザには金属の輪が飛んでるように見えた。
戻っていったその輪は、進行方向に立っていた男によって捉えられる。
「ありゃ、セブンハウスの清掃員じゃねぇのか?殺していいのかよ?」
「近づく奴、逃げる奴は対象以外全員殺せとの指令だ。構わしねぇよ。」
輪を掴んだ長髪の男と、隣にいた鎖が付いた鉄球を持つ巨体の男は、そう言うと臨戦態勢をとった。
どう見ても公騎士団でもなければ、近隣に住んでいるエフェクティヴでもない。
奇妙な服装に奇妙な武器。間違いなく外部から来たリソースガードだ。
何故公騎士団の危険信号音が鳴った方から来たか分からないが、余所者が殺意を持って攻撃してきた。
さらに、殺しても構わないとの宣言。ダザは当然相手に合せ構える。
「よく分からんが、害虫共相手なら手加減の必要はねぇな。」
ダザは義足に力を入れて加速し間合いを詰める。
長髪の男は金属の輪を再度投げる。投げるタイミングや軌道が見えれば躱すことは容易い。
ダザは輪を難なく躱す。よくよく見ると輪の外周は刃になっていることに気づく。
しかし、それを見てる隙に長髪の男は更に輪を投げ追撃する。今度の二つ同時だ。
ダザは義足で加速し左に飛んで追撃を避ける。
だが、その先にはいつの間にかもう一人の巨体の男が待機しており、鎖付き鉄球を振り回してダザにぶつけてきた。
咄嗟に鋼鉄ブラシでガードするが、その鉄球の勢いによりダザは吹き飛ばされた。
「おいおい、折角近づいて来てくれたのに吹き飛ばしてどうする。」
「これで終わりかと思ったが、清掃員め、ガードしやがった。なかなかやるぜあいつ。」
談笑する二人組。これはつまり余裕の現れであった。
一方、吹き飛ばされたダザは、頭から血を流しながら考えていた。
本来、自分は暗殺がメインで、こうやって対峙した戦闘は得意ではない。
油断させてから、隙をついて相手を殺る。それが基本スタイルだ。
しかし、今回の相手は二人組みで恐らく戦闘のプロだろう。実に不利だ。
吹き飛ばされたこのチャンスに退避した方が良いだろう。
だが、害虫共相手に退避だと?近づくもの逃げるもの全て殺す危険人物だ。
ほっておけば街に害を与えるのは間違いない。そんなことが我慢できるものか。
「まぁ、なんとかなるか。」
根拠ない楽観的思考。それでもダザは再度敵に立ち向かっていった。
何とかなるもんだなとダザは思った。無論、この少女の助けがあってこそだが。
ダザが二人組みに再度対峙したとき、屋根の上から黒髪の少女が降りてきて鉄球男に向かっていった。
鉄球男は急な乱入者に驚くこともなく、当然のように鉄球を振り上げ、少女を叩き潰した。
目の前で少女を殺されたと思ったダザは激昂し、怒りに任せて二人組みに突進する。
すかさず、長髪の男が鉄の輪を二つ同時に投げる。ダザは再び義足に力を入れ、今度は上空へ跳んだ。
上空ならあの飛び道具も鉄球もいくらか威力や速度が落ちるはずだ。
跳躍中は避けることが出来ないが、威力が落ちた攻撃なら受けれるかもしれない。致命傷さえ食らわなければ多少の損傷だって厭わない。
たとえ腕を落とされようが、相手の命を奪う。そんな考えと覚悟の上の行動だった。
だが、予想外のことが起きた。
跳んだ瞬間にダザの義足が急に燃え始めたのである。
いや、燃えているのはズボンだけで、義足自体は赤くなり発熱している。
連続加速により義足が熱暴走を起こしていた。
しかし、ダザは構わずその高熱の義足で攻撃を仕掛ける。
長髪の男は思った以上の跳躍と急に燃えた足に驚いたが、冷静に次の攻撃を行おうとした。
その瞬間、長髪の男は緑の閃光に包まれた。男は悲鳴を上げる。
何が起こったかわからないが、ダザはそのまま重力にまかせて義足を鉄球男に振り落とた。
鉄球による攻撃は間に合わないと判断した男は、鎖で義足を受け止める。
しかし、鎖は高熱の義足に触れた瞬間から溶け出し、義足の勢いを止めることは出来なかった。
ダザの義足による蹴りは鉄球男の脳天に直撃する。頭蓋骨が砕ける音と、肉が焦げる臭いがした。
緑の閃光を浴びた長髪の男は、半身焼き爛れていたが、もう半身はまだ動けていた。
着地しようとするダザに対し、長髪の男は再度、鉄の輪を投げようとする。
しかし、その攻撃は鉄球男の陰から現れた、鉄球で潰されたはずの少女によって阻止される。
少女は鞘に納められた刀を素早く抜くと、男の残った腕を切り落とした。
鉄球男と長髪の男は二人とも倒れこむ。
ダザは、咄嗟に黒髪の少女にブラシを向けるが、敵意がないことに気づくとブラシを下ろした。
「助けてくれたのか・・・?」
「まぁね。不利そうだったし。もしかして迷惑だったかしら?」
「いや、助かったよ。ありがとう。」
まさか、よそ者の少女に助けられると思わなかった。
だが、例えよそ者でも助けてくれた少女に敵意を向けるわけにはいかない。
服についていた火はもう消えた。義足はまだ熱いが大丈夫だ。
ダザは少女にいろいろと聞きたかったが、自分の目的を優先させた。
「・・・『泥水』に行かないと・・・。」
「泥水?」
「・・・向こうにある酒場だ。」
「え?止めといた方がいいわよ。そんなに血を流してるのに。似たような連中もまだまだ大勢いるわよ。」
「仲間がいるかもしれないんだ。」
そう言うと、ダザは頭から血を流しながらフラフラと移動を始めた。
地下通路を進むダザとえぬえむ。遠くから足音が聞こえるので、誰かが移動してることがわかる。
しかし、それが敵か味方かは判別出来ないため、二人とも足音に気をつけながら歩いていた。
「足音からして、3人ってところかしら。」
「・・・耳がいいんだな。」
「師匠の修行で鍛えられたからね。」
小声で会話する二人。
聴覚を鍛える修行とは一体どんなのだろうとダザは疑問に思ったが、同時にその師匠の修行とやらで、こんな少女が高い戦闘技術を得ることが出来たのだろうなと納得も出来た。
「俺も耳はいい方なんだが、足音は分かっても人数までは把握できないな。」
ダザは元鉱夫であり、落石や有毒ガスの危険がある坑道内での労働をしていたため、音や臭いには敏感であった。
ふと、『泥水』で見た光景を思い出す。
そこには、馴染みの酒場の主人や顔見知った元同僚、親方の死体が転がっていた。
恐らく、えぬえむがいなかったらダザはその場で泣き叫んでいただろう。
赤の他人の少女がいたからこそ、ダザは少女に不安や動揺を伝えないように気丈に振舞っただけであった。
「エフェクティヴなんかに関わるから碌な死に方をしないんですよ、親方。」
ダザは心の中でそう呟いたが、それは本心ではなく、怒りと悲しみを抑えるための責任転換であった。
しばらくすると、地下通路の先から聞こえていた足音が消える。外に出たのだろうか?
ダザとえぬえむは移動速度を速める。待ち伏せの可能性もある。ダザはブラシの柄を握り締め、えぬえむも攻撃に備える。
数分後、足音が消えたと思える場所に着くと、頭上に扉があることに気づく。
扉の外に集中するが、人の気配はない。
「俺が先に出る。えぬえむはもしもの時の後方支援を頼む。」
ダザがそう言うと、えぬえむはコクリと頷いた。
ダザは頭上の扉を開けると、勢いよく飛び出し、ブラシを構えた。
周囲を見回すが、特に人影もなく安心する。えぬえぬも続けて地下通路から出てくる。
「敵はいなさそうですね。うん?向こうで話し声が・・・?」
確かに、数人の話し声が聞こえる。なにか焦っているようだ。しかも近づいてきている。
ダザとえぬえぬは再度、臨戦態勢をとる。
話声と足音はどんどん近づいて、この部屋までやってきた。
ダザは、部屋に入ってきた人影に攻撃を仕掛ける。
が、攻撃を仕掛けたダザの首元には、部屋に入ってきた人物により冷たい剣が突きつけられていた。
「リューシャ!?」
「えぬえむ?」
剣を突きつけている女とえぬえむが驚く。さらに、後ろから来た人物も驚いた。
「ダザさん!?」
「オシロ?それに夢路!?」
それは、負傷している夢路を背負うオシロだった。
「あなた、清掃美化機構の清掃員ね!?私は第三精霊発掘顧問、リット・プラークよ!私を保護しなさい!」
「あ?」
さらに続けてはいってきた偉そうな女はダザに命令したが、血だらけのダザに睨まれ黙ってしまった。
『泥水』の裏口から出た一行は、囲まれることを危惧し裏路地を通って病院を目指した。
途中、『泥水』やエフェクティヴの基地を襲撃した連中の1人と思われる男が現れた。
東国の服を身につけ、2つの刀を所持していた。
男が二本の刀を抜く。片方の刀身は赤く熱を発しており、もう片方は青白く冷気を放っていた。
「熱剣と凍剣の使い手か・・・。」
リューシャがそう呟く。そして、男は一行に向かって斬りかかって来た。
が、熱剣はダザの義足により防がれ、凍剣はリューシャの剣で受け止められてしまった。
「「えぬえむ!」」
「了解!」
ダザとリューシャが叫ぶと、えぬえむは剣を出現させ、二人の間から男を縦に斬り抜いた。
男は体の真ん中から血を噴出しながら倒れる。
人数差か、相性が良かったのか、それとも男の実力が低かったのかわからないが、あっさり敵を倒すことが出来た。
その後、病院までの路中では他の邪魔者は現れなかった。
病院に入ると、ダザ達は受付に急ぐ。
「今日は掃除の依頼はしてませんが?」
ダザを見た受付の男はダルそうに答える。
「後ろがみえねぇのか。重症の急患だ!」
ダザが吼えると、受付の男は後ろを確認する。
「急患?一般の方は貴族の紹介が必要ですがね?」
「この女の人の依頼です。重要人物なので助けて欲しいと!」
オシロがえぬえむに背負られたリットを指す。
「第三精霊発掘顧問のリット・プラーク様よ。今は疲れて気を失っているけど、起きた時にこの人達が死んでたらどうするかしらね。」
「怒り狂って助けなかった受付担当者をクビにしちゃったりして。」
リューシャとえぬえむが受付の男を脅し始める。
男が狼狽えていると、奥から黒い髪をポニーテールにした女が現れた。
「いいじゃないですか、どうせ手も空いてますし。」
「しかし、もし違っていたら・・・。」
「どっちにしろ、そんなに重症患者を追い返すわけにはいきません。」
「癒者のあんたが言うなら構わんが、わたしゃ責任取れませんよ。」
黒髪の癒者は受付の男を納得させるとダザ達に目線をやった。
「患者をこちらに、治療室で処置します。」
「あら?あなた、仲介所にいた・・・?」
リューシェが黒髪の癒者の顔を見て尋ねる。
「仲介所?ああ、それは妹のヒヨリです。元気にやってますか? さぁ、急いで!そちらの女の人は?」
「ああ、この人はそこらへんで寝かせていれば大丈夫ですよ。」
リットについて聞かれたため、彼女を背負ったえぬえむが答える。治療中に起きられて、余計なことを言われたら困るため適当にごまかす。
「そう、なにかあったらご連絡を。あと清掃員の貴方も一緒に治療します。」
「俺はいい。先にこいつらを。」
「いいから、癒師命令です!」
黒髪の癒者はそう言うと、怪我人を連れて治療室に向かった。
ダザは『泥水』に居た。周りは先ほどと同様、血の海だった。
ただし死体が違っていた。鉱夫仲間や親方、おやっさんに混じって
オシロ、夢路、マックオート、レストの昨日の連中も倒れている。
えぬえむ、リューシャ、教会の子供と修道女、先ほどの癒師、機構の先輩に後輩、街に住むいろんな人々。
ダザが今まであってきた人々の多くが倒れ、切り刻まれている。
「誰が殺ったんだ!?誰が!?」
と怒りに震えていると、ふと酒場に飾っていた鏡で自分の姿が見える。
ダザはそれにより、自分が血まみれで剣を持っていることに気づく。
「ま、まさか・・・。」
疑いながら鏡に近づく。すると鏡の中の自分が語りかける。
「戦闘への高揚感がヘレンだ、殺人によってヘレンへの扉は開かれるのだ!!」
鏡の中のダザは笑い出す。
一緒になって特殊施療院の先生の笑い声が響く。
「ダザ君。これがヘレンに近づくということだよ!」
ダザの義足が熱を発しだす。義足部分がどんどん体を侵食していく。
いつの間にか、正面に巨大な古ぼけたヘレン像が現れる。
ヘレン像はグラリと揺れて倒れてくる。
逃げなければ!
