千夜一夜の果てに ライ

ステッパーズ・ストップ 千夜一夜の果てのヘレン

[0-773]

ライ

性能

HP64/知6/技5

スキル

・「ハエが止まっているようだぜ」/10/0/5 封印
・「あいつが……守ってくれたんだ」/60/0/11 回復
・「バカな……そのボロボロの体のどこにそんな力が」
 「お前には見えねえのかよ……俺を支えている仲間の姿が!」/250/375/103 炎熱
・「今のは攻撃か?そよ風が吹いたのかと思ったぜ」/1/6/1
・「見切った。もうお前は俺には勝てない」/10/0/8 防御無視・封印
・「俺はフェニックス。炎の中から何度でも蘇る」/40/45/20 炎熱・吸収

プラン

■定義
「破壊力」は、そのスキルが回復の場合は0、そうでないならばそのスキルの攻撃力である。
「HP減少率」は、そのキャラクターの( HP初期値 - HP現在値 ) ÷ HP初期値である。

■開始ターン
「今のは攻撃か?そよ風が吹いたのかと思ったぜ」。

■常時
前のターンに相手がウェイト1のスキルを使用し、自分のHP減少率が相手よりも少ない場合、「今のは攻撃か?そよ風が吹いたのかと思ったぜ」。

■2ターン目
相手がスキルを構えていなければ、「見切った。もうお前は俺には勝てない」。

■常時
相手の構えているスキルが以下の条件を満たす場合、「ハエが止まっているようだぜ」。
・防御力が0。
・ウェイトが6以上。

■相手の構えているスキルの破壊力が自分のHP以上かつ防御無視、ないしは自分のHPを45以上上回る破壊力の場合
そのスキルの残ウェイトが
 19以上:「見切った。もうお前は俺には勝てない」
 15以上:「ハエが止まっているようだぜ」
 11以上:「今のは攻撃か?そよ風が吹いたのかと思ったぜ」
 11:  相手の構えているスキルの破壊力が、自分のHPを60以上上回っていなければ
 「あいつが……守ってくれたんだ」
 9以上:「見切った。もうお前は俺には勝てない」
 6以上:「ハエが止まっているようだぜ」
 0以上:「バカな……そのボロボロの体のどこにそんな力が」
 「お前には見えねえのかよ……俺を支えている仲間の姿が!」

■100ターン経過後
自分のHP減少率が相手よりも大きい場合、
「バカな……そのボロボロの体のどこにそんな力が」
「お前には見えねえのかよ……俺を支えている仲間の姿が!」

■300ターン経過後
自分のHPが相手よりも少ない場合、
「バカな……そのボロボロの体のどこにそんな力が」
「お前には見えねえのかよ……俺を支えている仲間の姿が!」

■常時
「俺はフェニックス。炎の中から何度でも蘇る」。

設定

男。
無所属。強いていうならエフェクティヴの会合に2度ほど参加したことはあるが、活動する気はない。

弟へ送る手紙の中では、彼は無敵のヒーローだ。
実際に剣を握ったことは一度もないし、握りたいとも思わない。
想像の中で戦うのは好きで、いろんな戦術を考えている。

オーナー

niv

[100] 2012/05/19 13:55:28
【ライ:01】 by niv

 ペテロへ

 ちょっと仕事でドジやっちまってしばらく手紙が書けなかった。時間空いちまったが、前回の続きだ。
 ヘレン教の拷問人の鉄球が俺の頭に迫ったその時だ、【遠隔視<<ゴースト・サイト>>】で教会全体を見張っていた【コイン女】の指が一瞬止まった。
 眠そうな目つきが瞬時に鷹のような鋭い視線に変わり、積み上げられたコインの塔を素早く、だが精密に突き崩す。
 と、鎖の1つが命中直前で外れて鉄球は頭の脇を飛んで行き、鎖が俺の目の前を素通りして行った。
 【占い治療師<<ドゥームズ・ヒーラー>>】の名は仮の姿、これが【コイン女】の能力【運命支配者<<ドゥームズ・ディーラー>>】だ。
 拷問人の奴が事態を理解するより早く、俺は身を転がして弾かれた剣に手を伸ばした。あいつは止めを刺したと確信していたから、何が起きたか一瞬わからなかったんだ。振り向いた時には、俺の剣は既に振り下ろされていた。慌てふためいてもうないってわかってる鉄球を構えようとしていたが、俺の瞬速剣はお構いなしにそいつを斬り伏せた。
 勘違いしてもらっちゃ困るが、主役は【コイン女】じゃないからな。あいつの能力は長時間の集中と調律が必要で、一回発動すればそうそう連続して運命に干渉はできない。前線で戦う戦士がヘボいミスばっかしてりゃ、【コイン女】じゃかばいきれない。俺の卓越した戦闘スキルあってこそあいつのサポートが冴えるってわけさ。何より、<エクスカリバー>って組織名はこの俺、【英雄にして剣<<ヒーローソード>>】にちなんでつけられているんだからな。
 俺が剣を鞘に収め、ヘレンに捕まってた子を縛ってるベルトを解いていると、
「こっちも片付いたぞ」
と、後ろから声がかかった。黒髪の子供たちを連れてやって来た【神童<<アマデウス>>】ウォレスだ。
 ウォレスってのはだいたいお前くらいの年に見えるんだが実際は300年も生きてるってやつでな、『10で神童、15で秀才』ってのあるだろ? こいつは「わしは10で神童、15で神童、そして今なお神童だ」って自分でそう名乗ってるんだ。中身がジジイだから言うことがいちいちエラそうで、それがガキの姿してるってんだからな、年相応のかっこしろよって思うよ。
 ま、魔法の腕はまあまあなんで、直接戦闘になりそうなこっちを俺が担当、姿消したりが得意なじっちゃん坊やに牢屋の方任せてたんだ。
 こうして俺たちはヘレン教団から無実の子供たちを救い出し、家に送り届けて帰途に着いた。
 しかし教団は強大だ、俺はまだ邪悪の森の中で悪の芽をほんの1つ摘み取ったに過ぎない。<エクスカリバー>の戦いはまだまだ続くんだ。
 ペテロも絶対ヘレンのやつらにはついて行くんじゃないぞ、お兄ちゃんの仕事を増やさないでくれよな。
 
                                    5/19 ライ・ハートフィールド

[126] 2012/05/21 00:30:12
【ライ:02】 by niv

 ペテロへ。

 仕事でドジ踏んだってのは、<エクスカリバー>の方だ。ちょっと後をつけられててな、家に帰ると正体がバレそうだったんだ。ヘレン教徒に正体握られたら、お前を人質に取ってくるだろうからな。正体をさらさない、ってのも大事な戦いだ。
 こないだ助けた子? まあ顔はちょっと綺麗だったけど、まだ子供だったしな。お前となら釣り合い取れたかもしれないが、あれで一応剣士みたいだから、お前じゃ尻に敷かれちまうかもな。
 ペテロもそういうのに興味が出てきたのか? お前にゃわからんだろうが、女とつきあうってのはけっこう疲れるんだぜ。いくらお兄ちゃんでも炭鉱掘りと<エクスカリバー>と女の機嫌とるのを同時にやるのは骨が折れる。まあ、ヘレン教が片付いたら考えるかな。
 ヒーローの仕事で食ってけないの、ってのは無理な相談だ。俺らが助ける相手はたいてい金なんて持っちゃいない貧乏人だ。お前、実際に正義の味方なんて見たことないだろ? それで生活できるならみんな正義の味方やってるよ。金に尻尾振ったら公騎士やリソースガードの犬どもになっちまう。
 あの常闇の精霊王を封じたヴェッテルラングだって本職は酒場のオヤジだしな、アーネチカ殺しのミルミも死ぬまでメイドさんだ。ナプラサフラなんてのに至っては物乞いしながら勇者をしてたって言う。報われないんだよ、英雄なんて。
 ところで、この間の手紙の隅に染みがついてたが、血だろうあれ? お前、病気なんじゃないだろうな。暑くて息苦しいだろうが、マスクは必ずつけろよ。炭鉱掘りは肺をやられたらおしまいだ。念のため、新しい布を3枚つける。ちゃんと洗って乾かして、毎日違うのを使え。
 何か困ったことがあるなら、ちゃんと言えよ。
 世界も大事だが、お兄ちゃんが一番大事なのはお前だ。
 わざわざリリオットに来てるのも、ヘレン教の本山がここだからだ。あいつらを潰さないことには、お前みたいな黒髪がいつさらわれちまうか、心配でしょうがないからな。正義の味方なんてのはついでだ、俺はお前の味方だ。
 <エクスカリバー>はついでで世界救っちまうんだ、かっこいいだろ。
 肺病じゃなくヘレン教徒に捕まってた女の子のこと考えすぎて鼻血が出た、ってのを祈るぜ。それはそれでちょっと心配だけど。
 尾行されてた時の話はまた今度書こう。