ダザは逃げようとするが、体が義肢に覆われ動けない。
ヘレン像はゆっくりと倒れてくる。その顔は微笑んでいたがどこか悲しそうだった。
・
「仕事に遅れる!?」
ダザはガバッと起き上がる。辺りを見渡すとここは病院の治療室だった。
そういえば、他に襲われている人が居るかもしれないと戻ろうとしたら
黒髪の癒師になにか打たれて・・・。
何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。昨日、今日といろいろありすぎて疲れたんだろう。
時計を見ると、あれから8時間経っている。恐らく事件も沈静化しているだろう。
助けられる人がいたかもしれないが、もう遅い。
ダザは歯軋りをし、立ち上がる。
もう、自分に出来ることがないことを察したダザは、本来の仕事に戻ることにした。
丁度、ジフロマーシャの夜勤が始まる時間が近い。昼の仕事が出来ず、レストの依頼書は探せなかったが仕方ない。
治療室から出ると、あの黒髪の癒師に出くわした。
文句を言ってやろうかと思ったが、治療してくれた恩もあるためとりあえず礼を言う。
「それで、他の2名は・・・?」
ダザが夢路とベトスコの安否を確認すると、癒師は容態を説明してくれた。
夢路は命に別状はないが1週間は目を覚まさず、ベトスコは、損傷以外に別の病気も患っているらしい。
しかし、ダザには何も出来ない。だから癒師にお願いするしかない。
「二人をよろしくお願いします。」
ダザは癒師に頭を下げて、待合室に向かった。
ダザが待合室に行くと、そこには誰もいなかった。
オシロぐらいでも残っているかと思ったが、いないのか。
詳しい事情を聞きたかったが仕方がない。
・・・オシロは泊まる場所とか大丈夫だったのか?
えぬえむやリューシャって奴が何とかしてくれていればいいが。
そういえば、精霊発掘顧問はどうなったんだ?
精霊発掘ってことはジフロマーシャの人間か。
いくら頭に血が上っていたからってセブンハウス関係者を粗雑に扱ったのはまずかったな。
ジフロマーシャ邸で会ったらちゃんと謝罪しないと。
語ってくれるかわからんが、今日のことも教えてもらえるかもしれんしな。
そう思いながらダザは公騎士団病院をあとにした。
ジフロマーシャ邸に着くと、なにやら物々しい。なにかあったのだろうか?
不審に思いながら門番に聞いてみると
「通達を聞いてないのか?クックロビン卿がお亡くなりになった。定期清掃なんぞやってる場合じゃない!帰れ、帰れ!これだから掃除屋は・・・。」
と、叱られてしまった。
クックロビン卿が亡くなっただと?ウォレスが言っていた精霊武器を流出させていたという人物が?
「死因はなんなんですか?」
ダザは門番に銀貨を数枚渡して聞いてみると、門番は周りを気にしながら語り始めた。
「恐らく明日には発表があるだろうが、自殺だそうだ。しかし、ヘレン教の女が関わっているという噂もある。」
「自殺?ヘレン教の女?」
「緑のフードを被った女がクックロビン卿が亡くなる際一緒にいたらしい。詳しくは知らんがな。」
「その女は今どこに?」
「分からん。捕まったのか逃げたのか。俺が知っているのは以上だ。」
「そうですか。あと、精霊発掘顧問のプラーク様はいらっしゃいますか?」
「プラーク様?今日は不在だが、なにか用なのか?」
「あ、不在ならいいです。ありがとうございます。」
そういうと、ダザは門番に別れを告げてジフロマーシャ邸を離れる。
緑のフードでヘレン教の女。酒場でウォレスの元に訪れた少女を思い出す。
ウォレスはクックロビン卿を疑っていた。そして、それをその少女に伝えていた。
あの少女なら人を自殺に追い込むのも可能な気がする・・・。
プラークが不在なのも気にはなる。まだ、オシロとかと一緒にいるのか?
ダザは、ジフロマーシャ邸の屋根を見上げる。
侵入して調査をするか…。いや、今日は警備が厳しすぎて無理だろう。
「はっ、結局俺は何もできねぇんだな。」
ダザは自嘲的に笑うと、清掃美化機構に今日のことを報告しに帰ることにした。
ダザは自分の上司である、清掃美化機構特殊広域課の課長の前にいた。
機構内のリリオット全域に渡る偵察、暗殺を統括する人物だ。
彼の前で下手な嘘は通用しないだろう。
ダザは自身が不利にならないように、ある程度脚色して報告を行った。
「うちの清掃員が病院に怪我人を連れてきたというから驚いた。容姿を確認したら君だと分かり、受付にジフロマーシャ邸の依頼中止を伝言したが上手く伝われなかったようだな。」
「受付には出会いませんでした。恐らく入れ違いにでもなったのでしょう。」
あの受付のことだ、わざと伝えなかったのかもしらないが。
「ふん。まぁいい。それと、ラボタ地域を襲ったのはスラッガーだろう。事件後、公騎士団が駆けつけた時には既に誰も居なかったが、手口からして間違いない。」
「スラッガーというと、対エフェクティヴの傭兵部隊ですか。」
「そうだ、しかし今回はラボタ地区全域で一般人の被害もでている。そもそも、エフェクティヴと一般人の判別は難しく、襲撃時や集会、違法精錬の証拠でもなければ対処出来ない。このような無差別虐殺をスラッガー単独で行うとは思えず、どこからか依頼があったのだろうが、依頼者は依然不明だ。」
「ラボタといえばラクリシャの管轄ですね。死んでいた公騎士団にもラクリシャの紋章がありました。」
「しかし、現場指揮はジフロマーシャの発掘顧問だ。他のハウスや外部の関与も否定出来ない。スラッガーは依頼者の名前を決して明かさないことでも有名だ。調査は難航するだろう。」
「動機も不明ですね。一般人を巻き込んだ制裁を加える理由があるんでしょうか。」
「発掘顧問のプラーク氏が見つかればいいが、彼女の所在も不明だ。最悪殺されたと見たほうがいい。」
結局、プラークの行方は分からないままだ。オシロ達と一緒にいればいいが・・・。
「クックロビン卿の件にしろジフロマーシャになにかありそうですね。」
「クローシャも疑われているがな。」
「クローシャですか?」
急に自分達が所属しているハウスの名前が出て驚く。
「管轄である美化機構の清掃員が関わり、管轄である病院に証人を匿っているとな。」
そういうと課長はダザを睨んだ。
あぁ、俺のせいなのかとダザは目を逸らした。
「おかげで、現場の処理は公騎士団がすることになった。疑わし組織に関わらすわけにはいかないそうだ。」
「・・・で、自分の処分は?」
「機構としては、貴重な証人の救助及び保護ということで処分は行わない。だが、当分裏の仕事は謹んでもらうがな。それと、近日中に公騎士団から取調べを受けるだろうから覚悟しとけ。」
「・・・わかりました。寛大な判断ありがとうございます。」
「以上だ。今日はもう帰りたまえ。」
「はっ、失礼します。」
ダザは、課長に一礼し課長室から退室する。
処分なしは良かったが、それはそれで怪しい気がする。
泳がされているのだろうか・・・。
ダザは疑念を抱きながら機構を後にした。
「掃除屋が今頃なんのようだ。死体処理はお前等の仕事だろ。何故出動しなかった?」
「上からの命令だ。上に逆らえないのはお互い一緒だろう?」
ダザは『泥水』の前に来ていた。見張りをしていた公騎士に出動しなかった理由を問われたため、ダザは面倒臭そうに答えた。
「馴染みの店でな。弔いの代わりだ。」
そう言うと、ダザは他の酒場から買ってきた精霊酒の瓶を扉の近くに置く。
周りには他の人が供えたと思われる、花や粗霊、酒瓶が置かれていた。
「・・・ふん。用が済んだらさっさと帰るんだな。」
この騎士は話が分かる奴らしい。
「仕事中に悪いな。助かるよ。」
ダザは死者の冥福は祈らない。ただ一つ、生前伝えれなかった死んでいった人達への感謝を念じるだけだ。
それが、ダザの弔いのやり方だった。
クソまずい酒をいつ飲ませてくれたこと、仕事の失敗をしつこく叱ってくれたこと、一緒になって馬鹿なことをやったこと・・・。
様々な感謝を一通り念じたダザは、見張りの公騎士に礼を言うと『泥水』を後にした。
さて、これからどうするか。
プラークが行方不明。つまり、オシロ達が無事という保証もないということだ。
本来なら、オシロ達の居場所を調査したいんだが・・・。
ダザは、そう考えながら後ろに注意を向ける。人の気配はない。
しかし、機構の偵察専門の連中なら気配を消すことも出来るだろう。
「付けられている感じはするんだけどな・・・。」
ダザは偵察の有無を雰囲気や勘に頼るしかなかった。
だが、もし偵察がいるとしたら、オシロ達の居場所を探すわけにはいかない。
彼等も重要な証人だ。所在が割れたら、機構やセブンハウスがどう動くかわからない。
一応、課長からオシロ達の名前や容姿、居場所を確認された時、聞いてない、頭を打ってあまり覚えてない、起きたら居なかったとかで、曖昧に答えといたが・・・。
怪しすぎだが、情報を漏らしてオシロ達を危険に晒すよりかは良いだろう。
居場所を確認してるところを見ると、恐らくセブンハウスはオシロ達の所在は把握していない。
スラッガーの残党に襲われた可能性もあるが、病院は街中だ。
わざわざラボタ地区に戻らない限り大丈夫だろう。
それに、えぬえむやリューシャが一緒だったんだ。無事である確率の方が高い。
自分が無闇に動いて探した方が、危ないだろう。
「熱りが冷めるまで大人しくしとか。」
ダザはオシロ達の捜索を諦め、家に帰ることにした。
(ダザが公騎士団本部に連れて行かれる少し前)
「おい、花に雨のオヤジさんよ。急に店に寄ってくれって頼まれたから久々に来てみたら、なんだこの変わりようは」
ダザは久々に訪れた『花に雨』亭の内装や従員の服装が気になって仕方がなかった。
「俺の夢のためだ。それよりダザよ。お前も『泥水』の奴とは馴染みだろうが。まさか、あいつが死んでしまうとはな・・・。」
「っち、居心地の悪い上にオヤジさんの慰めに付き合うとは。これならいつもどおり『ラペコーナ』で弁当を買ったほうがよかったな。」
「そう冷たいこというな。一緒に悲しんでくれる奴がいるだけでも心が癒される。ああぁ俺の枯れた心に雨を…。」
オヤジは涙を拭う。この『花に雨』亭と『泥水』は同じ酒場でありライバル店であった。
店主同士もよく喧嘩していたが、喧嘩するほど仲がいいというものか。
ダザは仕方なく、店主の泣き言と思い出話に付き合うことにした。
「 ―でだ、あの時もどっちの酒が旨いかで喧嘩してな。ダザ、お前も居ただろう。」
「あぁ、結局どっちも不味いで終わったんだろう?」
「馬鹿いうな!うちの酒の方が旨かったに決まってるだろ!あんな泥水になんか負けてたまるか!!・・・その酒ももう飲めないだがな・・・。」
オヤジは思い出話で盛り上がったと思えば、ライバルの死を思い出し落ち込んだりと忙しかった。
ダザは、そろそろ仕事の時間だと話を切り上げた。それと同時に一枚の紙を店主に渡す。
その紙にはオシロ達の情報が書かれていた。
「・・・そいつ等を見かけたことは?」
「いや、見てないな。」
店主は紙をジッと見ながら答えた。
「そうですか。じゃあ、もし見かけたら伝言頼みます。」
そういうと、ダザは再び紙を渡す。その紙にはこう書かれていた。
[セブンハウスが探している。当分身を隠せ。俺にも近づくな。]
店主はフンッと鼻をならし、受け取った紙をコンロで燃やした。
「面倒ごとか?」
「そんなもんです。」
ダザが席を立とうとした時、店の扉が勢いよく開いた。
そして、鎧を着た公騎士団が数名ズカズカ入ってきて、ダザの所でとまった。
「また、公騎士団か!これが面倒ごとなのか?」
店主がうんざりした顔で言う。
「貴様がダザ・クリークスだな?泥水の件で聞きたいことがある。本部まで同行してもらう!」
先頭に立った騎士がそうダザに言い伝える。
「泥水?どういうことだダザ?」
「・・・無事に戻れたらまたお話します。」
そう言うとダザは大人しく、公騎士団について店を出て行った。
ダザがよそ者を嫌っている理由の一つとして、奴等が自分のためにしか動かないということがある。
見知らぬ土地、見知らぬ人々だから平気で迷惑をかけられる。自分の目的だけで行動できる。
そして、その尻拭いをするのはその土地の者達だ。そんな理不尽が許されていいものか。
オシロに肩入れする理由を、自分のためと言い切ったこの女も奴等と同じ臭いがする。
同じよそ者でも、マックオートやえぬえむとは違う、俺が最も嫌いとする臭いだ。
そんな女を信用できるものか。
・・・だが、こいつがオシロや、夢路、オシロの爺さんを助けてくれたのも確かだ。
俺はこいつに借りがある。それに、他に頼れる人間もいない。
レストやマックオートも泥水が使えない今、連絡手段がない。
仲介所を介して伝言は残せるが、仲介所が信用出来るかは不明だ。
俺自身も、監視されている上にいつ取調べで動けなくなるかはわからない。
リューシャなら、情報を渡し指示を与えれば、それによりオシロを最低限護ろうとするだろう。
「そろそろ答えを頂きたいのだけど?」
リューシャは笑みを崩さずに催促する。
「・・・俺はお前を信用しない。だが、利害の一致ということで利用させてもらう。」
「わたしも同意見だわ。信用なんかいらない。お互い必要としているから協力するだけよ。」
「分かった。それにより、オシロの安全性が上がるなら情報を渡し、指示を出そう。」
「助かるわ。」
リューシャは愛想よく礼を言うが、ダザには白々しく感じた。
「まず、オシロの居場所として一番確率が高いのはエフェクティブだろうな。」
「ええ、わたしもそう思うわ。」
「そして、エフェクティブに保護されているなら、取りあえず安否の心配はいらない。」
「けど、本当に保護されているかの確証はないわよ?」
「そこでだ。お前にはエフェクティブに潜入してもらいたい。」
「潜入?」
リューシェは首を軽く捻る。
「エフェクティヴに潜入できればオシロの所在が分かるかもしれない。もし保護されているなら、お前も精霊の話が聞けて好都合だろ?」
「なるほどね。けど、潜入とか簡単にできるのかしら?」
「こんな事件の後だ。厳しいかもしれない。しかし、同時にエフェクティブは人材不足で悩んでる。あとは、お前の交渉次第だな。」
そういうと、ダザは紙に何かを書き、リューシャに渡した。
その紙には人名と特徴が書かれていた。
「この人は?」
「俺が知っているエフェクティヴの所属員だ。親方・・・、亡くなった鉱夫長とも仲がよかった。」
ダザが渡した紙にはこう書かれていた。
[ウード・ウルモース 第三坑道監督官 背の高い白髭を生やした老鉱夫]
リューシャはその紙を胡散臭そうに見る。
「どんな人なのかしら?信用出来るの?」
「鉱夫の中では最も人望がある人だ。
普段は坑道前の広場で、ツルハシを杖代わりにまるで樹木のように突っ立ってるだけなんだが、その場にいるだけで坑道の全てを把握している。
そして、事故や問題が発生すれば真っ先に気づき、迅速かつ適切に指示をし、実際に現場に乗り込んで救助活動をしたりする。それにより助かった鉱夫は大勢いるんだ。」
「人望、能力も高いと。取り入る隙はある?」
「わからない。基本的には寡黙な人だけど、問題が発生すれば怒鳴り散らしながら指示するからな。
泥水の件を話せば、多少は聞いてくれるかもしれんが・・・。」
「勝算は薄そうね。まぁ、とりあえず交渉はしてみるわ。」
リューシャはやれやれという顔をする。確かに、成功する可能性は低い。
「もし、交渉が失敗したときは、セブンハウスのジフロマーシャを探ってみてくれ。」
「ジフロマーシャって確か当主がなくなったという?」
クックロビン卿が亡くなったという噂は既に広がっているみたいだった。
「泥水にいたリット・プラークもジフロマーシャの人間だ。今現在、行方不明で殺されている可能性もある。」
「プラークが行方不明?報告しに帰るって言ってたのに?」
「死んでるのか、隠れているのか分からないが、間違いなくセブンハウスの裏で何かが動いている。最も怪しいジフロマーシャだ。」
「それを調査しろというの?あまり公的機関に目を付けられることはしたくないんだけど。」
セブンハウスとソウルスミスは蜜月の仲だ。あからさまにセブンハウスと敵対するのは避けたい。
「まぁ、どう選択するのはお前自由だけどな。あと、一応オシロ捜索に手を貸してくれそうな連中を教えておく。俺も連絡ついたら頼んでみるが、いつ連行されるかわからないからな。」
そういうと、ダザはレストとマックオートの情報を紙に書いて渡した。
「泥水で精霊が暴走したって話は聞いたよな?その時に一緒にいた連中だ。ある程度は信用できる。」
「・・・わかったわ。出来るとこまではやってみる。もし失敗しても恨まないでね。」
「もともと信頼もしてないんだ。恨みもしねぇよ。」
「あら、そういえばそうだったわね。」
リューシャは再び微笑む。ダザもつられてニヤリと笑った。
「いててて、すっかり油断してたな・・・。」
ダザは、頭を押さえながら起き上がる。
周りを見渡すと、部屋の造りからして地下にある部屋のようだ。
グラタンからの尋問が終わり帰ろうとしたときに、後ろから殴られ気絶していた。
まさか、公騎士団本部で襲われるとは。恐らくは内部の人間にやられたんだろうが、グラタンが言ってた通り色々なところに目を付けられてるみたいだな。
ダザがそう考えていると、目の前にあった扉が開き数人の公騎士が入ってきた。
暗くて見難いが、紋章はクローシャだ。
「まさか身内にやられるとはな・・・」
クローシャの騎士に遅れてもう一人、騎士の格好をした人物が入ってくる。
「目が覚めたかね?」
「・・・おはようございます。課長。」
その人物、ダザの上司である特殊広域課の課長であった。
「なんで課長のあなたが騎士の格好してるんですか?」
「あぁ、仕事の都合上、騎士団にも籍を置いてるんだ。一応クローシャ家の副騎士団長という立場だ。」
課長は普段通りの無表情の顔でダザに近づく。
「手荒なマネをしてすまんな。逃亡の恐れがあったため、気絶させて連れてこさせてもらった。」
「逃亡?俺には逃げる理由はありませんよ?」
「君が逃げ出すような話があってね。」
そう言うと、課長は一枚の羊皮紙を広げダザに見せ付けた。
「ダザ・クリークス。君に反逆罪及びスパイ行為の容疑がかかっている。公務員による反逆行為の刑罰は知ってるな?拷問の上の極刑だ。」
「なっ・・・。反逆罪だと!?何を根拠に!?泥水の件は報告をした通りですよ!?」
慌てて言い返すが、ダザには心当たりがいっぱいあった。
「泥水?いいや、違う。先般の教会襲撃事件は知ってるな?」
「ああ、公騎士団が教会を襲撃して返り討ちにあったってやつでしょ?」
「その返り討ちをした相手が判明した。前回、君に偵察を依頼していた紫ローブの少年、ウォレス・ザ・ウィルレスだ。
さらに、リソースガード側に依頼していた「救済計画」とやら調査結果がいくつか返ってきてな。どうやら教会側は『f予算』を狙っているそうだ。どういう意味かわかるか?」
「・・・つまり、ウォレスが『f予算』を狙ってないというのが嘘だったと?」
「上は君が敢えて嘘をついたと考えている。また、他家から清掃員がスパイしているという連絡もあった。」
「・・・しかし、証拠は?俺がスパイだと証明してみてくださいよ!」
課長の口がニヤリと歪む。ダザはいやな予感がした。
「証明しろ?逆だろ。君がスパイではないことを証明するんだ。」
「どういう意味ですか・・・?」
「・・・ウォレスを殺せ。それで君の潔白は証明できよう。あぁ、もし断るようだったら、そうだな・・・、例え離縁していても家族は大事にしたいだろ?」
雨が降る中、ダザとウォレスは対峙していた。
ここは、初めてダザがウォレスを見かけた、ほとんど人が通らない街路地。
「どうした、そんなに殺気を出して。儂に暗殺命令でも出たのか?」
「・・・はっ、ウォレスの爺さんには隠し事はできねぇってか」
ウォレスは相変わらずなにもかもお見通しな感じであった。
「暗殺するにしては、悲しい顔をするもんじゃのう。まるで無理やりやらされてるようじゃ。」
「・・・」
ダザは何も答えず、鋼鉄ブラシを構えた。
「・・・こんなことになって、残念です。」
「あぁ、儂も残念じゃ。じゃが、これも運命というものかのう。」
ウォレスは人差し指をダザに向ける。それと同時に凄まじい破裂音が響く。
ウォレスの人差し指から『死』を発射した。しかし、それはダザの鋼鉄ブラシによって防がれる。
「対魔法コーティングか。よう対策を練っておる。ならば・・・」
ウォレスは同様の技は通用しないと判断し、次なる技を繰り出すために構えを変える。
その瞬間、ダザはウォレスを初め見たとき以上の恐怖を感じる。
ウォレスの中で死そのもの存在が大きく膨れ上がっている。そんな感覚だ。
この技を使わせるわけにはいかない!ダザ意を決してウォレスにブラシで殴りかかる。
ダザの攻撃は直撃する。しかし、ウォレスは不動のまま動かず、血を流しながら呪文を唱え続ける。
死の感覚はまだ膨れている。ダザは蹴りによる連打を行うが、手ごたえがない。
これが・・・不老不死の魔法使い・・・!?