                                           5/21 ライ・ハートフィールド

[155] 2012/05/23 00:01:11
【ライ:03】 by niv

 ペテロへ。

 こないだリリオットのメインストリートを歩いていた時の話だ。 
 あの辺はどこに誰が陣取るかだいたい決まってるんだが、郵便局のまん前辺りにいつも青い髪の女がいて占いのパチモンみたいなことして稼いでんだ。
 こいつはこんなナリだが<エクスカリバー>のNo.2だ。こうやって乞食の振りをして情報を集めている。俺らは隠密組織だから、こういう諜報員も<<円卓の騎士>>には必要なんだ。俺らは【物乞い】って呼んでるが、その時々で【野ばら】だの【まだら雲】だの適当な名前名乗ってるな。本名は誰も知らない。
 こいつの情報力は本物だぜ。俺がまだ<<ヒーローソード>>として一人で動いてた頃、タダとかでいい、同じ場所でに話しかけられたんだ。
「名前を当てて見せましょうか……え〜と、ライ・ハートフィールドさんですね」
と、まあここまではドキッとはしたけどな、物乞いなんて一日中地べたで暇してるわけだし、なんかの拍子にたまたま名前知った、ってことも考えられる。郵便局の前だしな、多分目がよくて俺の名前見て覚えてたんだろう、くらいに思ったのさ。で、「なんでわかった?」なんて思い通りの反応してやるのもつまんないだろ?
「当たり。アンタの名前は?」
って聞き返したんだ。
 そしたら、
「私の名前は特にないので好きな名前をつけてください」
って言われてな、どう返すかと思ってたら
「……って言ったらなんてつけます? <<ヒーローソード>>、とか?」
 ヒヤっとしたよ、どこで漏れたんだ、ってな。……ま、幸いなことにこいつは敵じゃなかった。<エクスカリバー>の活動はこうして始まったんだ。

 俺はその日、本を読みながらメインストリートを歩いていた。歩くの遅くなっても怪しまれないからな、便利なんだ。『情報あり』なら、【物乞い】は髪を縛って上げてる。俺が声が届く距離まで近づいたのを見計らって【物乞い】は適当な客を捕まえた。
「占いとかいかがですか?たったの25ゼヌですよ」
 これは時間を表してる。今日の25時、夜中の1時に、ってこと。
「う〜ん、誰か気になっている人がいるようですね」
 『気になってる人がいる』ってのは「捕らえられてる人がいる」って意味の符丁だ。そっから集合場所が指示されるんだが……ちょっと書き切れないな、続きはまた明日だ。
                                           5/22 ライ・ハートフィールド

[171] 2012/05/24 00:36:24
【ライ:04】 by niv

 ペテロへ。

 俺が【物乞い】の暗号に耳を傾けていた時だ、
「あなた、黒髪の匂いがするわね」
 いきなり腕を掴まれて振り返ると、緑のフードかぶった見るからに目がイっちゃってるヘレン教の女がいたんだ。あれは間違いなく、4,50人は殺してる目だ。俺に言わせりゃ、あの女こそ死臭がしたよ。ゾッとしたね。【物乞い】に正体を見破られた時の方がマシなくらいさ、まだ真っ金々の頭してた俺の手掴まえて「黒髪の匂い」だぜ、病気だろもう。
 すぐに手を振り払ったんだが、瞬間、何かがおかしいのに気づいた。あの女は俺に【つきまとう黒猫<<ホーンティング・ブラックキャット>>】って魔法をかけたんだ。こいつをかけられると、俺の見てるものや聞いたことが伝わっちまう。
 魔法は専門じゃないんだが、俺も何度も死線を潜り抜けてるからな。前にもやられたことがあるんだ。ほんのちょっとした違和感なんだが、音が一瞬遅れて、微妙にズレるんだよな。普通なら「何かおかしいな」くらいで気づかないだろうが、戦士っていうのは五感をフルに活かして戦うからな、研ぎ澄まされた俺の耳にしてようやく捉えられたってとこだ。
 向こう側からウォレスの奴がやって来るのを見て、俺は慌てて道を曲がった。人前で話しかけてはこないだろうが、ちょっとした視線や仕草で不審に思われるのは避けたい。とにかく接触を断つべきだと思ったのさ。
 こいつはけっこうやっかいな呪文でな、ウォレスや【コイン女】に頼めば解除はできるだろうが、それじゃ俺たちの繋がりがバレちまう。自然に消えるには一週間くらいはかかる。
 家には帰れなかった。夜中になれば<エクスカリバー>の連中が尋ねてくることがある。そうなったら一巻の終わりだ。かといって普通の労働者にしか見えない俺が、偵察の魔法をかけられた瞬間からいきなり一週間家を空ける、ってのもそれはそれで怪しいだろ?
 それでどうしたかっていうとな、その晩は酒場で飲んだくれて潰したんだ。ま、一晩くらいこんなこともあるだろう。それで次の日は炭鉱に行ってな、ほんとにこんなことはしたくなかったんだが、わざとヘマしたのさ。
 そのまんま救護室に運ばれて、痛くてとても歩けない、ってちょっと誇張してな、これでなんとか一週間。あの女の尾行を撒いたってわけさ。
 今回は地味な話で悪かったが、英雄ってのも外から見るような華々しいことばかりじゃないってことさ。【物乞い】だって乞食に混じって情報収集してるしな。裏じゃ結構泥臭いことしてるもんだぜ。ま、ペテロからだってそんな遠い世界じゃないってことさ。

 p.s.
 返事が遅いから心配したよ。たいしたことなくてよかった。でもナイフの傷程度でも、破傷風の原因にはなるからな。甘く見ないでちゃんと消毒しろよ。
 使ってる剣の名前なあ、考えたこともなかったよ。あのな、真の英雄は武器なんか選ばないんだ。あのエクスカリバーだって、普通に鍛冶屋に打ってもらったものだからな。石に刺さってたなんてのは後からついた尾ひれだよ。英雄は武器を選ばない、使ってる武器が伝説になるんだ。あえて言えば、この俺が最強の剣<<ヒーローソード>>だな。
                                           5/24 ライ・ハートフィールド