そして、死の存在は最大まで膨れ上がる。
もう遅いとダザは咄嗟に義足で身を護る。
「終わりじゃ、ダザ。 『ウォレス・ザ・ウィルレスの首切り鎌』!!」
ダザの義足による護りはまったくの無駄だった。
完全なる死角から鎌は現れ、防御の隙を縫ってダザの首をめがけて斬り裂いてきた。
鮮血が飛び散る。
ダザは咄嗟に身をそらし、首への攻撃を避けたが、それでも、肩からバッサリと斬られていた。
ダザは膝を付く。
もはや止めを刺す必要がないぐらいの致命傷だ。
ウォレスは少し哀れんだ顔をするが、仕方がないという表情で去っていく。
その時、ダザの義足から回転音と共に淡い光が発せられた。
その光はダザを包み込む。
痛みが和らぐ。まだ戦える・・・?
「精霊駆動の回復術!?」
ウォレスを驚いて振り返る。
ダザは義足で地面を蹴り飛翔する。そして、ウォレスの顔をめがけて、義足で蹴り込む。
ウォレスは顔面を潰され、その場に倒れ込む。
殺した?不老不死の魔法使いを?
ダザは疑問に思ったが、傷口がまだ痛む。完全には回復してないようだし、血も出しすぎてる・・・。
この場に再び倒れ込むわけには行かないダザは、義足を使い現場から離脱した。
雨に濡れ、顔を潰されたウォレスが街路地に残された。
(ダザとウォレスが戦ったすぐ後)
ウォレスと戦った場所から離れたダザは、傷口を押さえながら裏路地に座り込んでいた。
ウォレスの爺さんを殺してしまった・・・。本当に良かったのだろうか。
ダザはウォレスを殺したことを後悔していた。
殺される覚悟で挑んだのだが、まさか不老不死の魔法使いに勝てるとは。
確認はしてないが、あれで死んでいなかったら本当に化け物だな。
ダザはふと、義足を見る。先ほど発動したのは精霊駆動の回復術。
恐らく、義肢技術者の先生が付与してくれた機能なんだろう。
まさか、こんな機能が付いているとはな。おかげで助かったが・・・。
ズキッ
斬られた傷口も痛むが、頭も痛い。吐き気する。
顔見知りを殺してしまったせいで精神がまいってるのか・・・。
(戦いは気持ちいいだろ?殺人は気持ちいいだろ?それがヘレンへの扉だ。)
頭のなかで声が聞こえる。幻聴?ヘレン?いつか、夢で聞いたような・・・?
その時、道の角から人影が現れる。ダザは咄嗟にブラシを握る。
「あら?あなたは、確かこないだの清掃員さん?」
それは、夢路やベトスコを受け入れてくれた、公騎士団病院の黒髪の癒師だった。
「! 怪我をしてるのね?ちょっと見せてみて!」
そういうと、黒髪の癒師はダザの傷口を確認すると、テキパキと治療を始めていく。
「あんた、なんでこんなところに・・・?」
「・・・妹がね、行方不明なの。裏路地で見かけたって話を聞いて探しにきたのよ。」
妹、確か仲介所にいる回復術の使い手。直接にはあったことはないが噂では聞いたことがある。
(黒髪を殺せ!裏切り者の黒髪を殺せ!)
また、声がする。止めてくれ・・・。
ダザは頭を押さえる。
「傷口は塞がったわ。一応包帯を巻いたけど・・・、あら?頭が痛いの?」
癒師の手がダザの頭に触れた瞬間、ダザの意識はなくなった。
・
・
・
ふぅー、溜まっていたものを放出できたような爽快感だ。
やっぱり我慢は良くないな。
えーと、ここはどこだっけ?オレはなにしてたんだっけなぁ。
そう思いながら、ダザは裏路地を移動していく。
ダザがいた場所には、黒髪の癒師だったモノが転がっていた。
「やぁ、そろそろ来るころだと思ったよ。」
ダザは特殊施療院に来ていた。先生はいつもどおりニヤニヤして、ダザを向かい入れた。
「コイツの記憶を辿って、一番事情を知ってそうなのがアンタだったんだが、当たってたみたいだな。」
先生は「くっくっくっ」と楽しそうに笑う。
「偶然、違法精錬された精霊を手に入れてね。面白い精錬方法だったからちょっと解析してみたんだ。
そうすると、微かに意志のような反応を見せてね。これには驚いたよ。
精霊が人の精神の化石だという仮説は昔からあったからが、それを証明した人間はいなかった。」
先生は楽しそうに語る。ダザはそれをジッと聞いていた。
「それを証明するために、意志を増幅させる方法を考えたんだが、どれも上手くいかない。
そこで、思いついたのが、生きた人間の精神に直結させてみるという方法だ。
丁度いい実験台がいてね。そいつの義足にその精霊を仕込んでみたんだ。」
「つまり、その実験台がコイツで、その精霊の意志がオレっていうわけか?」
「そのとおり。つまり、精霊による精神のオーバーライドだ。
トリガーは、精霊駆動と使用者の精神状態が影響したのかな?
人の精神を乗っ取るっていうのはどんな感じ?」
「・・・目が覚めた時は多少混乱したが、今は大体整理が出来てる。昔の記憶もあり、自分が一度死んだことも思い出した。」
「ふむふむ、では、質問してもいいかな?君は何者だい?」
「100年程前に生きてたヘレン教の人間だ。裏切り者の象徴である黒髪連中を狩ってたら、捕まって殺されちまった。」
「ほう。では、君が黒髪とヘレン教との対立の原因になった、殺人者か。」
「殺人?ただの駆逐だろ?しかし、オレの駆逐によって黒髪が忌諱されるようになったのは喜ばしいことだ。ヘレン教も迫害されるようになっちまったがな。」
ダザはニヤリと笑う。先生も笑う。
「なるほど。で、現世に再び復活した君は、これからどうするのかね?」
「先生の方こそ、オレを蘇らせて何か調べたり、させたかったんじゃないのか?」
「いやいや、僕は精霊が人の精神の化石である仮説が証明出来ただけで満足だよ。」
「そうかい。じゃあ、オレは自由にさせてもらっても構わないんだな?」
「ああ、好きにしてくれ。」
「ならばオレは生前同様に黒髪を狩らせてもらうよ。裏切り者の象徴である黒髪共をな!
そして、戦いへの高揚感を全ての人間に教え、ヘレンへ導いてやるよ!
今現在、この街に流れている不穏な空気を濃くし、爆発させてやる!
そうだ、先生も一緒にどうだい?オレと一緒に街を混沌の渦に巻き込んでみないか?戦いたいんだろ、先生も?」
「はははは!いいねぇ!面白そうだ!」
ダザと先生は互いに手を握り合う。交渉成立だ。
「幸いにも、このダザってやつの肉体や技術は、生前のオレより良い。まぁ頭はよくねぇみたいだから、その辺はオレがなんとかしよう。」
こうして、リリオットに新たな悪意が放たれた。
ttp://takatume04.seesaa.net/article/274624465.html
黒髪の駆逐を行っていると、害虫の癖に害虫退治している黒髪を見つけた。
たしか、マックオートって奴だ。あんな黒髪と一緒に温泉に入ったと思うと体が痒くなる。
駆逐しようとしたが、オレの攻撃利用して逃げやがった。
害虫と同じく逃げ足も速い。小賢しい。
「次会ったら絶対殺してやるからなぁ!!」
黒髪が逃げた方に向かって叫ぶ。
追っても良かったが、そろそろ活動限界だ。
体内の精霊が減りすぎると、今度はオレ自身が磨耗しちまう。
多少の磨耗では大して影響はないって話だが、念のため精霊水で補給しねぇとな。
精霊水を飲みながら、ふと、黒髪が駆逐していた害虫が目に留まる。
まだ、生きてる。気持ち悪い。足で踏み潰す。
黒髪もこの害虫も同じようなものだ。存在そのものが気持ち悪い。不快だ。
足に害虫の踏み潰す感覚が広がる。あぁゾクゾクする。気持ち良い。
残った害虫たちも足で踏み潰す。自然に笑いがこみ上げてくる。ひひひひひ。
*
帰り道、視線を感じる。
周りを見渡すと、白髪の女が背を向けて走っている。
微かに、あのリューシャって女の匂いがする。
あのリューシャって女は良い。
強く凛々しく上に優しさも持つが、本質的には冷静で、冷徹で、冷酷だ。
あの凍った心をオレの熱い思いでドロドロに溶かしてやりたいね。ひひひ。
白髪の女を付けようと思ったが、丁度そのタイミングで先生が現れた。空気を読めよ。
「随分と暴れているようだけど、大丈夫なのかい?しかも、そんな清掃員姿で。」
「あぁ、黒髪を狩ればヘレン教が疑われる。この姿でやればセブンハウスが疑われる。
ヘレン側はセブンハウスが自分達に罪を擦り付けると疑うし、
セブンハウスは、ヘレン教が清掃員の姿で暴れると疑う。
一般市民は両方に不信を抱く。不和の空気がどんどん広がるって寸法だ。」
「なるほどねぇ。まぁ捕まらないように注意してくれ。」
「ひひひ。それより、先生の方はどうだい?」
「僕の弟子を使って準備を進めているよ。」
「了解。」
周囲に注意を向ける。本体が精霊なせいか、感覚が敏感になっている。
この街に広がる不穏の空気。邪悪な意志が渦巻いてる。
上手く便乗できれば面白そうだが・・・。
まぁ、楽しくやらせてもらうぜ。
「昨日、黒髪の方が大勢殺されました。犯人は清掃員の格好をしてるという噂がありますが
恐らくヘレン教でしょう。夜間外出には注意してください。」
ダザは黒髪に声をかけ、夜間外出をしないように注意していく。
もちろん、黒髪を心配しているわけではない。
これはマーキングである。黒髪の居場所や匂いを覚え、後々狩っていくための下準備である。
どうせ、黒髪大量殺人で外出を控えるんだ。注意喚起したって大して影響はない。
逆に少しでも信用が有ったほうがやりやすい。
掃除をするフリをしながら黒髪に声をかけていく。
イライラは我慢。我慢した後の方が気持ちがいいし。
広場に着いたとき、リューシャの匂いがするのに気づく。
匂いの方を見ると、リューシャと昨日の白髪がいた。
なにやら話している?ダザの名前が出る。呪われている?呪われてはないだろう。
「なんだ、呪われてるとは人聞きが悪いじゃねえか」
声をかけてアプローチしてみる。冷たい視線を浴びさせられる。気持ち良い。
「ダザ……じゃ、ないわね」
おお、ダザではなくオレを感じてくれてるのか?嬉しいねぇ。でも残念!