[233] 2012/05/28 00:45:42
【ライ:05】 by niv

「おい、ずいぶん魔物に詳しいようだが、お前は何百年前から生きてるんだ?」
 ひげ面の酔っ払った男がライに絡んできた。
 生ける伝説を目にした高揚もあったろう。酒による興奮もあったろう。
 その生ける伝説の語りもホラ話と思われながら受け止められている、これもまた要因ではあったろう。
「いや、何百年ってことはないが……それなりに死線は潜り抜けているんでな」
 酔っ払いの目が輝いた。およそ酒場で管撒いている連中というものは蛮族と大差ない。面白さの兆候には鋭敏な感覚を働かせるのである。
「おい、こっちのあんちゃんも大冒険しているようだぞ! 話を聞いてみようぜ!」
 ちょうどウォレスが肉を食っていて語りを止めていた瞬間である。視線は一気にライに集められた。
 ライにはまた、弟に手紙を書いていたことでいっぱしのストーリーテラーとしての自負も培われていた。行ける、そう判断したのも無理からぬことである。
「そうだな……俺がこの間、ヘレン教の拷問人から黒髪の少女を救った時の話なんだが……」
 ヘレン教の暗黒面への言及はタブー性を含む。それゆえに一瞬凍った空気も漂ったが、酔っ払った蛮族にタブーはご褒美である。若干の緊張を持ちつつ盛り上がる中、一人の男が声を上げた。
「ヘレン教に拷問人だと? 聞き捨てならないな」
 公騎士ドズモグである。
「どこの教会なんだ? 事実であれば、明日にも取り調べに行かなくては」
 ドズモグも話半分で聞いてはいるが、これはつまり、公騎士である自分の前でその話は続けられるのか?という、語りへの挑戦である。ドズモグの意図を感じ取り、酔っ払いたちの期待は大いに高まった。
「え? あ、いや、それは機密上明かせないんだが……」
「なら俺は職務上お前を尋問しないとならん」
 そう言ってドズモグはにやりとする。酔っ払いたちが笑い声を上げた。
「こりゃドズモグの勝ちだな」
「いや、俺はまだ若いのに期待してるぞ」
 最初に話しかけたひげ面がライをけしかける。
「おい、どうした! 事実なら何も隠すことはないだろう!」
「あ、ああ……仕方ねえな、機密なんだがシャトラン通り2番地にある教か」
「シャトラン2番地? シャトラン救済教会か?」
 たくましい腕をした浅黒い男が遮った。ボザックだ。
「拷問人てことは、拷問部屋があるのかあそこに」
「ああ、地下室に隠し階段があってな、その先にあるんだよ。巧妙に隠されているが……」
 ボザックが大笑いした。
「そりゃ巧妙だ、あそのこ教会は俺が建てたんだぜ」
 爆笑が辺りを覆った。暫くは誰が何を言っているのかまったく聞き取れないほどだった。
「大工の俺が知らない間に地下室作るなんざ、そりゃ巧妙だな」
 ライが抗弁しようとするのを、ドズモグが押しとどめた。
「ではシャトラン救済教会に明日、公騎士団として公式に取り調べに行くこととしよう。
 もし報告の通りなら手柄だ、表彰させてもらわないとな。名前を聞かせてもらおうかな」
 チェックメイトである。勝負はついた。周りの空気が判定を下していた。
「仕方のないやつじゃ、わしの真似をするには10年は早いな」
 皿を平らげたウォレスが立ち上がり、ライの肩に手をかけてそっと椅子に座らせた。
「よいか、人を楽しませる話のコツを教えてやろう」
 ライを振り返ってウォレスが言う。
「本当のことを話すことじゃ」
 ウォレスのその言葉に、酒場はまた笑いに包まれる。

[410] 2012/06/11 00:00:19
【ライ:06】 by niv

 ペテロヘ。

 「まだ」ってとこによく気づいたな、さすが俺の弟だ。
 ちょっと前から髪の毛黒に染めてるんだ。
 この間の尾行で顔を覚えられてる可能性があるからな、もしヒーローソードの活動中に顔を見られたら正体が割れちまう。ちょっとした変装だってことだが、弱者の味方として、弱者の立場を知るのにちょうどいいってのもある。
 自分の髪が黒になってみるとわかることもあるな。髪の色変わったら手のひら返す奴なんかもいて面白いぜ。飯食いに行ったらさ、俺の顔覚えてていつもにこにこしてたオヤジがすげえ形相になってよ、席座ろうとしたら「そこは今日は予約がある」、別の席座ろうとしても予約がある、って。要するに「出てけ」ってことさ。髪の色一つでな。でもこんな奴はつまんない奴さ。性根が腐った奴は誰か、って見分けがついてむしろよかったよ。

 リリオットに来る、っていうのはまだやめておいた方がいいな。こっちは黒髪への風当たりが厳しいんだ。
 この街はいろいろと危ない。ヘレン教に横暴な公騎士、セブンハウスの陰謀、それに俺たちの宿敵【時間伯爵】……。
 【時間伯爵】は正直なところ、何をやっているのか俺たちにもわからないんだ。顔を時計の仮面で覆ったキザな喋り方の奴なんだが、<<エクスカリバー>>の探索の行く先々で現れて意味深なことを言って消えやがる。こいつはリリオット全土、下手をすると世界のすべてを支配している可能性すらある。
 厄介なのは、こいつは「時間を撒き戻す」っていうとんでもない能力を持っていることで、【物乞い】が情報を探っても時間を撒き戻して証拠隠滅しちまうんだ。
 だがこいつが何か巨大な陰謀を張り巡らしていることは間違いない。こいつを倒すためには伝説の魔剣を手に入れる必要があるかもしれない。

 もちろんお前が街に来たら俺は全力守るが、あえて危険なことはしないっていうのは戦いの基本だ。
 それより、今度そっちの方にサーカスが行くみたいだから行ってみたらどうだ? チケット2枚手に入ったから好きな子でも誘って行けよ。
 どうせお前のことだから、好きな子なんかいない、とか言うんだろう? いいんだよそんなの、後から好きになれば。別に好きでなくてもいいから誰でも誘っておけよ。でもまあ、ヘレン教とエフェクティブはやめておけよ。エフェクティブ、あいつらもろくなもんじゃない。富裕層に入れなかった奴らがまた自分らの中で順位争いして、上の奴らが甘い汁吸いたいだけのねずみ講みたいなもんだ。関わったらまず不幸にしかならない。ヘレンもそうだ、弱者救済とか言ってるが一番弱いのはあいつらさ。いつまでも黒髪にいじめられたってことを忘れられずに腹いせしてやがる。
 俺はヘレン教を倒すために戦っているが、もしヘレン教徒が弱者に転落したら、その時はそいつには優しくしてやれ。
 わかってる、あいつらがマリラにしたことは忘れていないよ。でもな、強い奴に牙を向けてもいいが、死にかけてる犬を蹴っ飛ばすような真似はしちゃいけない。本当の男っていうのはそういうもんだ。

                                           5/27 ライ・ハートフィールド

[411] 2012/06/11 00:02:17
【ライ:メモ】 by niv

ヒーローソードは黒髪。
ペテロが来る前に髪を染める、3日くらい前。
魔剣【ヘリオット】をダウト・フォレストで手に入れる。

[445] 2012/06/12 23:58:36
【ライ:07】 by niv

 ライの義父は札付きのクズだった。彼に関して褒められるところといえば子供に性的虐待をしなかったことと、明らかな弱者に暴力を振るわないことくらいだ。もっとも、ライの妹アマラが成熟していたらどうだったかは確かめようがないことだし、明らかな弱者といっても家族が反抗したり泣き喚いている場合は例外となる。
 義父の投げつけた酒瓶で母は片目を失明した。ライの家を訪ねてきた母方の祖母がそれを知ると、
「バカだね、こんなになるまで耐えて。あたしが全部何とかしてやるからね」
と、娘を胸に抱いて慰めた。その晩、祖母は酔いつぶれている義父を絞め殺した。ライたちはこのことを知らされていない。
 村の誰もが殺人を疑ったが、義父が死んで悲しむものはいなかったため、たいした取調べも受けなかった。
 幼くて分別のつかないアマラは別にして、ライと弟ペテロは父の死を喜んだ。祖母の家で始まる新しい生活に、二人は胸躍らせていた。
 母の実家では暴力の代わりに精神的な責め苦が待っていた。前よりも暮らしは貧しくなり、祖母による義父の殺害で母は精神を病んでいた。そんな母を祖母は毎日なじっていたし、そうでない時は子供の誰かが責められた。
 疲れきった母をヘレン教は救った。黒髪だった義父を悪と断定することで精神の平静が得られたが、新しい葛藤も生まれた。前夫との子ライは母に似て金髪だったが、ペテロとアマラは黒髪だった。
 ライの家は貧しかった。三兄弟が流行り病にかかった時、ライだけが治療を受け、食事もよいものを与えられた。アマラは衰弱して死んだ。ペテロは自力で立ち直ったが、左手の小指がほとんど動かなくなった。
 妹が死んだ時、ライはなんとも思わなかった。それが自分でなくてよかったと思ったし、自分によい治療を与えてくれたことを喜んでいた。
 ライのいた田舎ではヘレン教の勢力はさほどなく、怪しいカルトと見做されていた。ライとペテロは食事も着るものも明らかに違う。ライはしばしば子供たちから鬼や人非人とからかわれた。ペテロは乞食と呼ばれた。彼らは大人たちから、ライの一家を狂人の一族と吹き込まれていた。次第に自分の家が異常であることを認識するようになると、妹の死を何とも思わなかったことをライは深く恥じた。
 家の中にペテロの味方はいなかった。祖母はヘレン教ではなかったが、義父の血の濃いペテロは当り散らされた。もっとも、祖母は母の味方でもなかった。義父などと結婚した愚かさを母は毎日責め続けられた。この頃になると、祖母や父に罵られる一方だった母も時折ペテロに八つ当たりをするようになった。ライにすることもあった。
 何度か、ライはペテロとの平等を母と祖母に要求した。彼らはそれを差別であるとは決して認めなかった。さまざまな正当化を、ライには言い負かすことができなかった。その理屈にライは何度か納得させられた。優遇される環境に安住したいという誘惑もあった。別にいいやという気になることもあった。魂を屈従される前にライは弟を連れて家を出た。
 子供二人で暮らすのは大変だった。悪い大人に何度も騙されたし、年下の子供ですら後ろ盾がないとわかればなめてかかってきた。暮らしはさらに貧しくなった。
 ライは弟にいろんな約束をした。この国を変えるだとか、お金を貯めて弟を学校にやるだとか、いずれ二人で会社を作って車を乗り回すだとか、動かなくなった指を治すとか。
 人間の成長に必要なものは食事だが、子供の場合には希望がそこに加わることをライは本能的に知っていた。
 彼は稼ぎを求め、弟を置いて治安の悪いリリオットにやって来た。それでも、二人分の生活費を一人で稼ぐことはできなかった。

[465] 2012/06/14 14:00:33
【ライ:08】 by niv

リリオットでライが見つけた稼ぎのいい裏の仕事は、第8坑道内作業だった。
トップシークレットのこの仕事を行うにはまず、カムフラージュとして半日、他坑道の廃土を第8坑道エリアに運ぶ作業を行う。
そのまま第8坑道内の休憩所で休んだ後、地下での仕事が始まる。
ここでの仕事はたいした労力の要るものではなく雑用の類だが、秘密保持のためにごく限られた者にしか行えない。

刺激が強く質の低い娯楽にしか感心のない底辺の労働者は、自分たちが何をしているのか誰も気づかなかった。
言語と文明が滅んだ後にさえ残る警告として描かれたドクロの意味を理解したのはライだけだった。

それが数万年に渡って土壌を汚染する冥王毒に対する警告の印であることに思い至った時、ライは反射的に逃げ出しそうになった。しかし、既に仕事を始めてだいぶ経ってもいた。伝説どおりの殺傷力を持つなら、リリオットはとうに滅んでいるはずでもある。ジフロマーシャの研究員を地下で見たこともある。伝説が伝説に過ぎないのか、冥王毒ですら薄らぐほどの時が過ぎたのか、少なくともそこまでの危険はないと判断してライはこの仕事にとどまった。

ジフロマーシャが第8坑道で見つけてしまったもの。
ウォレスよりさらに古い時代の強大な魔術の到達点。
ヘレンとヘリオットら僅かな生き残りを除いてほとんどの生物を死滅させた地獄の炎。
伝説の中にのみその姿をとどめる正体不明の概念として言語の中に残り続けてきた神話の語彙。
リリオットの公用語で核と呼ばれるそれを操る超巨大魔方陣、【核融合炉】である。

神霊を囮にして残り6家の目を逸らし、ジフロマーシャは核を独占するつもりだった。
この秘密を解き明かせばバルシャを上回る武力でセブンハウスを制圧することも可能だ、と彼らは考えていた。
しかし、すぐにセブンハウスなど卑小な問題であることに気づいた。彼らの見つけたそれは、世界を手にすることすら可能な力だったのだ。

考古学調査から、ジフロマーシャは【神霊】の正体を、ウォレスなど本物の子供にしか見られぬほどの太古の大魔術師、スルトの化石だと推測していた。
ジフロマーシャのごく限られた人間だけが知るこの仮説に、ライは想像でたどり着いていた。
髪が金のままであることを知られたくないのもあるが、弟がリリオットに来るのを牽制している一番大きな理由はこれだ。

強大な精霊ともなれば意志を持って人を襲うこともあるという。
それが、かつて世界を滅ぼしたほど凶悪な魔術師の精霊だったら?

そのような巨大な災厄を相手に僅かばかりの距離をとることに何の意味があるのかはわからないが、遠くにいて困ることはないはずだ、とライは考えていた。

[504] 2012/06/17 21:11:30
【ライ:09】 by niv

「よう、フライ」
 第8坑道から帰る途中、人気のない道でエフェクティヴの男に話しかけられた。
 ひょろっとした色白で、鋭くはないが細く吊り上がった目をしている。
 ライはこの男に誘われ、断りきれずにエフェクティヴの会合に参加したことがあった。名前を既に覚えていないので、ライは「細ガエル」の名で認識していた。
 ライは通り過ぎようとしたが、細ガエルは隣をついてきた。
「おいフライ、まだ逃げるのか? いつまで臆病者でいるんだ?」
「臆病者でいいよ。フライにいちいち寄ってくるな」
「いいのか、ライ。知ってるんだぞ俺は」
 何が、と言いかけて目を向けた時には「弟がいるんだろう」と聞こえていた。

 他人に弱みを見せていいことは一つもない、と、前の街で既に叩き込まれていた。誰にも弟の話をしたことはない。
「なんでそれを、」
「エフェクティヴは何でも知っている」
 ようやくこっちの土俵に乗ってきたな、という顔で細ガエルはライを見た。
「最近エフェクティヴが死にまくっててな。もう悠長なことは言っていられないんだ。な、頼むよ、<<ヒーローソード>>。本物のヒーローになりたくはないのか?」
 ライは発作的に細ガエルの胸ぐらを掴んで壁に押し付けたが、細ガエルはライを余裕の目で見下ろしている。
「なあ、俺の【能力】教えてやろうか? 名付けて【効率的な力<<エフェクティヴ・フォース>>】。能力は『お前なんか簡単に殺せる』」
 突然予期しない文脈が入り込んできて、瞬間ライは理解を踏み外した。声から意味を抽出するまでの間に、胸ぐらを掴んでいる手を押し下げられていた。
「もう1つ、【闇から闇へ<<イントゥ・ザ・ダークネス>>】。能力は証拠なんか残さないし、捕まらない」
 組織力を背景にした脅しである。
 しかも自分への揶揄たっぷりな言い回しだ。
 しかしそれはそれとして、ライは細ガエルの意外なセンスの良さに驚いていた。
 (全部知られてる)(仕方ない)(逆らえばペテロが)(いや、こいつがエフェクティヴだって突き出した方が)(俺こういうダブルミーニングに弱いんだよな)
 怒り。羞恥。恐怖。かっこよさに触れた喜び。自分をからかっているだけなのか、それとも素でそういうのが好きなのかという疑問。
 後ろ2つのせいで怒りや羞恥に感情がまとまらない。正直、少し困っていた。
「お前はニュークリアエフェクトの理念は理解できないようだが、理想を持った人間だってことはわかる。
 お前がエフェクティヴを変えていったっていいんだ。一番ヒーローに近い場所にいるのは俺たちだぜ。
 な、来いよエフェクティヴに。そういやお前【物乞い】に気があるのか?なんだったら俺が口を利いてやってもいいぜ、あいつはあれで……」
 重い心理と迷いを後頭部のあたりに抱えながら、ライは第8坑道の秘密にだけは手紙で触れなかった自分の慧眼を【梟の目<<フェイルセーフ・ナイトウォッチ>>】と名付けるのはどうだろうか、と考えていた。

[548] 2012/06/20 14:02:53
【ライ:10】 by niv

 ペテロへ。

 調べてみると、時間伯爵は何百年も前から生きているようだ。ミルミ・ザ・ドラゴンスレイヤーに出てくる【時計女】や【充填歯車】も時間伯爵の眷属らしい。
 奴の牙城、【最果て】と呼ばれる時の迷宮はリリオットでも怪談話になっている。
 見慣れたはずの路地で、昨日までなかったはずの時計の城が突然建っている、一度迷い込んで出てきたら何年も経っている、抜け出して振り返るといつも通りの路地に戻っている……。

 奴を倒すには時空を切り裂く魔剣【ヘリオット】が必要だ。
 俺たちは、エフェクティヴに紛れてこの街の情報を探っていた旅人【シラガ】とともに魔剣の眠るダウトフォレストへ向かった。
 【シラガ】は遥か東の方からやってきたニンジャで、主君に最高の切腹を捧げる為に魔剣ヘリオットを求めてやってきたんだ。利害は一致した。協力してダウトフォレストを攻略し、【ヘリオット】で時間伯爵を倒した後、【シラガ】にヘリオットを渡す。