「今はオレがダザだよ!」
そう愛を込めて叫ぶと、雪片が飛んで来た。
やった!オレの愛に応えてくれた!
雪片を全て弾くが、次の瞬間、凍った土が目の前に現れる。
これはオレの愛を拒絶しているということなのか。
いいね!拒絶されるほうが燃えるってもんだ!
凍土を熱した義足で蹴りまくり穴を開け、逃げた二人を追いかける。
途中爆発とかあったけど気にせずに追いかけるが、見失ってしまった。
匂いすらしない。どこかの結界にでも隠れたのか?
付近を捜したが見つからない。
仕方がない、諦めて昼食をとりに店に行く。
「そういえばここの店員に黒髪がいたっけな」
そう言いながら入ると、店内が少しざわつく。当然か。
そんなざわつきを無視し、黒髪の店員を探す。
居た。しかも、昨日逃がした害虫も一緒だ。めんどくせぇ。
「お、マックじゃん!久しぶりだな!」
友好的に近づく。すっごく警戒している。
「ダザ・・・さん・・・?」
「ん?なんだよ水臭い。ダザでいいって言ったろ?」
水臭いというか、少しゴミ臭い。流石害虫ってところか。
「昨日、黒髪が大勢殺される事件があったらしいな。お前も注意しとけよ?
まぁ、マックなら大丈夫だと思うがな。
そうだ、店員さんも気をつけてくれ。
なんでも清掃員に扮してるって噂だが、ヘレン教の過激派の仕業だろう。
くれぐれも夜間に出歩かないように!」
「あ、ありがとうございます。」
店員は少し怯えながらお礼を言う。いいねぇ。そういう反応、唆るよ。
次の駆除対象にしてやろうかな。
害虫がこっちをジッと見ている。気持ち悪い。
お前は次こそ絶対殺すからな!
『ラペコーナ』の店員であるマーヤは仕事が遅くなり、夜遅くに帰っていた。
昨日、黒髪が大勢殺されたばかりであり速く帰るべきだったが、あれこれやっていたらこんな時間になってしまった。急いで帰ろう。
マーヤは駆け足で帰っていたが、帰り道で一番暗くなる場所に人影を見つけ、足を止めてしまう。
(ま、まさか黒髪大量殺人の犯人!?)
マーヤ警戒しながら、後ろへ下がる。すると、人影が話しかけてきた。
「あれ?ラペコーナの店員さん?」
聞いたことがある声だった。人影が近づいてきたため、顔が見えてきた。
「あ、昼間の清掃員さん?」
昼間に夜間出歩かないように注意してくれた清掃員さんだった。ほっと一安心。
「夜間外出は控えるように言ったのに・・・。」
清掃員さんは困ったような顔で再度注意する。
「す、すみません。仕事が遅くなってしまって。」
ふと、何かの匂いを感じる。清掃員さんが昼間にも訪れてくれたときにも感じた匂い。
なんの匂いだったかな。あ、そうだ、包丁で手を切ったときに嗅いだことがある匂いだ・・・。
えっ・・・?
清掃員さんが一緒に話していた黒髪の人の言葉を思い出す。
『ブラシで殴られると、人は死にます・・・気をつけて・・・』
清掃員は嫌な笑みを浮かべながらブラシを握り近づいてくる。マーヤは後ずさりをする。
「ん〜?どうした?何故逃げてる?」
清掃員は更に笑みで顔を歪める。
マーヤの顔は恐怖で引きつり、目には涙が溜まっていた。
「いいねぇ。いいねぇ。その顔いいよ!すぐにグチャグチャにしてやるよ!」
清掃員はそう叫びながら走り出し、ブラシを振り上げた。
(おにぃ!助けて!)
キーン!と金属音が響く。
マーヤは護身用に持ち歩いていた包丁で、清掃員のブラシを防いだ。
「・・・ほぅ。やるじぇねぇか。」
ただの食堂店員だと思っていた黒髪の娘に、まさか攻撃を防がれるとは思わなかった。
清掃員は間合いをとり、再度ブラシ構える。
その時、清掃員の腕から血が噴出す。
「なっ!?攻撃は受けてないはずなのに!?」
しかも、傷口から体力が吸われている感覚がする。
マーヤが構えている包丁が白く光る。
ただの包丁ではない。妖刀、霊刀の一種か。
清掃員はブラシを強く握り再度、黒髪の娘に襲い掛かる。
ブラシによる連打!連打!連打!
しかし、全て包丁によって防がれる。
これは、娘の力じゃない。包丁自身が意志を持って護っているんだ。
埒があかない。清掃員は再び間合いをあける。
それと同時に、攻撃した回数の箇所だけ腕が斬れて血が噴出す。
「これは・・・不味いな・・・。」
清掃員は額に冷や汗をかいていた。
「そ、そこまでよ!」
ダザと包丁を握り締めて怯えているマーヤが対峙している時、たどたどしい少女の声が響いた。
声のした方をダザとマーヤが見ると、屋根の上に不思議な格好を少女が立っていた。
「とりゃああ!」
少女は屋根の上からダザに向かって飛び蹴りをする。
ダザは咄嗟に身をかわす。少女はダザの方を向き、指を指す。
「あ、あなたが黒髪殺人の犯人ね!わ、私の目は全ての悪を通さない!」
やはり、言い方がたどたどしい。誰かに言わされているかのようだ。
そうして、よく分からないポーズを決めて
「せ、聖なる正義の戦士、ホーリーバイオレット?華麗に参上!」
と名乗り上げた。
「な、なんだテメェは!変な格好しやがって!」
「へ、変って言うな!黒髪連続殺人犯め、私が退治してやるんだから!」
そう言うと、バイオレットは腕を前に構え、戦闘態勢をとる。
「チッ、邪魔するなら黒髪じゃなくても容赦しねぇーぞ?」
ダザはブラシを振りかぶり、バイオレットに向かって殴りかかる。
バイオレットはダザのブラシを素手でパシッと受け止め、カウンターでダザの腹に鉄拳を殴り込む。
ダザは後ろに吹き飛ぶ。
「くっ、オレの攻撃を受け止めるとは、タダの服じゃなさそうだな。」
「伊達や酔狂でこんな格好してるわけじゃないよ!」
「そうかよ。ならばこれでどうだ。」
ダザはブラシと義足を使った連続攻撃を行う。
バイオレットはなんとか防御をしていくが、徐々に間に合わなくなってくる。
「うっ、・・・っと!くっ!あ、きゃあああ!」
最後にはダザの義足蹴りが命中し吹き飛ばされる。
バイオレットは飛ばされた衝撃で目を回してしまう。
「ふぅ・・・。手こずらさせやがって。」
ダザは止めを刺そうと近づく。
と、その時、ダザとバイオレットの戦いを呆然と見ていただけのマーヤが
バイオレットを護ろうと立ちふさがる。
恐怖でガタガタ震えているが、持っている包丁は相変わらず怪しく光っている。
(おにぃ・・・私に勇気を・・・!)
マーヤはダザを睨みつける。包丁の光は強さを増し、ダザの傷口から再び体力が吸う。
遠くから、大勢が移動する足音が聞こえだす。
騒ぎが大きくなりすぎて公騎士団が出動したようだ。
「っち、公騎士団か。めんどくせぇなぁ・・・。」
ダザは、後ろに飛びマーヤと間合いを取ると
「次は殺すからな。後ろの女にも伝えとけ!」
そう捨て台詞を言って去っていった。
「・・・う?公騎士団?やばい!?」
バイオレットが目を覚ます。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。逆に助けられましたね・・・。じゃ、じゃあ、わたし急ぐので!」
そういう言うとバイオレットも走って去っていった。
一人残されたマーヤは、包丁を見つめていた。
(ありがとう、おにぃ・・・)
ひひひ、もう終わりか。少し暴れすぎたかな?
しかし、楽しい二度目の人生を満喫することが出来たぜ。
黒髪を再び大勢殺した。全然足りねぇが殺せた。
あぁ、全然足りねぇよ。まだまだ多くの黒髪が残ってる。
全員殺したかったなぁ。
戦いの高揚感を得ることが出来た。
生前の時代では味わえなかった感覚だ。
凄く面白かった。まだまだ戦いたかった。本当は全然物足りない。
マックオート、結局殺せなかったな。
女を護ってかっこつけやがって。殺してやりたかった。
リューシャ、凍った心を怒りや憎しみでドロドロに溶かしてやりかった。
いい表情見せてくれたんだろうなぁ。殺してやりたかった。
黒髪の店員や、変な格好した女も、再び戦って殺してやりたかった。
オレを切り落としやがったクソガキどもも、殺してやりたかった。
けど、オレの時間はここまでのようだな。
ヘレンにまた近づけた。
いや・・・、最後にはヘレンに会えた気がした。
あの白髪から金髪に変わった女からヘレンを感じることができた。
裏切り者のヘリオットと違い、白色から金色へ。
それは奇跡にも見えた。ヘレンの再誕に見えた。
憧れのヘレン。
アンタの素晴らしさを伝えるため今までやってきた。
アンタに近づくために今までやってきた。
アンタに会いたかった。
アンタと戦いたかった。
アンタを殺したかった。
アンタに殺されたかった。
ひひひひ。でも、オレの悪意はまだ終わらねぇよ?
悪意の種は既に蒔かれた。発芽はもうすぐだ。
あとは任せたぜ、先生!ひひひひひ!
「うっ・・・ゲホゲホッ!」
俺は咳き込む。咳と一緒に血が出てくる。
「大丈夫かい?」
先生が心配する。
「ああ、精霊と精神を無理矢理結合させたから拒絶反応出てるんだろう。
あんまり永くは持たねぇかもな。オレもこの体も、コイツの魂も。」
「そうか、それは残念だ。僕の研究不足だな。すまない。」
先生が申し訳なさそうに言う。
「いいってことよ。それより計画の方はどうだい?」
「順調だ。君の精霊反応のうち、感情部分を取り出し、他の精霊に転写している。
これを粉末状した物を街中にばら撒き、人々に口径吸収させる。
精神の乗っ取りまでは出来ないが、感情を誘発させる程度は可能だろう。」
「怒りや憎しみを増幅させ、戦闘本能を呼び起こすと。いいねぇ。皆してヘレンに近づける。」
「現状の情勢なら、暴動が起こるのも時間の問題だろうね。」
「あとは、他に裏で動いている連中に乗れればいいがな。」
「気配的には、ラクリシャ辺りが匂うんだっけ?」
「ああ、あの屋敷から昔嗅いだことがある匂い。懐かしのあの方の匂いがした。
誰かまでは分からないが、突き止めてお会いしたいものだ。」
「まぁ、なにはともあれ、計画の実行は近いね。」
「そうだな。仮にオレがやられても、後は任せたぜ?先生?」
二人の男が愉快そうに笑う。
*
俺の記憶。俺ではない誰かの記憶。
止めなければ。止めなければ、更に被害が増える。
だが、護るべきリリオットの住人を殺し
一緒に戦った仲間を襲い、傷つけた。
義足を失い、戦う力を失った俺に何が出来る?
(それでも、この街を護りたいのだろう?)
聞き覚えのない声が聞こえる。
護りたい。俺が生まれ育ったこの街を護りたい。
しかし、俺には・・・。
(お前にはまだ右脚がある。両腕がある。考える頭があり、街を護りたい熱い魂がある。)
俺には、まだ出来ることがあるのか?