 ダウトフォレストには既に、時間伯爵の先兵が待ち構えていた。
 4本の生身の手足に4本の精霊機械の手足を持つ伯爵の強化怪人、【レディスパイダー】だ。
 こいつは顔の右半分が生身の金髪の顔で、左半分が黒髪の機械の顔というおぞましい姿をしている。奴の能力、【刃の包囲網<<ブレード・ネット>>】は生身の腕から粘つく蜘蛛の糸を出し、機械の腕から出す怖ろしい切れ味の糸でとどめを刺してくる。
 俺は果敢に闘ったが、何せ向こうは手数が2倍だ。
 致命的な刃の糸を剣で受け止めながら徐々に距離を詰めていったが、次第に蜘蛛の糸に絡めとられ、動きが鈍くなっていった。あと一歩で間合い、というところで奴の放った刃の糸をかわすと、後ろで鈍い音が聞こえた。狙ってたのは俺じゃない、後ろにある大聖堂ほどもある巨大な樹だったんだ。
 【レディ・スパイダー】は粘着糸でこの巨木を捕まえ、横薙ぎに振り回してきた。
 さすがの俺も、このときはもうダメだと思ったよ、いくらこの俺でも、巨木を一刀両断するほどの力はない。
 その時だった、俺の周りを鉄格子が覆った。
 【物乞い】の真の能力、【物乞い<<ジャック・オブ・オール・トレーズ>>】だ。雨乞いが雨を呼ぶように、こいつは何でも瞬間的に呼び寄せることができる。
 鉄格子が間一髪の距離までひしゃげて、なんとか巨木の攻撃は防げた。
 あとはもう説明はいらないな? 刃の届く距離まで近づけば、怪人など俺の敵ではない。俺は左右で分かれた顔のちょうど真ん中をまっぷたつに切り下ろした。

 ヘリオットを求めて死んでいった幾多の戦士たちの屍を踏み越え、俺は【ヘリオット】に手を伸ばした。
 剣は凶々しいな力で俺を支配しようとしたが、俺はそれを克服し、封印されていた魔剣を引き抜いた。
 と、その時後ろから声がかかった。
「ご苦労、それをこっちに渡してもらおうか」

 【シラガ】の従者、「カエル男」っていうせむしの男が傷ついたウォレスを抱え上げ、首に刃を当てていた。
 汚いもんさ、エフェクティヴなんて。ニンジャってのは根が素直だから騙されやすいんだ。
 こんな時、本当の英雄はどうしたらいいと思う?
 ウォレスも助けて、ヘリオットも奪い返すのが理想だ。でも俺はただの英雄だ、神様じゃない。どちらかしか選べない。
 俺はヘリオットを放って渡した。
 ヘリオットはまた取り返すことができるが、ウォレスは死んじまったらおしまいだからな。
 従うしかなかったんだ、この時は。


                                           6/1 ライ・ハートフィールド

[559] 2012/06/21 02:02:21
【ライ:11】 by niv

 ライがあれだけ来るなと言ったにも関わらず、ペテロが来てしまった。
 髪の色に触れられたライは
「【ヘリオット】を手放した時に金に戻ったんだ、多分ヘリオットもあの魔剣を手放した時は白髪に戻ったんだろう」
とごまかし、こんなこともあろうかと(思ってなかったが)ヘリオットを出しておいたのだ……さすが我が【梟の目<<フェイルセーフ・ナイトウォッチ>>】……!と胸を撫でおろした。

 リリオットは治安は悪いが華やかだ。街を歩く人の姿にもバリエーションがある。ペテロは首を左右に振りながらついてくる。ライはとっくに忘れていたが、田舎では見られない光景だったのだ。
 少しくらいいても平気だろうし、見せてやれてよかったな、と思っているとペテロが「あっ」と声を上げて指を差した。

 油断していた。時計館だ。【最果て】と看板に書かれているので言い逃れはできない。
「時空城」
 ライは慌ててペテロを連れて行こうとした。だが、ペテロは動かない。
「兄ちゃん、行かなくていいの」
「お前を危険な目に合わせるわけには行かない」
「平気だよ。俺もヘレン教と戦う!」
 ちょうどそばをヘレン教の女が通りかかってライたちを見ていく。これ以上騒がれたくないし、ヒーローが断るのは一度までという掟もある。
「……わかった。お前は今日から【英雄にして剣<<ヒーローソード>>】の弟分、【致命的な小枝<<ミストルティン>>】だ。<エクスカリバー>は隠密組織だ、ヘレン教と戦うとか大声で言うんじゃないぞ」
 はしゃいでジャンプしながらついてくるペテロの手を引いてライは階段を上った。

 時計館は何度来ても飽きない。一つとして同じ時計はなく、精巧な細工物やラインの美しさで虜にするもの、一見時計と見えない時間の表示方式のまったく違うもの……見入っている間に後ろから大きな声がした。
「時間伯爵だ!」
 なぜ考えなかったのだろう。入ればいるに決まっているのだ。
 仮面の男を指差してペテロはライに期待の目を向ける。

 常識人としての振る舞いは分かっている。だが、常識人の振る舞いはしばしばヒーローのそれとは隔たっている。ライにとってペテロの前でカッコよくあることは常識以上に大事なことだったのだ。
「……弟には手を出さないでもらおう」
 ライはペテロと仮面男の間に割って入った。周りの客の目が集まる。
(恥ずかしい)(この後どうすりゃいいいんだろう)(時よ早く過ぎてくれ)(『時』の進みを遅くして……俺をいたぶっているのか、伯爵……)
 ライが困っている間、その巨体の紳士はほんの少し仮面の奥で何かを考えるそぶりをしていたが、手を大きく広げて
「いいでしょう、我々にはもっと相応しい舞台があるはずですからね」
と言って去っていった。
 その姿、立ち居振る舞いはペテロの想像していた闇の支配者、時間伯爵そのものだった。ペテロの目が輝いた。兄ちゃんすっげーという目だ。
 ライも想像の世界のシーンを一瞬演じられたことで興奮していた。
 なぜ男が都合よく、悪役とヒーローがどちらも負けずに終われるパターンを演出してきてくれたのかはライにはわからない。わからないながらも、「さすがは【時間伯爵】……敵ながら天晴れだ(敵じゃないが……)……さすが我が最大の宿敵よ(敵じゃないが……)……」と、仮面の男にかなりの好印象を持っていた。

 しばらくして館を出ようとすると、着物の女が入れ違いに入ってきた。ペテロがシラガ、と言いかけたのをとどめて、
「時間伯爵の館で隠密活動中だ、正体をバラすんじゃない」
と小声で言い聞かせて外に出た。

 よりによってそこで今度は青髪の占い師が来た。
「お兄ちゃん、あれ【物乞い】!?」
 ライは先ほど演じた英雄的な一幕をまだ反芻していたのを中断し、全力でペテロを引っ張り寄せた。
 (あまりにも失礼だ)(【謎の美人】とかにしときゃよかった)(聞こえたかな)(こいつ【物乞い】が一番好きなんだよな)(【梟の目<<フェイルセーフ・ナイトウォッチ>>】は片目が利かぬ……)
「【物乞い】との情報のやりとりは教えたな? 正体は絶対に秘密なんだ、目を合わせるんじゃないぞ」
 目を輝かせたままのペテロは兵隊のような動作で体を真横に向け、壁に向かって直立した。
 <エクスカリバー>としての使命を果たすために最初は壁だけを見つめていたが、すぐに好奇心が勝って横目で【物乞い】の方を見始めた。通り過ぎる時は我慢しきれず、体は壁を向いたまま体を捻って顔を覗き込んでいた。
 物乞いは特に何も言わずに通り過ぎてくれた。

[616] 2012/06/23 23:42:45
【ライ:12】 by niv

 ゲドルト・ハラルシュティンの提唱した進化論という説がある。
 生物は初めからそのような姿であったのではなく、長い時代を経て変化してきており、声や翼はその過程において獲得されたものとする考えである。
「つまり君の言ってることはこうだろう、鷹のトーテムの祖神がおりました、祖神は翼を得て空を飛びたいと願いました。こうして鷹は翼を手に入れました――学者というより語り部だな、現住民族の」
 ハラルトシュティンはこうして生物学の教授と袂を分かった。
「種が種単位の優位を得る為に、目的を持って戦略的に機能を獲得しているというのなら」と、ゲドルトが自説の披露にこぎ着けた生物学の権威、エドワン・トンプソンは論文を机に放った。「人間以外の種はこの世に存在しないだろうね」
 ゲドルト自身は明言していないが、論理を演繹し考古学的知見と合わせればヘレンは猿だったという結論が得られる。危険な学説だった。

 想像力を刺激するこの理論は、フィクションでしばしば引用される流行のネタだった。
 進化論によれば、生物の種は目的を持ってその機能を獲得している。冒険小説の中で登場する魔物の機能やパワーアップを説明付けるのにちょうどいい材料だったのだ。

 ライは投稿小説用に、というよりも身に付いた習性としてだが、この進化論についての考察を弄くり回していた。
 いろいろな秘術や魔人を進化論で説明付けていくうちに、やがてライは、なぜ自分はこんなことを考えているのだろうと思い至る。

 人が物語を書く意味は何なのか。
 人という種が自然の中を生き抜く上で、物語は何に寄与しているのか。

 それは一種の感覚器官だ、とライは設定を進める。
 物語とは事象と事象の連なり、因果の具体例と言える。
 どのような事象がどのような結末を導くのか、ある事象にはどんな予兆が現れるのか。
 多くの物語を知ることはその可能性のリストを拡充することであり、数多くの未来を予知できることは生存に繋がる。
 ここまで考えたが、ライにはこの設定を活かした物語は構想できず、頭の片隅でいつか役立てる時を待っているだけだった。

 この眠れる設定を、劇は呼び覚ました。
 教会での虐殺。
 リリオットの都市伝説、封印宮の金属少年ヴィジャ。
 ウォレス・ザ・ウィルレス。
 『アーネチカ』本来の筋書きにこんなガジェットは存在しない。
(これは『アーネチカ』なんかじゃない)(この演劇のテーマはこの街だ)(しかもあの魔法陣)(バラす気なのか、あれを)
(これは危険な物語だ)
 「危険な物語」の響きにも酔いながら、ライの中で不安が膨れ上がる。
(不安は臆病や気病みじゃない、発熱や恐怖と同じ、【因果覚】が発する警告だ)(【因果覚】……どんなルビを当てればいいのか思い浮かばない……)
 vip席の時間伯爵と一瞬目が合う。ような気がした。
(まさか本当に、闇の総帥……)(いやないない)(ね〜よ)(ほんとだったら嬉しい)(いや困る)
 こんな物語に遭遇した時にどう動けばいいのか、そんな物語のストックはライにはなかった。

[669] 2012/06/26 14:00:30
【ライ:13】 by niv

 冗談じゃあない。
 かっこつけるのはもう十分やった。時間伯爵との会話だってある。ペテロに疑われることはもうないだろう。
 あとはその辺の車でも奪って逃げればいいはずだった。言い訳はなんとでもできる。

 ライはいつでも複数のことを考えていた。
 どんな危険のただ中にあっても、ライは自分がヒーローとして振舞う空想を現実の上に重ねるのをやめることはできなかった。そして、ヒーローとして考えても、ここでウォレスを追うのは愚策だ。
 ミスディレクション。
 手品師がよくやる手だ。観客の注意を引きつけておき、死角で手品を進める。
 あれだけ派手に出てきたのはそういうことだろう。【時間伯爵】が既に姿を消している。本命は【核融合炉】に違いない。あんな仕掛け誰も気づきはしない。あの演劇自体がミスディレクションという可能性はあるが、誰も知らない【核融合炉】では囮の役には立たない。向かうべきは第8坑道だ。街を救おうとする者はウォレスのところに向かうはずだ。【時間伯爵】を止められるのは自分しかいない。
(「たいしたマジシャンだな、ウォレス。もっとも、あんたは魔術師じゃなく手品師だったようだがな――それもたいしてうまくない」)
 だが、弟はほうっておけない。幸い、ウォレスの館と第8坑道はそれほど離れていない。弟を確保して第8坑道へ。


 走りながらライは、街のそこかしこにある伝言板にメッセージを残した。この混乱の中どれだけ効果が期待できるかはわからないが、伝言板に書かれた噂は信じられない早さで広まることがある。一刻も早く、という気持ちもあったが、ライは酒場でのウォレスを見ている。おそらく、あいつは自分と同じ、真性のかっこつけたがりだ。仮にミスディレクションの役を買って出たのだとしても、自分が到着するまで弟に危害を加えることはしないだろう。
 「時計仮面が、第8坑道の核を放つ」「『希望』を持つ者はウォレスの館へ」「わが手にヘリオットを」

***

 聞かれればエルフは答えたろう。だが、誰も聞かなかった。
 リリオットに配置された伝言板は、エルフたちが街に張り巡らせた【目<<オクルス>>】の1つだ。
 ここを通してエルフたちはこの街を見張っていた。
「見ろ、核だ」
「我らの盟約が汚された」
「人間たちは、我々に隠れて核を見つけ出し、研究していたのだ」
「悲しい」
「我々は残飯を食わされた」
「我らの名誉を残飯で汚された」
「最早ダウトフォレストにはとどまれぬ」
「悲しい」
 食事を断ち、厳しい苦行によって生きたまま精霊となったエルフにとって、「残飯を食わされる」というのは最大の屈辱と怒りの表現である。

「時計仮面、サルバーデルか。よそ者が何も知らずに禁忌に触れてしまったようだな」
「時間が惜しい。『ジーニアス』を全面解放しよう」
 ジーニアス。ダウトフォレストのエルフたちが夢を使って人間を都合よく導くために使っていた偶像だ。
「アルケー、『願い事の泉』にこんな書き込みが」
 ライがヘリオットを求めた伝言板は、書いたことが現実になると噂されている。
 実態は、そうした迷信を人間に信じ込ませ、知性の階梯を上るのを抑圧するために、エルフたちがたまに書き込みを実現するよう計らっていたのである。マックオートの両親も新婚旅行に来たときに「男の子なら英雄に、女の子ならお姫様に」とそこに書き残していた。エルフたちはこの願いを聞き入れた。マックオートの呪いに意味が見つからないのは当然で、ただ旅と冒険の運命を与えるためにエルフたちが用意したものだったからである。
 ライはナメられないように知識をつけていたが、学がない。急いでいる時などスペルミスが多くなる。ライの書いた「ヘリオット」は、「地獄の暴動」という意味に読めた。
「サルバーデル、あの粋を気取る猿風情が。エルフ流のユーモアというやつを見せてやろう」
 エルフの太祖は、数千年来見せたことのなかった笑みを見せた。

[670] 2012/06/26 14:01:40
【ライ:14】 by niv


「争いの手を収めよ、愚かものども!黒髪はヘレンを迫害したが、ヘレンが黒髪を迫害したことは一度もない!」
 リリオットを被う闇を引き裂いて、それよりも大きな人型が現れた。
 実際にはそこには何も存在せず、エルフたちがリリオット住民全員の頭に描き出したのである。寝ているものは夢の中に、地下にいるものには視界と両立する謎めいたヴィジョンとして、それは現れた。
「今こそお前たちがひとつになるときが来た。リリオットの未来のため、全員が力を合わせるのだ。数千年の昔から生き続け、ヘレンの遺産たるリリオットの壊滅を狙っていたヘリオット。その魔人がついに動き出した。セブンハウスを陰で操って弱者を弾圧し、またエフェクティヴを支配して多くの貴族を葬り、この街を支配してきた男。名をサルバーデル、時計の仮面でそのヘリオットの素顔を隠してきたこの男が、第8坑道に眠る【核融合炉】を解き放とうとしている」
 争いを中断させられ、一度敵を見失った群集に、エルフたちは統一された敵の姿を示した。時計の仮面の男はヘレン教にとって未だ憎むべきヘリオットであり、公騎士や貴族にとってはエフェクティヴの首領であり、エフェクティヴにとっては憎むべき貴族の頂点だった。
「さっきあっちで時計の男を見たぞ!」
「いやこっちだ!」
 動揺が走る中、ひょろっとして色白の、カエルのような顔のエフェクティヴが拳を振り上げた。
「これだけいるんだ、みんな手分けして探せ!」
 聞こえた言葉が納得に至るまでの僅かの時間を追って、エフェクティヴは続ける。
「今までこの街はリリオットではなかった! ヘリオットだった! 今日が、今日こそがリリオットの建国記念日だ!」
 地上が咆哮に包まれた。「ヘリオットを!」「ヘリオットを捕まえろ!」「俺たちの街を守るんだ!」
 エフェクティヴの男は最高に酔いしれていた。元々こういうのが行けるクチだったのである。

***

 ライもこのヴィジョンを見ていた。あまりに自分の幻覚かと思ったが、それは他の人の動きでわかる。
 これで、第8坑道は大丈夫だろう。その代わり、ウォレスのところには自分が行くしかない。