誰かのために戦い、誰かを救い、誰かを護ることが出来るのか?
(それはお前の"覚悟"次第だ。お前には街を護るための"覚悟"が足りていない。)
覚悟・・・?
(精霊と魂が導くまま進むがいい。)
あんたは一体・・・?
辺りが光に包まれる。
*
ダザは見知らぬ部屋で目を覚ます。
操られていたときの記憶を思い出し、目から一筋の涙が流れるが、ダザはそれを拭う。
悲しんでいる、悔やんでいる場合ではない。
俺にはやらなければならないことがある!
ダザは立ち上がろうとした。
しかし、義足がないことに気がついた。
ダザは、義足がない足で立とうとし転びそうになる。
そうか、精霊と俺を切り離すために義足を斬ったのか。危ない危ない。
と、誰かの視線に気づく。リューシャが冷たい目でジッと見ていた。
「い、いたのか…」
「ええ、ずっと。ようやく目が覚めたようね。」
ずっと。つまり、涙を流したことや、それを拭ったこと、それに義足が無くて転びそうになったことも、全部見られていたということか。
それは…、なんか恥ずかしい。
「…なんで、リューシャが?ここは何処だ?」
確か、記憶の最後の戦いではリューシャはいなかったはず。
「えぬえむに頼まれてね。ここは宿の私の部屋よ。」
「そうか、えぬえむが・・・。えぬえむや、マックオート達は今?」
「えぬえむは、どこかへ行ったソフィアを追ってるわ。
マックオートは、ソラって子の看病をしてる。」
ソフィア、ソラ、どちらも聞いたことがある名前だ。
ソフィアは古い塔に住んで雑貨屋か何かやっている。
ソラは街灯掃除などをやってる女の子だっけ。
どちらも直接面識はないが、話に聞いたり、見かけたことがある街の住人達だ。
義足を斬られたときの戦いに、ソラらしき少女がいたのは覚えてる。
では、最初に現れ、白髪から金髪に変わった女性がソフィアなのだろうか。
何故だか分からないが、義足の精霊に乗っ取られていることを看破し、俺を救ってくれた。
礼と謝罪を伝えなければならならい。えぬえむにも、マックにも、ソラにも、そのソフィアって人にも。
そして・・・。
「…すまなかった。急に襲ったりして。」
「あら、あの時の記憶があるのね?まぁ、私達を襲ったことなら気にしなくていいわ。
大して損害もなかったことだし。」
「…すまない。」
ダザは再度謝る。リューシャは軽くため息を吐く。
「えぬえむからも詳しく聞いてないのだけど、もし良かったら何があったか教えてもらえるかしら?
一緒にいたカラスと言う白い髪の子が言うには、貴方は呪われていたみたいだけど?」
ダザは少し迷ったが、迷惑をかけたてしまった謝罪の意も込めて全てを話した。
義足のこと、先生のこと、黒髪殺しのこと、えぬえむ達に助けられたことを。
逆に、リューシャはオシロのことを教えてくれた。
「…そう、それで義足が斬られているのね。」
リューシャはダザの話を聞いて、少し考え込む。
義足、それがないと歩くことも満足に出来ない。オシロの安否も気になると言うのに、早急になんとかしなければ・・・。
しかし、誰に頼む?先生は無理だし、施療院の他の人間も信頼できるか分からない。
残るは義肢会ぐらいしかないのか・・・?
ふと、リューシャが読んでいた紙の横に置いてあったチラシが目に入る。
「…精霊ギ肢装具士、リオネ?」
朝、目を覚ましたダザは早速、精霊ギ肢装具士を訪ねることにした。
「肩、貸してあげましょうか?」
「い、いらん!」
デッキブラシを杖代わりに歩くダザを心配してか、リューシャが声をかける。
ダザの反応が予想通りだったのか、クスリと笑う。
からかわれているのか?
「…なんで、付いてくるんだ?」
「別に、精霊義肢っていうのに興味があるだけよ。」
装具士への依頼に付いてくる理由を問うと、リューシャは素っ気無く答える。
そういえば、精霊技術に興味があるんだっけな。
「マックたちは起きてるかな?」
「まだ寝てるかも知れないし、ほっときましょう。」
装具士を訪ねる途中、マックとソラの様子を見に行こうとすると、リューシャに止められる。
まだ礼と謝罪を言えてないが、確かに起こしてしまったら悪いか。
仕方なく、ダザは先に精霊ギ肢装具士の部屋を訪ねることにした。
装具士の部屋の扉を叩くと、中から金髪で黒のウィッグをつけた少女が出てきた。
少女はダザの足を見ると
「ええと、ギ肢製作の依頼、でよろしいでしょうか?」
と聞いてきた。恐らく精霊ギ肢装具士の子供か弟子なんだろう。
「ああ、早朝から申し訳ない。精霊ギ肢装具士のリオネって方はいますかね?」
「私が精霊ギ肢装具士のリオネよ。」
ダザは予想以上に若い精霊ギ肢装具士に驚いたが、きっとウォレスのような不老不死か
または、えぬえむのように変な師匠に鍛えられたんだろうと勝手に納得した。
「失礼。使用していた義足が壊れてしまって、新しい義足が欲しいんだけど、
成るべく安くて早く装着出来る義足ってあります?」
「安くて早く装着できるギ足ね。分かったわ。とりあえず上がってもらえるかしら?えーと、あなたは?」
リオネはリューシャの方を見て聞いてきた。
「ただの付き添いよ。見学は可能かしら?」
リオネは少し胡散臭いような目でリューシャを見たが、とりあえず見学を許可した。
ダザはリオネにギ足を装着してもらった。
動いてみると、前の義足より軽くて動きやすい。
精霊駆動型とは異なり、精霊繊維を使ったギ肢のためらしい。
残念ながら、耐久性は下がり、加速機能等はなくなったが、全然問題ない。
今は、すぐに動けるほうが重要だ。
「ありがとうございます。リオネ先生。」
「いいえ、私も面白いものが手に入ってよかったわ。」
リオネはダザの義足を指でクルクル回しながら答える。
そのとき、下の階からガラスの割れる音が聞こえた。
同時に誰かの叫び声や、怒号が聞こえる。
「!?な、なんなの?」
リオネが驚く。
「・・・動きだしたか。」
ダザはブラシを持つと、リオネの方を向き
「リオネ先生、今この街は非常に危険です。
このままお隠れになるか、街から逃げて下さい。
俺はこの騒ぎをなんとか治めてきます。
またお会いできたら改めて御礼をさせて頂きます。
では、失礼します。」
と、口早に伝え、一礼してから部屋を出て行った。
「え、ちょ、ちょっと!」
*
ダザはマックとソラの部屋を訪れたが、部屋には誰もいなかった。
街に出たのか。お礼も謝罪も言えてないが仕方がない。
再び会えることを祈ろう。
「う、ガハ、ゴホゴホ!」
ダザは急に咳き込む。口から血を吐き出す。
記憶の中で先生と話していた言葉を思い出す。
精神と精霊の無理矢理な結合による拒絶反応。もう永くないかもしれない。
はっ!ならば悔いのないように生きるだけだ。
命を掛ける事が覚悟って言うなら、いくらでも掛けてやるよ。
フロントに降りると、そこは酷い、惨状になっていた。
割れた窓に、壊れた扉、倒れる男にそれを蹴りつづける男。
フロントの女性を殴っている男が
「リソースガードに部屋を貸す裏切り者が!死ね!死ね!」
と叫んでいる。目は空ろで正常な状態ではないのが分かる。
ダザは走り出し、男たちをブラシで殴りつけ気絶させる。
蹴られていた男は意識が無いがまだ生きている。
フロントの女性は、まだ意識があった。
「大丈夫ですか?」
「うう、ありがとう、助かったよ。急に窓とガラスを壊して男たちが・・・。」
宿の外から、物が壊れる音や、人々の叫び声が聞こえる
他にも暴動がおこっているらしい。
「じっとして隠れてて下さい。すぐ助けを呼びますから。」
助けとは言ったものの、一体誰を呼べば・・・。
この現状だって俺一人ではどうしようもない。
一人でも助けるため、守るためにはどうする。
頼れる、信頼出来る人は誰だ。
「・・・あの人しかいないか。」
ダザは店を飛び出し走り出した。
宿の外に出て、一番初めに目に入ったのは北に広がる闇だ。
街で叫ぶ声によると、エフェクティヴが蜂起したらしい。
そして、チリチリ痛むこの空気。よく見ると、薄く霧が出てる。
ダザの魂は、本来張ってある魂を護るための膜が、精霊との無理やりな結合により破かれていた。
それ故に、精霊や精神攻撃に対して敏感になっている。
ダザは自身の魂を燃やし攻撃を防いでいるが、それは確実にダザの寿命を縮めていた。
この霧の正体は、例の戦闘衝動を引き起こす精霊を溶かしたものだろう。
吸い続けることにより、徐々に精神が蝕まれ正気を失っていく。
ダザは咄嗟に布で口を覆った。
謎の闇にしろ、エフェクティブにしろ、この霧にしろ、自分だけでは無理だ。
現状、最も信頼でき最も影響力があり自分との接点がある人間。
あの人の元へ。
ダザは闇が広がる北ではなく、南へ走った。
*
途中、霧が濃くなっている場所を見つける。不審に思ったダザはその霧が濃い方へ移動してみる。
人目に付かない倉庫の裏側に、奇妙な機械が置いてある。その機械から霧が発生してるようだ。
機械に近づこうとしたとき、倉庫の影からフードを被った少年が出来た。
右手首に装着した義手で襲い襲い掛かってくる。
ダザは咄嗟に避け、ブラシで殴りつける。
「ぐっ、ヘレン様・・・。」
少年はそう呟くと倒れ込み気を失った。
ヘレン教、先生の弟子の一人か。
ダザは気がついたときに暴れないように少年をロープで縛る。
そうして、霧を発生させている機会をブラシで叩き壊した。
恐らく、これ一台ってわけじゃないだろう。
他にも探したいが人手が足りない。やはり、先を急ごう。
ダザは再び南に向かって走り出した。
・
・
・
ダザは清掃美化機構の課長の前に来ていた。
「無断欠勤をしておいて、よく来れたものだな。」
課長はダザを睨みつけて言い放つ。
「一応、ケジメを付けておこうと思いまして。」
ダザは課長に紙を叩きつけた。
「・・・なんのマネだ?」
「退職届です。あ、退職金は義足代に回しといってください。」
「・・・ほぅ。」
ダザの挑発的な態度に課長は少し顔が引きつった。
「ということで、一般市民からの要望を伝えとくぜ?