***

 時を同じくして、ダウトフォレストのエルフたちがリリオットへと全軍進撃を始めた。


********

 リアル時間で10時間後にはエルフの群れが街に着き、サルバーデルを血眼で捜し始めます。

[705] 2012/06/28 08:46:18
【ライ:15】 by niv

(四天王とかいないのかな……)
 大きな扉の前に立つと、扉がひとりでに開く。ライは慌てて後ろに跳び退った。
 扉の奥にウォレスとペテロがいる。
(見られた)(ス、ステップバックだ)(豹のような俊敏な動きで回避)(中から矢が飛んできてたりしたら死んでたんだ、正しい)(セーフだ)
「白のウォレス!! 弟ペテロを返してもらうぞ!」
 魔法使い相手にどうすりゃいいんだ、土下座でもして返してもらうか、と思っていたが、なんだかすごい怪力の女が仲間になってくれた。ここは強気だ。そう思いながら一歩を踏み出そうとして、気づいた。
 すみれがいない。
(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい)
 多分不意打ちかなんか仕掛けるために隠れてるんだろう。そう勇気付けながらライは進んだ。謝るのは後でもできるが、振り上げたはったりを引っ込めたら取り返しがつかない。
「ウィルレスは二人もこの世にいらねえ。決めようぜ、どっちが本物のウィルレスか」
 弟がこちらを見ている。昔からそうだった。一人きりでは、夜になると墓場のことなど考えるのも嫌だ。しかし、誰かが見ていれば強がらなくてはという思いから強気の振る舞いをする。墓場を歩くことだって怖くなくなる。死ぬのかもな俺、と思ったが、それでもいい気がした。
「もうわかったろう。嘘なんだ、全部」
「……うん」
 ライは自分のいない間にとっくに嘘が全部ばれているだろうと思っていた。ペテロは嘘というのを、ウォレスが裏切ったのを伏せていたことだと理解した。もしかしたら、<エクスカリバー>は既に壊滅しているのかもしれない。「どうして俺の名前を知っている!?」という兄の言葉を思い出す。きっとシラガもウォレスも洗脳され、ライのことを忘れてしまったのだろう。
「<エクスカリバー>なんて存在しない。ウォレスも【物乞い】も仲間じゃない。悪者を全部やっつけて、伝説の剣を振り回して、弱者を全部救えて、そんなのは全部空想の話だ」
 わかってなかった。何のことを言われているのかわからない。
「ウォレスさんは仲間だってさっき言ってたよ」
 そう言いながら弟はウォレスを見上げる。今度はライがわからなくなった。時間伯爵といい、未曾有の危険の中だというのにくれって言ったら素直に剣をくれる公騎士といい、こいつらは一体何なのだろう。特にウォレスが何を考えてるのか気になって仕方なかった。ものすごく話を聞きたい。しかし、聞き返すとかうろたえるとかはヒーローの振る舞いではない。ライは聞こえなかったことにして話を進めた。いよいよ何か誤解があるとすれば向こうから言って来るであろう。
「でも、一つだけ本当のことがある」
 そう言ってライは、いつも持ち歩いているインク壺を取り出した。開けようとしたが、手が疲労しているからかインクが固まっていて蓋が開かない。こういうことは予想できたじゃないか。なんで一旦開けておいて戻すということをしておかなかったのだろう、とライは後悔する。
 手に持った剣がまた蓋を開けるのに邪魔なのだが、ではこの剣をどこに置くといって、股に挟むのはかっこ悪い。いざという時に剣を握っていないのも危険だ。かといって間が空くのも困る。ライは困りっぱなしだった。
 インク壺をひねくり回してちょうど両手が水平になったとき、その間を虚空から現れた巨大な刃が通り過ぎていった。ちょうどインク壺がぱっかりと空く。ライは実に、ウォレスが首切り鎌の準備を終えるのに十分な時間インク壺を相手に焦っていた。
「相変わらず間が悪いのう。語りに重要なのは練りに練った内容よりも、むしろわかり易さとテンポじゃぞ」
 こんなのを相手に戦うのか、という恐れになるべく目を向けないようにして、ライはインクを頭から被り、手で髪に伸ばした。途中、片手だとやりづらかったので一旦剣を置いた。殺す気ならさっきのでやれてたはずだから、待ってくれるだろうと思ったのだ。さて続きを言うぞ、と思って顔を上げたら額にインクが垂れてきた。一瞬迷いが起こったが、迷いが動作に結びつく前にライはストールで手を拭き、頭に巻いた。
(これ結構高かったのに)(服にも垂れてきた)(だが英雄は服にインクが落ちることなんか気にしない)(さっき金貨いっぱいあったし帰りに拾おう)(この強い気持ちが英雄なんだ)
「……俺がヒーローソードだってことだ」
 何が「ってこと」なんだっけ、と弟が文脈の把握に困るのに十分なだけの時間を経て、ついにライは前口上を終えた。

ttp://stara.mydns.jp/upload/up/herosword.png

***

ウォレス・ザ・ウィルレスに決闘を挑む。
-100/+100でキャラクターを変動し、24時までに neo-nitoro666@live.jp (nitoroさん)に送る。
敗北したらライは死ぬ。ウォレスが敗北した場合生き死には好きにしていいが、弟は返してもらう。

[740] 2012/06/30 02:12:10
【ライ:16】 by niv

 悪い夢のようだった。
 いつか種明かしが始まると思ってた。
 カーテンコールはまだかよ、と言いかけて途中でやめた。喉の奥に溜まる血が吹き上がるだけなのに気づいたからだ。
(ウィルレス。遺言も言えねえ)(何がしたかったんだろうこいつらは)(操り人形みたいだった。意志もねえ)(悪かったな、ペテロ。まだ8歳なのに)(こいつそんな悪い奴じゃなさそうだし)(死)(死ぬ)
 視界が霞んでいる。見下ろしているはずのウォレスの姿が、滲んだインクのようにしか見えない。回りで喋っているのが耳に入ってくるが、声でなく音としか聞こえない。
 ろくな兄ではなかった。いつ嘘がばれるかとびくびくしていた。劇が終わったとき、このまま死んでくれれば嘘がばれずに済む、と期待しているところすらあった。
でも最後にかっこいいところ見せられてよかった。いや、大きくなったら馬鹿な兄だった、って笑われんのかな。そこまで生きてくれりゃそれでいいか。
「」
 ありがとう、と言おうとしたが、もう声にはならなかった。

***

名前:ライ
性能:HP64/知6/技5

スキル
・弾き落とす      /20/0/7/封印
・<暗弦七片−勇気−> /45/0/9/回復
・薙ぎ払う       /10/0/8/防御無視・封印
・侵されざる物語    /25/15/10/吸収
・叩きつける      /25/0/8/封印
・滅多打ち       /5/0/1/

プラン
【定義】
1.相手のスキルが回復である時、または相手がスキルを構えていない時、相手の構えているスキルの破壊力は0である。そうでない場合、破壊力は相手のスキルの攻撃力に等しい。
2.「〜から〜を引いた値」とは、前者から後者を引き算し、それが正の数の場合はその値、そうでない場合は0を意味する。
3.「防御x、ウェイトyのスキルを使って死なない」とは以下A,Bのいずれかを満たす時である。
A.[相手のウェイトがyを上回る]
B.以下の2つをともに満たす。
[・相手のスキルが防御無視
・(y-相手のウェイト)×(相手の技術からxを引いた値)+相手の構えているスキルの破壊力<自分のHP
・「yから(相手のウェイト+3)を引いた値が0」か、「(yから(相手のウェイト+3)を引いた値)×相手の技術+相手の構えているスキルの破壊力<自分のHP」
 以上をすべて満たす。]
[・相手のスキルが防御無視でない、またはスキルを構えていない。
・(y-相手のウェイト)×(相手の技術からxを引いた値)+(相手の構えているスキルの破壊力からxを引いた値)<自分のHP
・「yから(相手のウェイト+3)を引いた値が0」か、「(yから(相手のウェイト+3)を引いた値)×相手の技術+(相手の構えているスキルの破壊力からxを引いた値)<自分のHP」
 以上をすべて満たす。]


【行動指針】
1.相手がスキルを構えていない場合
・防御0、ウェイト8のスキルを使って死なない場合、叩きつける。
・防御15、ウェイト10のスキルを使って死なない場合、侵されざる物語。

2.相手の防御が0の場合
・相手のHP<相手のウェイト×5なら滅多打ち。
・相手の知力が4以下で、防御0、ウェイト7のスキルを使って死なない場合、弾き落とす。
・相手のウェイト2以上なら滅多打ち。
・相手のウェイトが1で、破壊力1以上で、防御無視でなく、「防御15、ウェイト10のスキルを使って死なない」場合侵されざる物語。

3.相手の防御が15以下で、防御0、ウェイト8のスキルを使って死なない場合叩きつける。
4.防御0、ウェイト8のスキルを使って死なない場合、薙ぎ払う。
5.防御15、ウェイト10のスキルを使って死なない場合、侵されざる物語。

6.相手ウェイトが9で、自分のHP+45未満の破壊力のスキルを構えている場合、<暗弦七片−勇気−>。
7.滅多打ち。

[745] 2012/06/30 03:51:35
【ライ:17】 by niv

 坂道を上っていったヒヨリは、古城で一人の少年の夢につまづいてその中に入り込む。
 床に寝ていた少年は頭を抱えて起き上がり、ヒヨリと目を合わせる。
 たった今死んだばかりの人のようだ。『希望』の光で見出され、ここに来るまでヒヨリの手の中で温められてきたコインには、直後ならば死者をも蘇らせるだけの力が蓄積されていた。
 この人が素敵な物語の続きを書けますように。そう思いながらコインを差し出そうとした時だ。
「痛って〜えなあ。お前の【運命支配者<<ドゥームズ・ディーラー>>】はこういうとこ気が利かねえんだからなあ」
 ルビつきの妙な2つ名に一瞬固まったが、夢の背景の読み方はもうわかっている。ここに来るまでに死者の夢の中を渡り続けてきたのだ。
「申し訳ありません、<<ヒーローソード>>。追っ手をようやく撒いたところでして……」
 自分とは縁のない世界観だったが、やってみるとなかなか面白い。
「なあ、俺考えたんだけどさ、お前コイン投げる技使ってみない? 能力名は……【黙示録の射手<<ドゥームズデイ・ダート>>】」
 死は敗北ではない。人生は最期が悲劇であってもそれまでの行動は消えるわけではない。
 ヒヨリは無理にコインを受け取らせるよりも、この楽しそうな少年の空想につきあうことにした。しばらく、この夢の中に住んでみよう。
「光のコインが闇を裂く!悪に振り下ろされる黙示録の鉄槌!ドゥームズデイ・ダート!!」
 コインは夢の空間の枠外に消え去った。

 「死」を通してその様を見ていたウォレスは悲しみをその顔に見せた。
(相変わらず間の悪い男だ。そのコインを受け取っていればお前は生き返れたものを)
 物語を締める口上を終えた後、ウォレスは闇に掻き消える。
(もっとも、わしはお前の間の悪い語りは嫌いではなかったがな……)


 ウォレスの古城に立ち寄ったサルバーデルは、そこで夢の中に入り込む。
 中央にいるのはあの時の少年だ。
「約束通り、ふさわしい舞台に参りました。物語の続きと行きましょうか」
 読心術など使うまでもなく、この年頃の少年の考えていることなどサルバーデルにはわかる。さて、心躍る闘争を、と懐に手を伸ばしたところで気づく。
 ここには役者があまりにも少ない。ウォレスにでもマクガフィンを務めてもらおう。
 剣を抜きかけたライの手をゆっくりした動作で押さえ、サルバーデルは語りかける。
「そんな物騒なものをどうなされるおつもりです? 我々は『白の魔王』ウォレスに踊らされていただけだったことが判明したでしょう。ウォレスに道化を演じさせられていたこの【時間伯爵】とともに力を合わせ、ウォレスを討つ――そんなお話でしたな?」
 しばらくぼうっと聞いていたライの両目に、熱い炎が宿る。
「そう――そうだ、過去の禍根は忘れ、ともに戦おう。<新生エクスカリバー>として」
 二人が熱い握手を交わすその刹那、手の間にコインが飛び込んできた。
「私の運命はあんたたちの手の中、ってね」
 ヒヨリが二人にウィンクをして見せた。


 少年の夢は単純な筋書きだ。取り戻せない懐かしさは感じるものの、サルバーデルはやがて飽きてきた。
「そろそろお帰りになられてはどうです、<<ヒーローソード>>。ご家族が心配されますよ」
「家族……?」
 ライはしばらくぼうっとした目をしていたが不意にはっきりした目をしてサルバーデルを見上げる。
「何を言っているんだ? 俺は天涯孤独の英雄、<<ヒーローソード>>だぜ」
 時間は無限ではないが、一刻を惜しむほど希少でもない。サルバーデルはもう少し、少年の芝居につきあうことにした。

[747] 2012/06/30 06:17:48
【ライ:18】 by niv

 ウォレスの放った膨大な「死」によって、古城周辺の死は消耗し尽くされ、霊圧の真空状態を作り出していた。
 劇で死んだ魂が引き寄せられてやって来る。劇場の役者と観客は次第に増えていった。
「あなたはいらっしゃらないのですか?」
 木陰から物語の中心を見ていたヴィジャに、サルバーデルが声をかける。
 即答を避けてヴィジャは話を逸らした。
「……僕に魂があるとは思いませんでした」
 サルバーデルは答えない。しばらくしてヴィジャの方から尋ねる。
「あれは何をやっているのですか」
「演劇です。ただし、今度演じるのは悪役ではなく、英雄です。深みのある物語には二面性や多律背反は不可欠。いかがです、ヴィジャさん。一度悪役を演じたあなたなればこそ、物語に華も添えられようというもの。あの舞台に立ってみては」
 英雄。
 悪役として舞台に立ちながら、ヴィジャの心はむしろ英雄を観る観客であった。いくつもの剣を持ち替えて舞うように戦う彼女の姿は華麗だった。
「英雄になることに意味はあるのでしょうか」
 サルバーデルはそれには答えず、話を逸らす。
「ミゼル・フェルスタークはあなたが正義の振る舞いをするのを喜ばれるでしょうな」
 ヴィジャの重い足が一歩踏み出した。


「遅かったじゃねえか、【熾鉄天使<<メタトロン・オブ・メタル・スローン>>】」
 英雄と言っても何をすればいいのか。悪役はしかるべきところで待ち受けていればよかったが、英雄というのは忙しそうだ。あの少女もよく動いていた。
「ウォレス・ザ・カラーレスの七凶獣、【グリードビースト】をようやく倒したところだ。次に待ち受けるのは人の心を翻弄する【エンヴィビースト】。お前の鉄の心が切り札となるだろう」
 この少年もよく喋る。英雄とはこういったものだろうか。たくさんの友だちを紹介してくれた時計の人もいる。変わった髪形のこの女の人とも仲良くなれそうだ。
「待ちなさい、あなたたち!」
 筋書きにない、突然の乱入者だ。振り向くと、屋根の上にあのお姫様がいる。
「私は魔法公女マジカルハッピー! この私を差し置いて人々をハッピーにしようなんて不届き千万よ! エンヴィビーストは私がいただくわ……これはほんの挨拶代わりよ!」
 グリードビーストとの戦いで足を負傷していたライを、マジカルハッピーの放ったピンク色の光線が狙う。
 ヴィジャは既に為すべきことをわかっていた。素早くライの前に立ち、光線を薙ぎ払う。
「誤解しないでください。あなたのためにやったわけではありません」
 表情一つ変えずに言うヴィジャに、ライは最高だ、という顔をしてヴィジャの背中をはたく。
「お前、行けるクチじゃねえか!」


 木陰で佇んでいたサルバーデルは、物語の中心へとまた歩み始めた。
 サルバーデルには見飽きた物語だが、子供たちにはこれが楽しいのだ。観客席でも子供が【時間伯爵】の怪演を待っている。

 <<ヒーローソード>>一行につき従いながら、サルバーデルは懐から時計を取り出した。針は既に止まっている。
 魂の解放によってアロケーションの解かれた記憶領域は徐々に侵食され、ところどころ白いノイズが走りはじめている。いずれこの舞台は消え去るだろう。
 ――そして、最後に白い光に塗り潰されて、美しくも儚いこの舞台に幕が下りるのです。
 え?、と振り向いたライに、サルバーデルは答えない。ライももう気にしていない。【時間伯爵】はいつも謎めいたことを言っているからだ。

 サルバーデルは仮面の下で笑いを噛み殺していた。
 蛇を連れた友達は、「そんなことは無理だ」と言っていた。
 賭けは私の勝ちだ、友達よ。

 物語は、こんなところで続いていたのだ。

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