現状、北に広がる謎の闇に加え、精神汚染の疑いある霧が発生。
エフェクティブの蜂起に会わせ住民達による暴動も起きてる。
至急、霧の発生を食い止め、エフェクティブの沈静化と共に住民の安全確保を行って頂きたい。」
「・・・ふん、ワシの一存では決めれんな。」
「一存?それはどうかな?」
「一存じゃない、だよー!」
課長室の扉を勢い良く開けて、アスカとグラタンが、長い銀髪の女性を連れて入ってきた。
「ク、クローシャ卿!?」
課長は立ち上がって頭を深々と下げた。
ダザが頼ったのはリリオットの守護神、マカロニ・グラタンであった。
性格は良くないが、他家の暗躍を疑い、リリオットの平和を護る男。
他のセブンハウスの連中よりかは幾段に信頼でき、また、影響力もある。
公騎士団本部に行くと、中は慌ただしかった。
「グラタン様は何処へ行かれたんだ!」
「し、知るか!とにかく、落ち着いて行動しろ!!」
どうやらグラタンは不在らしい。困った。
その時、一台の馬車が荒々しく走ってきて、本部の前で止まった。
中からグラタンが出てきた。
「グ、グラタンのおっさん!」
「うん?おお、ダザ君か。なにやら街が騒がしいみたいだね。ちょっと待っといてくれ。」
グラタンはそう言うと本部へ足早に入っていった。
「ダザさん?だよー?」
馬車の中から聞き覚えのある口調の声が聞こえる。アスカだ。
「アスカ!なんでお前が?」
馬車のほうに駆け寄ると、異様な格好をしたアスカに、他に数人乗っているのがわかった。
ただでさえ、アスカの格好に驚いたが、それ以上に乗っている顔ぶれに驚く。
セブンハウスのトップ、モールシャとクラリシャの当主だ。二人は大分疲れた様子だ。
そして、もう一人。
「あら、あなたはうちの清掃員ね?」
長い銀髪の女性がダザに声をかける。
ダザが所属する機構や病院を統括するクローシャの現当主だ。
ダザは咄嗟に片膝をついて頭を下げた。
「ク、クローシャ卿!何故こちらに!?」
「うふふ、このアスカって子にね。リリオットへの忠誠を聞かれちゃったのよ。
私ったら、今まで、忠誠とか考えてなかったけど、グラタンやアスカの話を聞いて目が覚めたわ。
それにね…、あんな熱い抱擁をされちゃったしね。」
クローシャ卿はアスカの方を見て顔を赤らめる。抱擁?なんのことだ?
「ダザさん、体の方は大丈夫?だよー?」
「アスカ、こりゃ一体どうなってんだ?」
ダザはアスカから事態のあらましを聞いた。
「そうか、アスカが宿まで運んでくれたのか。助かったよ。ありがとうな。」
「ううん。無事でよかった、だよー!」
あまり理解できなかったが、エルフからの契約でセブンハウス面々のリリオットへの忠誠を確認しているらしい。
「…アスカ、聞いてくれ。今、街では住民の暴動やエフェクティブの蜂起が起きている。
これを抑えるにはセブンハウス全体の協力が必要だ。
俺が所属している清掃美化機構にも動いてもらいたいんだが、グラタンのおっさんが帰ってきたら、クローシャ卿を連れてきて欲しい。
お願いできるか?」
「う、うん。わかった、だよー!」
「助かる。俺は先に行ってケジメをつけてくるよ。」
そういうと、ダザは課長の元へ向かったのであった。
クローシャ卿は課長に暴動の対応と住民保護を指示した。
同様にクローシャ騎士団、公騎士団病院にも動くように伝える
「癒しと秩序をこの街に!これが我々の本来の使命です!一人でも多くの者を救いなさい!」
クローシャ卿は凛々しく叫ぶ。チラッとアスカの方を見て顔を赤らめる。
「ダザ君。話は聞いたよ。公騎士団総出で事態に沈静化を図ろう。暴動の原因となっている霧の発生機も直ぐに探させよう。」
「ありがとうよ、グラタンのおっさん。なるべく犠牲者が出ないよう頼む。俺も一人でも救えるよう動くよ。」
「しかし、何故わざわざ機構を辞めたんだね?」
「命令されて人を殺すのは懲り懲りなのでね。これからは、自分の意志で動きます。」
「なるほどな。自身の意志で動く者の方が強いというものだ。しっかり頑張りたまえ。」
そういうと、グラタンは凄い勢いでダザの背中を叩き付ける。
アスカにも礼を言う。アスカはまだしなければいけないらしい。
ある懸念を持っているアスカに"言葉"を伝える。
*
再び街に繰り出す。公騎士団が隊列を組んで進んでいく。
清掃員達は走り回り、癒師達は怪我人の治療し、運んでいく。
ダザは霧の発生源を探す。そこに先生がいるかもしれない。
商店街と職人街の境目ぐらいの場所に数人の人だかりがある。
ヘレン教のインカネーションと黒髪を含む商店街や職人街の住人が対峙していた。
住民側の先頭に、マーヤが混ざり包丁を構えて住民を護っていた。
しかし、インカネーションはプロの戦闘集団だ。住民側に怪我人が出ている。
「あの包丁は危険だ!精霊駆動体を使え!」
インカネーションは呪文を唱えだす。危ない!
ダザは走り出し、リンカネーションと住民の間に割り込む。
そして、術者から発射された精霊駆動体をブラシで弾き飛ばす。
「なんだてめぇは!庇うっていうなら容赦しねぇぞ!」
インカネーションの一人が吼える。目が正気ではない。
ダザはブラシをもってインカネーションの集団に突っ込む。
相手の攻撃を避け防ぎ、隙をついて相手を沈めていく。
魂を開放されているダザは、その寿命を引き換えに高い戦闘能力を発揮できた。
インカネーションは数十秒で全員地に臥せた。
住民側から歓声があがる。同時に
「ヘレン教め!殺してやる!!」
と怒号もあがった。住人側も殺気づいている。
「やめろ!!」
ダザも叫ぶ。
「これ以上、恨みや憎しみを増やしてどうする気だ!それを子供達に背負わせるつもりか!」
「し、しかし、こいつ等は黒髪殺しを・・・。」
「・・・黒髪殺しは死んだよ。ただの戦闘狂の男だった。」
どよめきが聞こえる。迷いが感じられる。
簡単にヘレン教と黒髪の溝が埋まるはずがないのだ。
その時、マーヤが一人前に出てきた。そして、包丁をかざすとインカネーションを回復させる。
「な、なんのマネだ・・・。」
目を覚ました男が問いかける。
「・・・私も恨みの連鎖を断ち切りたいです。今度、私のお店に食べに来てください。」
簡単に溝は埋まらない。しかし、絶対埋まらないわけではない。
ダザは精神汚染の恐れがある霧の情報を伝え、近づかないように住民達に注意した。
幸い、顔見知りも多かったため、住民たちは納得してくれた。
「わかったよ、ダザ。アンタが言うなら信じよう。一応、安全のためにこいつ等は縛っておくからな。」
そう言うと、住民たちはインカネーションを縛り始めた。
「しかし、この空の暗さはなんなんだ?もう昼が近いというのに。」
それはダザにも分からない。何が起きているんだろうか・・・。
インカネーションや住民を回復させたマーヤが、ダザの顔をじっと見る。
「やっぱり、あの時はいつもの貴方じゃなかったんですね。安心しました。
またご飯食べに来てくださいね!」
「あ、あぁ。」
ダザが頷くとマーヤは笑顔を見せて去っていった。
俺ではないが、俺がやったことには変わりない…がな。
*
ダザは誰かに導かれるように再び走る。
急げ、時間がない、間に合わなくなる。誰かがそう言ってる気がする。
ダザは特殊施療院の近くまで来ると、大教会が濃い霧で囲まれていることが分かった。あそこか!
ダザは教会に急ぐ。
*
教会の中に入ると、中は異様な光景が広がっていた。
暗い教会内は蝋燭の炎によって照らされている。
椅子に座らせられた子供とシスター達。いつか見た、子供と白髪のシスターもいた。みんな寄り添い、怯え、泣いている。
それを見張るフードの男が2人が武器を構えている。
そして、ヘレン像の前にある祭壇の上に座っている、両腕両脚が義足の男。
男の義肢は赤く血に染まっていた。
祭壇の下には霧を発生させる機械が置いてあり、教会は濃い霧で充満していた。
「やぁ、遅かったね。」
「俺を呼んでいたのはアンタか。」
「そうだよ。この霧を使った精神感応網だ。これで何人か釣って遊んでたんだ。」
周りを見ると、公騎士やエフェクティブなどの死体が転がっていた。
「で、なんだよ。この子供達は?」
「ん?あぁ、将来有望なヘレン教の子供達にね、戦闘の楽しさを知ってもらおうかと思ってね。」
「はっ!よく言うぜ。単なる人質だろうが。」
「ククク、酷いなぁ。本心から言ってるのに。まぁ、いいや。・・・戦うんだろ?」
男は祭壇から飛び降りる。
「あぁ、人の精神弄んで、街を混乱させて、さらには子供を人質にし、自分の価値観を押してけるクソ野郎は」
ダザはブラシを構える。
「その根性、叩きなおしてやるよ!」
「ククク、見たところ新しい義足は軽量の精霊繊維型みたいだね。そんな貧相なもので勝てると思ってんのかな?」
「アンタの義足よりかは使いやすいぜ?」
「面白い。じゃあ、その性能見させてもらうかな?」
男は義肢を過剰駆動させる。回転音が教会に鳴り響く。
ダザの前の義足と同じような瞬速移動による攻撃。右義手で振りかぶり殴り込む。
が、殴る前にダザの蹴りが顔面に当たる。ひるんだ隙に蹴りの連撃。腹への渾身の一撃で男は後ろへ吹き飛ぶ。
「おせぇ。全然遅いぜ先生?」
男は、口から血を流しながらニヤリと笑う。
「随分と余裕そうじゃねぇか。」
笑った先生にダザは言い放つ。
「余裕?そんなモノはないよ。もう手遅れだ!
劇は既に終わり、パレードが始まっている!終焉の始まりだ!」
劇?確かに今日劇をやるとかは聞いたが、それは夕方だ。
今はまだ昼のはず・・・。
「なっ!?」
窓の外を見たダザは驚愕する。
外は相変わらず暗い、しかし、それは闇のせいではない。
月が昇り星が見える。つまり、今は夜!?
「どういうことだ!なんで時間が!?」
「これが時間伯爵の力だ。覚えがないかい?集中したときに時間が長く感じたり、短く感じたりすることを。
今日が何日か分からなくなったことは?似たような出来事に会った事は?
時間伯爵はそういう時間の流れを操ることが出来る。」
「何だその時間伯爵っていうのは?」
「時計館の主であり、最悪の魔術師だよ。詳しくは知らないけどね!
あそこにある中身が見えない砂時計だけが真実の時間を示してるらしい。胡散臭い話だ。
だが、実際にこうやって時間が変動した。ペルシャの婆さんが言ってた通りだよ!」
先生は嘆くように叫ぶ。
「つまりは、全てはアイツの掌の上ってわけだ。そして、今度は核融合炉で全てを終わらせるつもりだ。
だからこそ、最後に自分の望みどおり戦いたかった!だから、君を急がせた!
しかし、全部無駄だ!時間はもう残されていない!
僕では物語の最後にふさわしくないらしい。」
そういうと、先生は座り込む。
「ということで、僕は足掻くのを辞めるよ。・・・けど?君は足掻くんだよね?」
当然だ!そう言おうとしたとき、口から血があふれ出す。限界が近い。
しかし、ダザは先生を睨む。諦めないことを意思表示する。
「なるほどね。意志は硬く、願いは重いようだ。ならば、君にこれをあげよう。」
先生がヘレン像に手を伸ばし、なにやら操作をする。
すると、礼拝堂の床が開き、下から棺が現れた。
棺は上昇を終えると、自動的に蓋を開けた。中には長い青い髪の少女が眠っていた。
「ヘレン教会が最もヘレンに近づいたと崇める少女、ヘルミオネと呼ばれるものだ。
しかし、実際はレディオコーストから掘り出された核融合炉と同じ過去の遺物。機械人形さ。
こいつは使用者の魂を吸い、使用者の願いを叶えるために動く。
意志が硬く、願いが重く程こいつは強くなる。」
先生はダザの目を見て囁く。
「残り少ない命。コイツに捧げてみないか?リリオットを救うにはこれしかないぞ?」
悪魔の囁き。リリオットを救うには・・・。
「使用方法は簡単だ。コイツに口付けをすればいい。さぁ、時間伯爵の手先がやってくるぞ?覚悟を決めるんだ。」
『覚悟』。俺に足りないもの・・・。これでリリオットを救えるのなら・・・。
ダザは吸い込まれるように少女に近づく。そして
(みんな、すまない。先に逝くよ。)
ダザは少女に口付ける。
*
こうして、リリオットに生まれ、育ち、そしてリリオットを愛し護ろうとした一人の男の物語は終わりました。
しかし
眠っていた少女が目覚める。そして、ステンドグラスを割って入った来訪者に言いました。
「私はヘルミオネ。願いは『リリオットを護る』ことです。」
しかし、彼の魂はこの世にまだ残っていました。
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ヘルミオネ・ダザ
HP64/知6/技5
スキル
・ヘルミオネの大剣/20/45/10 (義足蹴り 名称変更 微調整)
・炎熱の大剣/10/45/11 炎熱 (熱暴走義足 名称変更 微調整)
・ヘレンの加護/30/0/7 回復 (義足自動回復 名称変更)
・雷撃/20/0/7 防御無視 (仕込み錐 名称変更)
・光珠/5/0/1 (蹴り 名称変更)
・鋼鉄ブラシ/15/15/5 (変更なし)
プランはオーバライド・ダザのプランでスキルの名称変更したもの。
ただし、3つ封印により敗北はしません。
ダザの魂を吸い、ダザの願いを叶える為に戦います。
体も人格も異なりますが、ダザの記憶を持ち、そして魂を持っています。
さぁさぁ、戦いましょう。そして護りましょう。
教会の巨大な氷解の中で魂まで凍らされたヘルミオネは再び眠りに付いた。
ヘリオットを護るのではなかったのか。約束が違うではないか。
消え行く意識の中でダザは思った。
・・・誰かの声が聞こえる。
(どうした?オマエの怒りはそんなものか?もっと怒れよ、オレが手伝ってやるからよ!)
氷解の元になっている水は、教会に充満していた霧、怒りや憎しみを誘発する精霊水であった。
氷の中の精霊がダザの魂を揺さぶる。怒れ、怒りは炎、怒りはエネルギーだ。
魂が熱い。燃えるようだ。
ダザは魂で叫ぶ。
『ヘリオットを護れ!大切な人達を護れ!そして・・・』
『『戦え!ヘルミオネ!!』』
氷解にヒビが入る。中のヘルミオネが動き出す。
破壊音と共に、ヘルミオネが飛び出す。
「了解です。マスター。」
誰もいない教会でヘルミオネは呟く。
ヘルミオネは教会の天井を見上げると、足をキリキリと曲げ、跳んだ。
天井を突き破って屋根に出る。
情報集積開始。
精神感応網アクセス。関係者の現在位置把握。
続けて、システムジーニアスのデータベースにハッキング。暗号を復号展開。必要情報取得。
ヘルミオネは事態を把握する。
現在、最も危険な人物は先ほどの少年。少年を止めなければ街は護れない。
ヘルミオネは胸に手を当てる。
胸が熱い。こんな感覚初めてだ。
マスターの魂はここにあります。
マスターの魂が有る限り、貴方の物語は終わりません。
マスターの魂が有る限り、貴方の物語を紡いで魅せます。
ヘルミオネは屋根から飛び降りて走り出す。
*
ヘルミオネは劇があった舞台にやってきた。
ヴィジャとカガリヤ、そして鉄の竜がいた。
「また貴女ですか。よくあの氷解から出て来れましたね。魂まで凍らせたというのに。」
「マスターの熱い想い、熱い魂にはあのような凍結は無駄です。」
「熱い想い…、ですか。」
ヴィジャはつまらなさそうに呟く。
「人形かと思いましたが、想いや気持ちが分かるんですか?」
「確かに私は人形です。しかし、マスターの魂を引き継いでいます。
魂があるなら、思いや気持ちだって分かり得ます。」
「…それで、また一人で来たのですか?同じように竜に凍らされるのがオチなのでは?」
「今度は一人ではありません。」
そう言うと、ヘルミオネは左手を上に掲げ呪文を唱える。
「集え!我がマスター『ダザ・クーリクス』の魂の元へ!
戦う意思がある者よ!魂の繋がり、共感に応え給え!
我らの世界を護るため、大事な人を護るため!戦え!
『英雄召喚』!!」
ヘルミオネの後ろに何柱かの火柱があがる。そして、中から人影が現れた。
「魂の訴えに応えていただき有難うございます。」
ヘルミオネは召喚した人々に礼を言う。
「私はヘルミオネ!我がマスター、『ダザ・クーリクス』の魂と意思を引き継ぐ者!
街を、世界を、大切な人を護るため、一緒に戦ってください!」
ヘルミオネはダザの形見である鋼鉄ブラシを構え叫んだ。
今、最後の戦いが始まる。
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(補足情報)
『英雄召喚』は生前貴方と縁があった人たちを呼び出す魔法です。
自分一人の物語では誰も呼び出せない魔法です。
誰も呼び出せなかった場合は、もっと人と関わっとけば良かったと後悔してください。
さて、貴方の物語はどうだったでしょうか?
人生は選択の連続であり、その結果でもある。
自分の選択、他人の選択、それぞれが今の世界を形成する。
自分の選択が違えば、また別の人生、別の世界があったのかもしれない。
それは、路地裏でひっそり死ぬ人生。
それは、誰かを庇って死ぬ人生。
それは、怒りと憎しみで暴れ、英雄に殺される人生。
それは、街を捨てて旅に出る人生。
全ては可能性である。
そして、今の世界はその無限の可能性のうちの一つ。
だけど、それは奇跡にも近いものなのかもしれない。
*
呼び出しに応えてくれた英雄達は想像以上に強かった。
封印宮の少年のヴィジャとえぬえむさん
鉄の竜とソフィアさん
残った観測者は、自然に自分の相手かと思いましたが
空から降りてきたリオネさんと対峙しています。
さぁ戦いなさい英雄達よ。街を世界を、自分の大切なものを護るため。
「パパ、凄いね!物語の中みたい!」
背中に背負ったサラが無邪気にはしゃぐ。
「そうだね。物語の中みたいだね。」
私は優しく答える。
「ねぇ、パパは戦わないの?」
「・・・戦っていますよ。今も昔も、そしてこれからも。君たちの未来を護るため。」
「ふーん?」
舞台の裏から銅の虎が現れ、ヘルミオネに襲い掛かってくる。
ヘルミオネは鋼鉄ブラシで殴りつけ、吹き飛ばす。
夢路に縛られた赤い糸を解く。相変わらず縛るのが下手だ。
「サラ、あそこにいる夢路のおばちゃんのところに行ってなさい。」
サラは頷いて、夢路の所へ行く。
夢路は不満そうな顔をする。
「ウロさん、折角来たのです。最後ぐらい一緒に戦いましょう。」
「戦闘は専門じゃない。」
「ほらほら、そんなこと言わないで。マスターが貸した50ゼヌとその利子分働いてください。」
「割に合わない仕事だな。」
ウロは仕方なしにスコップを構える。
ブラシを構える少女とスコップを構える男
その様子が面白いのか、夢路はケラケラ笑う。サラも一緒に笑ってる。
銅の虎は火を吐く。炎熱の大剣はその炎を吸い、熱を増す。
ウロのスコップがドリルとなり、虎の体を削る。
「かなり硬いぞ?本当に銅で出来てるのか?」
「魔力で硬化されています。炎熱で溶かしますのでその隙を!」
ヘルミオネは熱が溜まった炎熱の大剣を銅の虎を斬りつける。
剣で斬られた所が溶ける。ウロはその溶けた場所を目掛けて、ツルハシで叩きつける。
銅の虎は、ツルハシが食い込んだ場所からバラバラに崩れる。
鐘の音、降り出す雨が戦いの終わりを告げた。
マルグレーテによる役者達の想いは私たちにも流れてきます。
えぬえむさんは泣いています。
ソフィアさんは慰めています。
私はどうなのでしょう。
流せる涙も、かける言葉もありません。
ただ、魂だけが震えています。
怒りと憎しみ、そして悲しみに。
『ふざけるな!お前達のせいでどれだけの人間が犠牲になったと思ってるんだ!』
マスターの魂が叫びます。
しかし、許しが欲しいのは、償いをさせて欲しいのはマスターも同じなのです。
黒髪殺しの大罪、救えなかった命。
護り戦うことで、許されると償えると思っていました。
しかし、それは間違っていたのでしょうか。
なにが正しかったのか、もはや解りません。
マスターの魂もまた泣いています。
『…すまなかった。君達を救えずに。』
全てを救うことなんか、傲慢にしか過ぎません。マスターも解っています。
しかし、謝らずにはいられなかったのです。
私達は彼女達を許しました。それが正しいと信じて。
*
*
*
「わははは!わしは大まおう、ウォレスだぞー!」
「ひーろーそーどをくらえー!」
「ぐわあああ!」
「おれは、やみのせいれい王だぞ!」
「ひかりのけんしがあいてだ!」
「えむえぬもいわるわよ!」
「ヘレンだって!」
子供たちが教会で遊んでいる。
その中には黒髪の子も一緒にいる。
「しゃすたせんせー!」
「…うん?」
シャスタは読んでいた本を置いて、子供を見る。
「みてみて、ちょーかくしんてきなけんができたよ!
やばい!せかいがげきしんする!」
「うん、よく出来てる。」
シャスタは微笑みながら答える。
「シャスタさん!もうダメです!手伝って下さい!。」
ヘルミオネは子供たちに囲まれ、ヘトヘトになってシャスタに助けを求める。
シャスタはクスッと笑う。
「いまいくよ」
*
私は、シャスタさんと一緒に教会で孤児院兼託児所をやっています。
黒髪の子も隔たりなく受け入れています。
教会の上層部の反発は大きく、異端扱いはされていますが
クローシャ卿の支援もあり、なんとかやっていけてます。
造られてからずっと戦いしかしてなかった私には大変なことだらけです。
けど、娘のサラが手伝ってくれたり、夢路が邪魔…ではなく様子を見にきてくれます。
アスカさんやマーヤさんも、マックオートさんも、ソラさんも、ソフィアさんも。
色々な人が手伝ってくれます。
彼らの子供達も一緒に遊びにきてくれてます。
マスターの願い『リリオットを護る』。
つまり、リリオットの未来である子供たちを護ることにしました。
あの事件では、多くの若い命が失われました。
リリオットの闇が生んだ犠牲者達。
再び同じような悲劇が起きないように。
それは、戦うことでしか護ることが出来なかったマスターの意思でもあります。
(けど、こっそりと夜中にすみれさんと一緒に治安維持活動をしたりしてます。)
マスターの魂は炎熱の様に熱くたぎり、尽きるのはまだまだ先になりそうです。
戦いの果てではなく、子供たちが紡ぐ千の物語の果てまで。
私はマスター『ダザ・クーリクス』の魂と共にリリオットを護り続けます。
千夜一夜の果てのヘレン ダザ・クリークス
[託児所の護り人END] GOOD END
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